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二つの不思議な池

 そこは茶色の世界だった。砂漠が地殻変動を起こし、地下から生まれ出てきたような岩の塊が所狭しと並んでいる。岩をくりぬいて作られた建物に、人が住んでいる。この固い岩にある居住スペース、一体どうやって作ったのか。砂場で作るトンネルなら簡単に穴を掘れるが、雨が降ればひとたまりもない。特殊な機械を使うのか、自然にできたものなのかはわからないが、不便を感じないのだろうかと勝手に心配する。

 

 学校で砂漠という土地を学んだことがあるが、ここは見渡す限り砂ではない。岩窟群が城塞のようにまちを取り囲んでおり、遠くには森もあり、4人の近くに池も見える。「砂漠から生まれた街」といったところだろうか。

 地図と街を見比べ、これからどうしようかを考えていた時、一人の住人らしき男が声をかけてきた。

「おい、キャンディー工場はこっちだぞ。もう仕事が始まっている」

 4人は何のことか理解できずに黙っていると、男も不思議そうにもう一度言った。

「なぜ裏口から来ているんだ?皆、表のバス停からくるのに。もしかして、働きに来たのではないのか?」

「よくわかりませんが、働きに来たのではないです」

 レイが答えると、男は驚いた顔をした。

「キャンディー工場のことを知らないのだな?知っていれば、皆、働きたくなる。今は大忙しで、褒美もいいから、お前たちも働いてみるといい。これが工場のキャンディーだ。来るときは俺に紹介された、と言ってくれ」

 男は意味不明の言葉を残すと、キャンディーを渡して去っていった。

「またキャンディーかよ」

 リュウは不満そうだったが、早速口にいれると、じいさんにもらったものと同じ味がした。あのキャンディーはここで作られたもののようだ。

「おじいさんもここに来たのかしら」

 マナの問いかけに誰も答えなかったが、じいさんがここに来たことがあるのだということは、全員が感じていた。


 ケンが広げた地図には、今いる受付近くに丸が点滅していた。『色をお選びください』とのメッセージが地図に浮かび上がったので、地図の端にある、7つの色から緑色の文字を押してみた。すると入口付近の丸が緑色に変わり、横に赤、青、ピンクの丸が加わった。どうやら他の3人のようだ。レイが赤、リュウが青、マナがピンク。この地図は携帯電話の地図アプリのように、自分たちが今どこにいるのかを、教えてくれていた。


 地図の真ん中には『ネイチャー・キャッスル』と示された建物があった。入口からでも見えるその建物は、お城というよりは、大きな家のようだった。レンガ造りの洋館の周りには、木が生い茂っており、薄暗さを感じた。木の周りを数匹の鳥が飛んでいるようで、遠くからでは屋根しか見ることはできないが、あまりにも大きいので、地図などなくても簡単にたどり着けそうだった。

「公園みたいなところだな」

 リュウの言う通りだった。目の前には大きな池があり、その横には小さな池があった。二つの池の間には木が生え、長い葉が垂れ下がる様は、二つの池を覗き込んでいるようだった。大きな池の上には橋がかかっていて、周りを歩かずとも対岸に行ける。池の向こう岸には塔があり、池全体を見渡しているようだった。小さな池の横には、家のような建物が立ち並んでいる。それらは円を描くように建ってあるので、柵の役割をしているようにも見えた。


「静かね」

 マナは小さな池の水に触れ、近くに落ちていた葉っぱを池に浮かべると、水面に浮かんだ葉はすぐに消えてしまった。不思議に思ったマナは、もう一枚、浮かべてみたが、やはり水の中へと消えていった。

「葉っぱが消えた」

 マナは近くにいたリュウに言った。

「葉っぱが消えたって、どういうことだよ」

 リュウは覗き込んでみたが、水面には何もない。

「きっと葉っぱの重さで沈んだんだよ」 

「そんなことない」

「同じような色だから、見間違いだよ」

「リュウ、ポケットにゴミとか入ってない?」

 トキはポケットからレシートを取り出した。マナはそれを受け取ると、丁寧に広げてから、ゆっくり水面に浮かべた。白色のレシートはゆらゆらと浮かんだあと、一瞬で消えた。

「ほら、やっぱり。生き物でもいるのかしら」

「いや、生き物なら水面に顔を出すだろ。何も見えなかった」

「何だか気味が悪い」


 ケンとレイは大きな池に小石を投げた。本来なら石を投げた後には、「ポチャン」と音がして、水面に波が現れる。それが石を投げた証拠にもなるのだが、一向に音も波も確認できない。不思議に思ったケンは何度も試してみたが、結果は同じだった。そこで大きめの石を拾い、池に落としてみた。石は沈むことなく、水面を移動して、どこかへ行ってしまった。

「石が沈まない」

 二人は声を揃え、リュウとマナの元へ急いだ。

「紙が消えてしまう」

「石が沈まない」

 4人は正反対のことを話した。

「つまり小さな池は物を吸い込み。大きな池は重力に逆らって、沈まないってことかな。水質を調べてみたいな」

 レイは二つの池を興味深そうに観察しながら言うと、何か入れ物を探すよう、提案した。

しかし、街は掃除が行き届いているのか、入れ物になるようなものはなかったので、4人は街中を歩いてみることにした。途中で入れ物になりそうなものがないかを探すためでもあった。



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