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逢魔が時シリーズ

思いは黄昏に満ちて

作者: 魅桜

にゃんにゃんにゃん(2月22日)の日に合わせて、前から出そうと思っていたイヴの母親のお話を書いてみました。

『出逢いは茜色の下で』でイヴが言っていた「お母さんにお手紙かかにゃいと……」のお手紙が出てきます。


(今日も見つからなかった……)


 あの子がいなくなってから数カ月が過ぎたけど、いまだに何処にいるかが分からない。

 ハロウィンの日にいなくなった私の娘、イヴ。好きな相手がいる事は知っていたけど、誰かなんて気にしてもいなかった。


 私たちの一族は成猫したら誰かの使い魔になるのが決まっている。

 まだ幼いあの娘には何も伝えてはいなかった、もう数年すれば教えるつもりで。




 私たち黒猫の一族(シャノワール)は、昔から魔女や魔法使いなどの魔を持つ者の使い魔になって数年ほど修行をし、一人前になってから伴侶を見つけ次代へ繋げる。

 その一族の説明をされるのは成猫になる少し前、能力のあるモノに限るではあったけれど。




 私も主人もそうして使い魔として数年をすごし、契約を終えてから出会い夫婦になった。そして次代(イヴ)を産んだ。

 主人は使い魔をするのが楽しかったみたいで……先日もまた新たな主人を見つけていた。数年帰ってこないのは夫婦としてどうなのかと思う部分はあるが、一族の役目は()()果たしてはいるので文句は言えない。

 長がそう判断したのだから仕方がない。


「はぁ? 夫としての役割くらいきちんとしてからにしなさいよ!!」


 と、思ってしまうのは好いた相手だからなのかもしれない。と、いうか私だって使い魔してるの楽しかったのに!!

 イヴが成猫したら使い魔として復帰しようかなー? なんて思ったりしてる。

 ……のに!! 肝心の娘が失踪。

 しかも好きになった相手について行ったなんて――――


(何それ、何それ。羨ましいんですけどっ!?)


 全国の夢みる乙女なら一度は憧れるシチュエーションだと思う。私だって若い頃は可愛らしい夢を見ていた事もあった。

 とはいえ、何も言わずにいなくなるのは親として心配になる。カラス(アーテル)がその場を見ていたらしいけれど言葉を交わす間もなかったと。しかも相手が相手だ。

 誰だって自分の魂を刈り取られたくはないだろう。




 だから私は、イヴがお散歩した時間を思い出しては散歩コースを巡っている。何かヒントがあるのではないかと思って。

 何も知らずについていってしまったのだろうか? 分からないまま使い魔として使役されているのではないか?

 ……など、不安がよぎる。それに夫は何も知らず誰かの使い魔してるから連絡すら取れない。


 そんな状況の中、なかなか情報も集まらない。

 クリスマスのとある市場で誰かといるのを見かけたというのを聞いた時はとても嬉しかった。あぁ、生きていてくれてる。連絡がないのは寂しいけれど、イヴはまだこの世にいる。なら何処かで会えるかもしれない。

 ほんの少しの期待はすれど、会えないのは分かっている。たまには思い出してくれてるだろうか? 幸せに過ごしているだろうか? 毎日、そればかり考えて。


「イヴ……貴女の誕生日がもうすぐ来るわよ」


 なんて小さく呟いたけれど、その日に帰ってくるなんて事はないだろうし。用意していた誕生日プレゼントを見て溜息をつく。イヴが欲しがっていたプレゼントはずっとこのままになってしまうのだろうか――



 人間の世界でいうバレンタインというチョコで溢れる季節。猫の私には外に出るのさえ嫌になる季節。

 そんな季節に音が響いた。いつもは鳴らない不自然な音。視線だけを窓辺にずらすと見覚えのある黒い影。


「イブ!?」


 と外に出ると誰もいなくて……足元には綺麗な茜色のカードと何か。


『お母さんへ』


 と書かれた可愛い文字に思わず涙が零れる。


『お母さん、突然いなくなってごめんね。私は大好きな人と一緒にいます。

 こないだお母さんの好きなクッキーを焼いたんだよ。

 そしたらね? お母さんにお届けしようって大好きな人が言ってくれたの!!

 どこにいるのかは教えられないけど、時々ならお手紙かいてもいい?


               イヴ』


 そうか、この何かはイヴが私を思って作ってくれたクッキーなのか……ふんわりと香るチーズに思わず私は微笑んだ。


『追伸:誕生日プレゼントもありがとう!! 大事にするね』


 イヴの誕生日プレゼントがいつのまにか家からなくなっていた事に気付いていなかったらしい。きっとイヴの大好きな人が持っていったのだろう。

 他人がいつのまにか家に上がっていた事は気に食わないが、娘へのプレゼントをきちんと理解してもっていってくれたのだから今回は許してあげよう。次はきちんと挨拶くらいしていって欲しい。私の書いた手紙も届けて欲しいから……






 ――ねぇ、イブ? 貴女は今、幸せですか?――



  母猫は大切な娘への思いを黄昏に溢れさせた。




やっぱりまだイヴの大好きなあの人は謎のまま……


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