人は光を求めて
人間にはどんな形であれ光が必要だと俺は思う。
その光というのは一体何なのか、それを見つけるのはとても難しいと思う。
もし、自分にとっての光が見つかりそれをつかむことができたなら、それは人生のなかで一番の幸せだと俺は思う。
遠山 信時、子の名前をつけてくれた母親はもうこの世にいない。
3年前に、まだ俺が小学生6年生の時に母はガンで死んだ。まぁ、母さんがいない生活はもうなれた。高校受験も無事終わって、今日は高校初登校日だ。
「信時、今日も父さんは仕事で帰ってこれんからな。留守番頼む。」
父さんとの会話は俺か父さんが家から出ていくときぐらいだ。
もともと会話が多いような家族じゃなかったけど母さんがいなくなってからは極端に会話が減った。
「わかったよ。最近仕事忙しそうだね。」
「やっと仕事が軌道に乗りはじめたんだ。お前も今日から新生活なんだぞ、文武両道をしっかりして…」
「わかってるよ!ったく…俺はもう行くから。行ってきまーす。」
ああやってスイッチが入った父さんはめんどくさい。逃げるに越したことはない。
「あぁ…いってらっしゃい」
高校に着いて俺は衝撃を受けた。あ、ちなみに俺は自転車通学。30分くらい!話を戻すけど、なぜ衝撃を受けたかというと高校の先生が独特すぎた。
筋肉の塊のような、見るからに体育の先生ぽいやつが校門の前で仁王立ちしてたりそれをからかう女性教師がめちゃくちゃエロかったり…。アニメみたいだった。そんな個性派先生を抜けて教室についた。そして間もなく一人の先生が先生が入ってきた。あ、さっきの筋肉先生。
「はい!全員席についてるか!おれは!今日からここのクラスの担任を務めることになった剛太貴文だ!よろしくな!」
まぢか。
「早速だが!今から全員に前に出て自己紹介をしてもらおうと思う!」
その場ではダメなのか。
「出席番号順だ!1番から!プラスアルファで趣味も言ってくれ!どーぞ!」
こいついちいちうるさいよ!語尾に、!付けないと喋れんのか!この先生は!
そんな突っ込みを心のなかでしている間に自己紹介が始まる。
「えっと…青山 響って言います。趣味はランニングです。よろしくお願いします。」
ボーイッシュな女の子のがトップバッターを飾った。そしてそんなこんなしてるうちに自分の番まで来てしまった。まぁ自分の番が来たからと言って焦りはしないけどね。コミュ症とかじゃないからさ!
「と、遠山 し、し信時です!趣味はサッカーです!よ、よろしくお願いします!」
ミッションコンプリート。我ながらいいできだと思った。えへへ。
さ、次の人はどんな人かなぁー。俺の後ろの席から女の子が立った。そして前へ出る。しかしその女の子はこの短い動作のなかであらゆるところにあらゆるところをぶつけた。ぶつけながら前へ出ていった。大丈夫か?
「すいません…、あ、名前は七咲 光です。趣味はお絵描きです。よろしくお願いします。」
前髪で目が隠れていて、とても小さな声だった。俗に言う陰キャラってやつだ。
前髪で目が隠れているからさっきはぶつかっていたのか。しかし変わった人だな。そんなことを思いながら残りの生徒の自己紹介を聞き、全員の自己紹介が終わった。そして自己紹介が終わるなり筋肉先生は
「次は!係を決める!1つの係に2人つくようにするからな!」
係かー正直なんでもいいなぁー
「俺は、余ったやつでいいです。」
ちょっとカッコつけた。正直楽なやつとか選びたかった。
「そうか!わかった!ではお前はクラス会長だ!」
「えっ!!!」
「なんだ!文句あるのか!」
「無いです…」
まぢか…誰かいなかったのかよ…
「そして!もう一人のクラス会長は!どの係なにも立候補していなかった七咲だ!2人でこのクラスを引っ張っていってくれ!」
おい…よりによって俺がおかしな人だなと思った人じゃねーかよ
「よろしくね遠山くん」
「よ、よろしく」
どこ向いてるかわかんないような感じで挨拶された。やだなー
「よし!今日はこれで学校は終わりだ!みんな明日も絶対に学校にくるんだぞ!いいな!」
はぁ~。あまりいい投稿初日ではなかったな。
「あ!そうそう!忘れてた!クラス会長は新しい教科書等を職員室から教室まで運んでおいてくれ!頼んだぞ!」
追い討ちくらった。
みんなが帰るなか俺と七咲は教科書を運んでいた。というよりは俺一人で運んでいた。七咲は前方の視界が悪いのでいろんなところにぶつかりまくり。教科書を持っていてもすぐにバラバラにちらかす。なので俺がほとんど教科書を持ってる。
「ありがとう遠山くん」
「いや、全然いいよ。でも何で前髪で目を隠してるんだ?自己紹介の時といい、さっきのことといい危ないじゃ…」
「だ、大丈夫だよ!さっきはたまたまぶつかったりしただけで!」
なにか必死に隠しているかのようなそんな慌てっぷりのしゃべり方だった。
「なんか、ごめん。」
「そんな…こちらこそ」
そのとき開いていた窓から強い風が吹いた。なにかを知らせてくれるようなそんな力強い風。そしてその風によって七咲の隠れていた目元が見える。
とてもきれいな目をしていた。長いまつげにどこまでも吸い込まれていきそうな瞳。しかしなにもかも吸い込んでしまいそうなその瞳に俺は、違和感を感じた。
いや「目」に違和感を感じた。
「風、つよいね」
そう俺に向かっていった七咲の目は完全に焦点が合っていなかった。
口に出してはいけない。心に閉まっておけば何のトラブルも起きない。そうわかっていても俺の口は止まってくれなかった。
「七咲、お前目が見えていないのか」
言ってしまった。
「な、なんで」
七咲が今にも途切れてしまいそうな声で言った。
自然と七咲から目をそらしてしまった。
まずい。なにか言わないといけないのに。こんなときだけ自分の口はだんまり。
「さ、さようなら…!」
七咲が逃げるように帰っていった。あちこちぶつかりながら。
「最低だな。俺。」
高校入学初日俺、遠山 信時の青春は幕を閉じかけていた。