8.求む! 察する力
お嬢様の従者になって6日、の夜。
レオハルト様の部屋で爆笑されています。
朝からお嬢様の不気味な態度に戦々恐々としながら本日最大の任務に挑んだところ、見事に失敗してしまったのだ。
魔法理論の講義で名指しで問われるまでは想定通りだった。その後、タイミング良くハゲの話しに回答を挟むのも上手くやれたと思う。回答だって間違えていなかったと思う。何も指摘されなかったし。
しかし、結果として、お嬢様を始めとする同級生とハゲに唖然とされた。つまりは、やはり失敗したということなのだろう。解せぬ。
ちなみにお嬢様は、その授業の後からずっとブツブツ小声で独り言を呟いていて、部屋に戻るなり自室に籠もられてしまった。こういう時こそお説教という名の説明が必要だと思う。長さは5分くらいで良いので。
「で、ロキは何で不可解そうな顔をしてるんだ?」
流石、面倒見の良い変わり者のお貴族様。普通の貴族は、ど平民の様子など気にしません。しかし、お言葉に甘えて、お嬢様のナゾ行動を暴露してしまっても良いものか。
「回答もタイミングも間違えていなかったと思うんですけど、、、皆様が唖然としていたということは、何か間違えていたというコトですよね。」
「ちなみに、どんな質問に、なんて答えたんだ?」
レオハルト様の質問に授業での問答を再現する。何が悪かったかをずっと考えていたので、内容は淀みなく諳んじれた。
「それ、ハゲも茫然としてただろ。」
ひとしきり笑って落ち着いたのか、サイラス様がようやく言葉を掛けてくださった。サイラス様の言う通りではあるが、何故そんなことが判るのか。その察する力を分けて欲しい。
「その気持ちも解らんでもないがな。その答えが出てくる時点で、専修課程どころか研究課程でもいけるんじゃないか?」
コレは褒められているで良いのだろうか。図書館で読んだ本の内容を教科書の不明瞭なところに置き換えただけなんだけど。もしかして、大人がよく言うお世辞ってヤツだろうか。流石、お貴族様は口が上手い。
サイラス様が手本に淹れて下さったお茶を堪能しつつ、話を先日依頼された街の物価調査の報告に切り替える。
レオハルト様から依頼されたのは、塩や砂糖等の調味料、小麦粉、肉、魚等の食材や包丁や鍋の修繕費や納期等多岐に渡った。もちろん1日で調べきれる訳もなく、昨日は優先だと言われていた塩と小麦粉を中心に、調味料関係をついでに調べてきた。
調べてみると、ここ十数年で徐々に値上がりし、ここ3、4年は庶民がギリギリ買える値段で、かつ商店がギリギリやっていけるかいけないかくらいの値段で高止まりしていることが判った。なんでも、仕入れに領主の定めた仲買人がいるらしく、そこで量と価格が制限されているらしい。
小麦粉は、取り敢えず価格は変動していなかった。原料が高騰している訳でもないようだが、ココにも領主の定めた仲買人とかいうのがいた。
「仲買人については、今はそれ以上追わないように。ただ、小麦粉だな。粉を挽いてる工場があるはずだが、できれば、そこの生産量の推移が知りたい。」
塩じゃなくて、小麦粉を追加調査なのは少し驚いた。まぁ、学院を出たら困ることなので、改善されるのであれば、積極的に調査しますよ。
「で、ハゲをやり込めたわけだが、アストレア嬢からの説教は減ったか?」
「説教に慣れて、無いことに違和感覚えてるんじゃねぇの?」
「確かに注意頂くことが減りました。」
サイラス様の言葉は無視して、レオハルト様の問いにだけ答える。身分が高いのはレオハルト様の方なので、そちらを優先しただけともとれるため、失礼には当たらない。断じて慣れてなんていないし、そんなのに違和感を覚えるようになんてなりたくない。
しかし、何故レオハルト様にお嬢様の様子まで察せられたのかが解らない。同じことができるようになったら、ご飯抜きにはならなくなる気がする。
「アストレア様のことだから、今日は部屋に籠って勉強でもしてるんじゃないか?」
見てきたかのように言うサイラス様に、またムクムクと羨ましさが募りだす。その察する力を分けて欲しい。いや、ホント切実に。この後、お嬢様のお部屋に戻った際、どう振る舞えば良いのか分からないんです。
それに魚屋の親仁も言ってた。
「女の言葉ってぇのは、真に受けちゃなんねぇ。あいつ等の求めてる言葉を察して返してやらんと、、、ヤベッ、見つかっちまった。」
ちなみに、魚屋の親仁が逃げてたのは、親仁の嫁さんです。どうせ家に帰ったら捕まるのに。