47. 八百屋のオジさんが偉大だった件
レオハルト様に同室を提案された翌日。
どこから耳に入ったのか、お嬢様に尋問を受けています。
「勝手に従者を辞するつもりですか?」
遠くの国で「正座」と呼ばれる姿勢で、契約と主従について懇々と説かれて半時。足の指の感覚が明らかにおかしい。お嬢様は礼儀だと仰っていましたが、拷問の間違いじゃないだろうか。
「いえ。まだ、なぜプラトンの街が狙われたのかという点が解明されていないので。」
「では、なぜ、あなたがここから出ていくという話になっているのかしら?」
「年齢的に、この先も保護者のいない状況で異性と同室なのは外聞が悪いのではないかという懸念からだそうです。」
特にやましい事はないので正直に答えたら、お嬢様が百面相を初めた。
きょとんと、一瞬なにを言われたのか解らないかのように目を瞬かせた後、首から上が真っ赤になって口をパクパクと戦慄かせていらっしゃいます。
きちんと理解いただけたようだが、逆に若干尻の座りが悪く感じるのは仕方ないよね。だってこっちもお年頃なんだもの。耳が異様に熱い。
「お嬢様の疑義は解消されたようですし、自室に下がらせていただきますね。レオハルト様の指摘も当然のことだと思いますし、当人である私どもからだと要らぬ心配をさせてしまう可能性もありますので、レオハルト様の方から侯爵様に伺いをたててくださることになっています。」
自分が身長一ミリも伸びてないんじゃないかってくらい何も変わっていないからこそまだ悪し様に言う声は聞こえてこないが、冬期休暇の間に女性らしさが増したお嬢様は噂になり始めている。噂話は下世話なほど広がるのが早く、囃し立てられやすいというのは庶民も貴族も同じらしい。
全く成長期らしい結果がないことに感謝する日がくるとは思ってもいなかった。まだ半年も一緒にいないのに情が移りまくりだなと思うが、特に悪い気もしない。
貴族は苦手というか嫌いだと思っていた過去の自分が聞いたら、医者に相談しろとでも言うかもしれない。
取り敢えず、明日は何事もなかったかのようにいつも通りに、かつ絶対噂には近付かない、近付かせないようにしなければ。お嬢様と2人で遭遇したら、居た堪れなさ過ぎて耳が熱くなるだけで済みそうにない。
本屋のじいさんと違い、手をつなぐだけで緊張するなんてことはないが、口付けなど踏み込んだお付き合いの噂など聴いた日にはどう反応していいか困る。
触れ合う場所が手じゃなくて口になるだけと侮るなかれ。日常で目にすることのない場所や触れる必要のない場所に触れるのは非常に羞恥を覚えるのだ。着替えなんて最たる例だろう。
八百屋のオジさんみたいに、触れ合うことを恐れず、日頃から誰彼構わずに触れていればこんなに照れることはなかったのだろうか。奥さんに怒鳴られてばかりの駄目な大人とか思っててごめん、八百屋のオジさん。




