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46. サイラス

 サイラスがレオハルトに仕えて11年になるが、サイラスはレオハルトが照れるという珍しい場面に遭遇していた。


 レオハルトはサイラスと出会った5歳の時から既に年齢不相応な落ち着いた佇まいで、取り乱すという場面がほとんどなかった。

 幼かったサイラスは不気味に感じたが、親からの叱責を恐れて我慢した。物心つく前から主君として仰ぐように教育されていなかったら傍にいることを嫌がっただろうが、10年も経つ頃には軽口を叩くのが常態化していた。


 プラトンにある学院に入ってからもサイラスの日常は特に変わり映えのない日々だった。屋敷だろうと寮だろうとレオハルトは変わらず、サイラスの仕事も変わらない。ただ屋敷から送ってこられたレオハルトの仕事をレオハルトに渡し、指示された資料を集めてくるだけ。従者仲間も仕事に関しては似たような状況だったので、オルクス派の家はそんなものなのだろう。

 

 そんな日常にロキという少年が混ざるようになったのは、学院に入って2年目の初冬だった。


 サイラスはロキが一般的な入学年齢である15歳だと思い込んでいたのもあり、アストレアと同室だと聞いた時には流石に諫言すべきか悩んでしまった。後にまだ13歳だと知った時もやはり、忠言すべきか迷った。サイラスから見たら、レオハルトは感情が理性を凌駕することもあることを理解しているようには思えなかったし、一般常識から逸脱しがちなアレース侯爵は論外だった。


 しかし、サイラスは結局何も言わず、様子を見ることを選んだ。

 高位貴族に対して畏怖も下心も、憎悪もなく話すロキにレオハルトが少し気を許しているように感じたからだろうか。気付いたら、サイラスは常よりレオハルトの機微に気を配るようになっていた。

 レオハルトは今までも時折気晴らしに外に出掛けていたが、目に見えて浮かれていた。何が変わったというわけではなく、あくまでサイラスから見てだが、明らかに楽しそうにみえた。変わったのは、ロキが加わったこと。もともと弟妹の面倒見は良いレオハルトだが、ロキとの関係はそことはまた少し違っていた。


「サイラスと部屋を替わるか?」


 後期の授業が始まってすぐ、成長著しいアストレアに常識を思い出したレオハルトがロキに提案した。

 サイラスの部屋はレオハルトとの続き部屋になっているのだが、自分のことは自分でやるレオハルトにサイラスが続き部屋である必要性は全くない。学院で同室である理由は単に慣例を破るのも面倒という理由だけだ。サイラスに異論はない。


 ただ、なんでも卒なく熟すレオハルトにも苦手なことはあったらしい。レオハルトは今までにも友人らしき関係を結ぶことはあったが、基本的に主従でもある彼らとロキは勝手が違っていた。

 そもそも、サイラスが見る限り、ロキはそもそも友人という関係性がどういう関係なのかよく解っていないようだった。

 埒が明かないと思い、サイラスがレオハルトに明確に言葉にするよう提言した。確かに、自分では友人だと思っていたことが一方通行だったことを識ったことも羞恥心を覚えるであろうことだが、改めて友人になりたいと伝えることも物語を真似ているような気恥ずかしさがあるだろう。

 しかしサイラスは、レオハルトは特になんの感慨もなくロキに伝えると思っていた。己の主は歯が浮きそうな台詞になんの抵抗も持たないと思い込んでいた。照れる顔を見ることになろうとは一切想像していなかった。


 だからサイラスは、レオハルトからそんな表情を引き出したロキを今まで以上に可愛がってやろうと決めた。ロキはロキで面白い反応を返してくれそうだというのも理由の一つだった。

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