37.知りたくなかった情報
冬期休暇19日目。
今日はイーサン様と郊外の魔獣退治に来ています。
イーサン様の活動は基本高額な魔獣退治のため、単独で出掛けても良いとは言われていますが、なんとなく一緒にお願いしています。
「ロキはいくつなんだ?」
「十三です。」
「歳の割に小さいな。ウチの領基準だと、十にも見えんな。」
「成長期これからなんで。」
イーサン様はレオハルト様よりさらに頭一つ分ほど背が高い。イーサン様の領は魔獣被害が多く、物心つくと同時に誰もが鍛錬を始めさせられる環境だそうなので、皆成長が早いのだろう。そうであれ。
「そうだな。ところで、ロキは何故学院に通うことになったんだ?普通に手に職を、となれば、高等学校までの方が都合が良いだろう。」
学院どころか高等学校さえ行く気はありませんでしたよ。
「学院長に三食賄い付きの宿屋に興味はないかって声を掛けられまして。」
「まさか、ソレにつられたのか?」
イーサン様が呆れた顔で見下ろしている。確かにコレだけ聞くと簡単に詐欺に引っ掛かりそうに思ってしまうが、ソコは流石に学院長。
「プラトンで学院長を知らない人なんていませんし。それに言われたんです。貴族でもないのに魔術が使えると殺されるって。」
貴族に見つかると難癖つけられて暴行にあったり、こっそり殺されたりするのでかわいそうという理由だったのだろう。
「意外と人格者だったんだな、学院長。」
イーサン様には人格者に見えてなかったということだろうか。外面は物凄く良い人だと思うけど。
「学院内の悪感情をお前に集中させたら逆に揉め事が減って楽だとかいう理由で連れてきたのかと。」
「それもあったみたいですけど、コチラとしても見つかると面倒ですし、衣食住は確保されますし。両得ってヤツですね。」
腹黒さはあれど、そこは偉い人なので織り込み済みです。腹黒くて性根が腐ってるのは問題だけど、清廉潔白だけど正義感だけで物事を進めようとする人も問題だと思うし。
「プラトンの地領は、多少問題はあれどシャイターン全域で見れば暮らしやすい部類のはずだが。ロキのいた孤児院の財政は結構逼迫していたのか?」
「相対的なことはよく判りませんが、孤児院があった頃は、取り敢えず食事は1日1食あればよくて、それも野草じゃなかったらごちそうでしたね。」
1日2食どころか3食出てきて、その食事は最低でもスープに具があるだけじゃなくて肉まで入っていて、さらにはパンまで付いてくる学院の食事に惹かれない子どもはいないと思います。
「それは、、、劣悪過ぎる孤児院だな。」
「そうなんですか?」
「それだと餓死者が出てもおかしくないだろう。そもそも孤児院は国と領主、神殿の三者で成り立っている。孤児院の事務方を領主が雇い、世話人は神殿から派遣される。国と神殿からの補助金だけで最低限の衣食住が保証されることになっている。ウチの領地だとそれだけでも1日2食パンとスープといったところか。」
なるほど。お互いに不正を防ぐことができ、神殿は孤児の世話をすることで信仰心を育み、国は労働力を確保できる。なんて効率的。
「まぁ、神殿も貴族も体面を気にする輩ばかりだからな。財政や市場なんかを測る材料にもしている。孤児であるお前達からすると、あまり気持ちの良いものではないだろうが。」
「いや、衣食住が揃っていればそれで。欲を言えば、病気の治療をうけられたらとは思いますが。」
「本当に劣悪な環境だったんだな。普通、孤児院は治療院を兼ねているから、よほど危険な伝染病が流行しない限りは真っ先に治療をうけられるぞ。」
他所を知らずに過ごしてきて良かった。それを当たり前としていたからこそ耐えれたのだと思う。
火傷が基で感染症にかかって死んだ子ども、風邪が酷くなり肺炎になって死んだ子ども、乳が足りずに死んだ赤子。
「他領とは言え、気付けず、正すのに時間がかかってしまって、すまない。」
「イーサン様達は何も悪くないじゃないですか。」
仕方のないこと。解っているのに、胸が苦しい。ソレを知っていても、何もできることはなかった。解っていても胸は苦しかった。




