32.事件の終わり
プラトンの街に帰ってきて13日。
ティグリス様から連絡があって、ポイポス家から嫁いだジュノー家の奥方が見つかったらしい。子供と一緒に東部の国境近くに隠れるように暮らしていることが確認されたそうだ。
「ティグリス達には待遇や、隠れるように暮らしている理由を調査してもらう。わざわざ領地外でかつ特に目立つでもない街にいるということは、大方、跡目争いを避けるためか、暗殺から守るためだと思うがな。」
「こうなってくると、ジュノーもポイポス領の異常に気付いている可能性がありますわね。奥方が実家との連絡を絶ったのは、ポイポス家にさえ居場所を知られる訳にはいかなかった。または、ポイポス家内を信用できないがために便りを送ることはできなかった。そう考えることができるのでは?」
「十中八九、当主は気付いているな。奥方が何年も縁も所縁もない土地で暮らしているんだ。家、生活費、使用人等々を用意するには、実家か当主の手助けは必須な上に、奥方が静養先に移動したのは8年前。子供は4歳だ。」
つまり、当主は内密に奥方の所に通っているということね。じゃないと、子供は誰の子だってなるもんね。そう考えると、ジュノー家の当主は元気だな。20歳を過ぎた子供がいるのに、わざわざ王都から3日以上かけて移動して、それから子供を作ったってことでしょ?
「こうなると、ジュノーとの繋がりがないのが痛いな。」
「仲が悪いんでしたっけ?」
「そもそも話したこともないな。実は、為人もほとんど知らん。」
「え?」
「建国以前からの話だからな。根深いんだ。」
もともとシャイターンは6つの小国が寄り集まってできた連合国だ。連合国となる前は、慣習の違いから小競り合いは後を絶たなかったらしい。しかし、南部の大国や隣国の政変、他国の圧力が高まる中、国力を高めるために信じる神を同じくする者達が手を取った。アレース家やポイポス家、パレス家などが主家と仰ぐオルクス家やジュノー家はそんな小国時代の王家の血筋である。そのため、当時対立が激しかった家同士は、連合国となった後もその関係性を引きずり続けている。
「ほぼ洗脳に近いな。物心つかない頃から常に悪し様に罵る声を聴いて育つからな。自然、近寄ろうという気はなくなる。」
「多分、ロキが思う典型的な貴族という感じではないかしら。平民は人と思わず、既得権益に固執した腹黒な連中よ。話したことないけど。」
「パラス家でさえジュノー家とは折り合いが悪いですからね。イーサン様の所はやはりジュノー家と姻戚のトゥール家と繋がりがあるので、まだましではないでしょうか。」
「10代以上重ねたわだかまりだからな。ポイポス家と繋がりができただけで奇跡だろう。」
「お父様からもナルシスおじ様からも、あまり良いお話を聞いたことがありませんわよ。期待はできないのでは?」
「そのナルシスおじ様とやらも、私が聞いている話だと相当な悪人だぞ。」
「右に同じですわ。」
多分、ジュノー側も同じなんだろうということが伺える会話デスネ。もうね、感覚がね、規模がね、取り敢えず平民とは違うということはしっかり理解できましたヨ。
「この後はどうするんですか?」
「取り敢えず、偶発的に計画がほぼ頓挫したようにみせれたのは大きいな。ジニに定期的に報告してもらうとして、この街のことは成り行きに任せよう。」
ジニとは、生き残った誘拐犯の1人で、被害者達をそれとなく守ってくれていた人の名前である。本人は誘拐事件前から罪悪感で精神的に疲れており、誘拐を期に逮捕されようとしていたらしい。元々孤児で、雇われたのは20年前らしく、当時はただ小麦や塩等の物価を報告するだけの簡単な仕事だったらしい。
誘拐犯を尋問した後は結局、死体と残りの1人を警備隊に突き出した。警備隊の尋問に同席して、何も言えないままもう一人は死んだらしい。子ども達の話を聴く限り本当のクズだったようなので、戻ってこないと分かって逆にホッとしてしまった。
ジニは潜入捜査していたという態で子ども達に説明し、誘拐犯は5人だったことになっている。警備隊も、買収されているのか、子ども達の親がそこそこ大きな商家だったからかは定かではないが、子ども達に対してはほとんど質問してこなかったらしい。結果、この誘拐事件は犯人は全員死んだが被害者は全員無事に救出された普通の誘拐事件の1つとして幕を閉じた。




