26.仕込み
プラトンの街に帰ってきて9日。
ペルシア様が起きるまではいつもと同じという言葉通り、何も知らないフリをして、何でも屋に行く。
「親仁、何で今日は雪塩草の依頼がないんだ?」
「塩問屋から、引揚げ要求が来たんだよ。お前らがいっぱい採って来るから、在庫がダブついてんじゃねぇか?」
何でも屋の親仁は何も気付いていない態でレオに応えているが、恐らくはモニークさんの事情もコチラの事情も察しているようだ。いつもより口数が多い。わざとらしくペルシア様がいないことに言及してくる。
「ペルシアは風邪ひいたらしくてな。今日は休みだ。」
当たり障りのない雑談の上、レオはいつも通り雪かきの依頼を受け、郊外の討伐依頼を受けた。ただ、雪塩草の依頼がない分、討伐依頼の数が若干多い。日銭を稼ぐ冒険者であれば、よくある対応だ。もし仲買人がココを見張っていたとしても、特に不自然には思わないだろう。
「レオ。私、やっぱりペルシアが心配だわ。」
「じゃあ、帰って看病してあげてくれ。こっちはこっちで、取り敢えず稼いどく。」
「買い物して帰るけど、何か必要なものはある?」
ちなみにコレも仕込みである。お嬢様は意外に演技が上手い。
雪塩草の依頼を毎日受けていたため、尾行される可能性があるということで、二手に別れての撹乱作戦である。お嬢様はこのあと塩問屋もある商店街に寄って、食品やら日用品を適当に買ってから帰宅、その後、王都やティグリス様達への魔術での連絡準備をして待機の予定である。昨日、既にその辺りは各所に連絡済みで、念話ができるオフィーリア様とティグリス様が終日待機しているらしい。
念話は遠くの人と話したり状況を共有したりするのに便利な魔術なのだが、かなり制約が多く、適性がある人も少ない。しかし、お嬢様達は得意不得意はあれど王都にいるイーサン様やサイラス様など全員受信は可能らしい。発信ができるのはお嬢様、ペルシア様、オフィーリア様とティグリス様。イーサン様はオフィーリア様とペルシア様にだけは発信できるらしい。レオハルト様は苦手らしく、かろうじて受信ができるとのことだった。が、前提として、念話はそもそも適性がある人自体少ない上に、習得がかなり難しい高等魔術である。普通の人は苦手じゃなく使えない。相変わらず、常識をどこかに忘れてきている面子である。
兎にも角にも、レオと2人で雪かきをしながら街の外に向かう。雪かきをしてできる雪壁や雪山は死角を作り、毎日降り積もる雪は音を吸収し、視界を遮る。尾行しやすくもあるが、ソレを巻きやすくもある。特にお嬢様達が開発した魔術による雪かきは撹乱にはもってこいだった。




