24.ペルシア=デラ=パラス
ペルシアは幼い頃から姫巫女候補として、現姫巫女である叔母の下で過ごすことが多かった。そのため、敬虔に神に仕えている神官以外にも、清濁呑み込んで貴族や商人、庶民それぞれの不満を調整して安定を図る神官や貴族や商人、果ては犯罪組織と癒着して神殿を隠れ蓑に犯罪に手を染めた神官など、様々な者を見てきた。
また、犯罪に手を染めるような神官や貴族からは姫巫女に対する人質として、犯罪組織からは姫巫女候補という希少性から、そして敬虔過ぎる神官からは教義の解釈の正当性を謳う旗頭として、幼い頃から拐かされかけることは日常だった。
そんな環境に育ったからこそ、誘拐された時に対抗する術がない恐怖については身に沁みて解っていたし、誘拐犯からの連絡を待つだけの時間の長さも理解していた。
しかし、ペルシア達は塩問屋に雪塩草を卸すとすぐに、皆でカエデが待つ家へと帰ってきた。あの場にいたほとんどが長居することの危険を理解していたからだ。塩問屋は誘拐犯からの忠告によって、理由は違えどレオハルト、アストレアもそれが日常だったから。
「ロキさんは、空気を読むことがお上手ですよね。従者になって日が浅いなんて噓みたいですわ。」
「あー、そういう輩に口答えしたら、袋叩きにあうんで。学院でもよくいましから。」
「嘆かわしいですわ。貴族としての誇りはないのかしら。」
塩問屋の呟きが聞こえていないはずがなかったロキが何も言わずに引き下がったのは、学院で噂される貴族による平民への嫌がらせが原因らしい。
「こういう場合、娘さんが殺されている確証がない限り、犯人の言うことを聞いておく、他者に漏らさない、は鉄則ですわ。なので、私達も表向きは知らない振りをする必要があります。」
「しかし、こういったことに慣れていないモニーク氏が、他者に漏らしてしまうのも時間の問題だろう。」
「ペルシア様もレオハルト様も、こういった案件を扱ったことがおありなんですか?」
「当然でしょう?」
「オルクス家やアレース家は特別ですわ。敵も多ければ、金品目当ても狙ってきますから。私も先日少しお話しましたが、叔母が特殊な立場にいますので、そういう厄介事は多かったんです。」
幼少期に他人との交流が少なかったからか、言葉足らずのきらいがあるアストレアの言葉を補足する。物心つく前からの付き合いのため、流れるように言葉が出てくる。
「取り敢えず、モニーク氏の娘の安全を確保を優先しろ。ペルシア嬢。」
「えぇ、恐らく問題ないかと。では、失礼致します。」
パラス家には夢見の能力を持つ人間がよく生まれる。誰かの夢に入ったり、誰かと夢を共有するだけの能力ではあるが、秘密を持ちたい人間には嫌厭される。誰しも夢を制御するのは難しく、人は眠らずにはいられない。畢竟、夢見の能力を持つ者は、他者の秘密を知ることができる。
誘拐された人間は、意識があろうとなかろうと、夢が恐怖に彩られる。姫巫女候補として修錬を重ねた身であれば、見ず知らずの人間だろうと、その特徴的な色で夢を特定できる。
夢見の能力を知ったロキがどのような反応を示すのか気になるところではあるが、事態は一刻を争う。早々に身支度をして夢を追う必要がある。
ペルシアにとって、ロキの反応は些末事に過ぎない。ロキの反応がどうであろうと、ペルシアの優先事項は、優先順位は変わらない。それでも、どこか気になってしまうのは、たった7日程度の暮らしを殊の外楽しく感じていたからだろう。
起きた時に向けられるであろう警戒を滲ませた視線に、寂寞を感じながら、ペルシアは夢の世界に足を踏み入れた。




