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更級先生  作者: 識名紙織
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第五話 誰も全ては知らない

 入学式が月曜日、高校の初回授業(かつ数学の初回授業)が火曜日で、今日が金曜日。そろそろ部活を決めねばならない。水曜日に一通り見てきたがイマイチピンとくるものがなかった。だが部活動は何かしら入らねばならない。この前の疑問ついでに更級先生に相談するか。


 「更級先生、質問があるんですが。」


 「今食事中なのだけれど。」


 そう、今はお昼休憩。食堂で親子丼定食を注文し、同じく親子丼定食を食べていた先生の前に立っている


 「じゃあ一緒に食べましょう」


 「まあ良いわよ。で、質問は何?」


 「この前、『根本的に間違っているかというとそうでもない』と仰ってましたがどういうことですか?」

 

 この人すげぇ。食事中も背筋伸びてて所作がいちいち丁寧。もしかして結構いいとこの生まれ?


 「あの話ね。あれは「ここしかない」という発言が論理的におかしいだけで、『自分の知りうる中でここしかない』なら何も間違っていないのよ。」


 「結構違いませんか?だってここしかないとは限らないんですよね?」


 「じゃあ聞くけど、貴方は自分の知らない範囲について何を保証できるの?」


 …ふむ。知らないから知らない範囲内にあるんだよな。そりゃあ何も分からないよなぁ。


 「出来ません。でも、数学では常に成り立つ定理とかありますよね?内角の和とか。あれはなんで分かるんですか?」


 「ふふっ。これは非ユークリッド空間の話をしなきゃいけない流れかな?高校範囲を超えるけど、興味ある?」


 ねえよ。大学受験に使う範囲だけ教えてくれ。


 「ないです。」


 「えっ?」


 「えっ?」

 

 反応を間違えたかな?この人凄く悲しそうな顔してるんだが。喋りたいの?


 「ええと、じゃあ聞きます。」


 ぱぁぁ、と大輪の咲いたような笑顔になる。何この可愛い生物。


 「ええと、三角形の内角の和は180°って習ったよね?」


 「習いましたね。違うんですか?」


 「青森とニューヨークって大体緯度が同じなんだけどね。」


 なんの話?


 「青森とニューヨークの間に紐をピンと張るの、想像できる?」


 「出来ます。」


 「今度は同じように青森と北極点に紐を張って、ニューヨークと北極点にも紐を張るの。で、その紐って、それぞれの都市で内角を測ったら何度だと思う?」


 青森とニューヨークは緯度が同じだから、∠青森ニューヨーク北極点は90°で、∠ニューヨーク青森北極点も90°…あれ?


 「青森とニューヨークの緯度って差は何度ですか?」


 「多分110°くらい。」


 「つまり内角の和が270になるんですね。」


 「そう。紐はピンと貼ってるけど、それは君が想像する『線分』じゃないから内角の和が狂うのよ。」


 「でもそれは直線じゃないです。」


 「でも、『ある2点間を二次元空間内の最短距離で結ぶ線』よね。これって線分じゃない?」


 「いやでも面が曲がってるじゃないですか。」


 「面が曲がってないなんて誰が言ったかしら」


 ふむう。納得いかん。


 「でもあなたは『青森-ニューヨーク間に紐をピンと張る』と言われて地上にピンと張ることを想像した。それはあなたが無意識にそれを面と認識したのではなくて?」


 それはそうだが。


 「こういう感じで、定理というのは知らない範囲については適応できないことがあるのよ。ただ、勿論あなたの言う「線分」で区切られる三角形は常に内角の和が180°よ。」


 「なるほど。定理に書いてはいないけれど、『ユークリッド空間内に於いては』常に成り立つんですね。」


 「まあ、正直今の説明はこじつけに近いのよ。でも、誰でも自分の知りうる範囲でしか語れないけど、自分の知り得ない世界もあるってことは覚えておいて欲しいかな。」


 「先生にも知らないことはあるんですか?」


 「当たり前じゃない。少し考えたら分かるでしょ。いろは坂の猿じゃないんだから少しは頭を使いなさい。」


 こいつ……さり気なく……頭○字Dのセリフを……。


 「じゃあ私は食べ終わったから行くわよ。また後でね。」


 「ちょっ。俺まだ箸付けてないんですけど!」


 いつの間に食い終わった!?あと、ついでに聞こうと思ってた部活の件聞き忘れたわ…。

 

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