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更級先生  作者: 識名紙織
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第二話 数学教師は数学を(一)

 「今日は集合を教えますが、これはこの後学ぶ必要条件と十分条件を理解するためのステップと考えてください。きちんと理解するように。さて、集合ですが――」


 結論としては更級先生は優秀だった。正確で分かりやすく淀みない説明、無駄を省き短い時間で説明しきる技量、生徒の理解度に合わせその都度補足する対応力、どれを取っても今まで俺が受けてきたどの授業の先生よりも優秀だった。


 「簡単と思う人も多いでしょう。実際それほど難しいことはしていません。この後学ぶ必要条件と十分条件も概念自体はそれほど難しいものではないのです。しかしこれらを使いこなせるようになるにはそれなりに時間が掛かります。」


 そうだろう。何せ使い方が分からない。当たり前のことを小難しく言ったに過ぎない。


 「ド・モルガンなんてのもありますね。さして難しくもないので覚えましょう。」





 授業が終わってもいまいち使い方が分からなかった。他の人は部活動の見学などをしに行ったが、俺は何故か更級先生に会いに行く方を優先してしまった。


 「1年B組の穂積です。更級先生はいらっしゃいますか。」



 「はい。質問かな。書くものは持ってる?立って話すのもなんですし、セミナー室で聞きましょうか。」


 先生は既に紙と筆記用具を持ってドアまで来ていた。で、セミナー室…?ああ、なんか少人数の授業やる小さい教室があるんだよね確か。なんで「セミナー」って言うのかは謎だけど。


 「はい。持ってます。」


 家庭科室の調理机くらいの大きさの机が一つと椅子が八つほどあるだけの小さな部屋。


 「…で、授業の質問かな?」


 「はい。ただ、なんて言うのか…」


 詰まっても急かさない。本当に不思議な先生だ。おそらく二十代であろうはずなのに、行動の一つ一つが若い先生のそれじゃない。一つだけならあり得る。でも、その全てが計算され尽くしている。


 「これは不満をぶちまけてる訳じゃなくて、単純に、集合を何に遣うのか分からないんです。さっき必要条件と十分条件も調べて一応理解したんですが、そっちも何に使うのか分からないんです。」


 「もう調べたの?早いわね。けど、分からないのはそうでしょうね。そんなのが簡単に分かるようなら先生なんて要らないわ。」


 常に微笑を讃える顔が少し緩む。


 「穂積君、ちょっと脱線するけど、数学って何のために学ぶと思う?」


 「色々な理由がありますが、まずは基本的な計算能力を身に着けることですかね。」


 「それは『算数』よ。少なくとも私の中ではね。四則演算に始まる単純計算は小学校と中学校で終わり。」


 「計算ではないとすると、理屈が多くを占めるってことですか?」


 「中学校の『数学』や小学校の算数と、高校の『数学』はかなり違う。必要な知識も、答えを出すまでの計算及び論理の過程の多さ、そしてそれにともなう所要時間、全てが多い。」


 「……。それで……?」


 「文部科学省がその過程で何を学んで欲しいかは分からないけど、私はその中で『論理的に話を進める力と論理的に理解する力』を養ってほしいと思ってるのよ。」


 「……それは国語では?」


 「国語だけでは足りないわ。国語は論理の組み立て方。数学は論理的かどうかを判断する力。話を進めるけど、私は極論を言えば高校の数学は必要条件と十分条件を学ぶために存在していると言っても過言じゃないと思ってるの。」


 「あんなの一回で説明終わりますし、概念の理解も難しくありませんよ。」


 「貴方、私の授業ちゃんと聞いてた?私は『概念自体はそれほど難しくない』って言ったわよ。でもね、常にその二つを使って考える癖をつけるのは結構時間が掛かるのよ。」


 この日から俺の習慣になる放課後質問タイム第一回は数学教師らしく数学の話で幕を開けた。


 




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