第一話 ガイダンス
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「1年間皆さんの数学の授業を担当する更級美幸です。何か質問はありますか?なければ、授業を始めます。」
春、それは期待と不安で胸を一杯にして新たな生活の訪れを感じる季節、と言うのが一般的な説明だ。しかし多くの男子にとって、それはあまり正確ではない。テンプレの挨拶を聞く入学式、クラス分けが発表され、担任紹介があり、教科書等を配布し、翌日から授業。高校生にもなればそのくらいのことは想像がつく。
最初の授業は数学だった。初回の授業は大抵ガイダンスで終わる。適当に話を聞いておけば楽な一日。しかし予想に反し、ガイダンスが十秒で終わってしまった。
「え?自己紹介とか持ち物とか授業の進め方とかないんですか?」
確か安藤とかいう名前のやつだ。そうだぞ。もっと言ってやれ。
「自己紹介は足りませんでしたか…?皆さん私個人についてあまり興味はないだろうと思って最小限に留めたのですが…。」
言うねぇ。
「…あ、いえ、なんでもないです。」
もう少し粘ってくれ。肝腎の持ち物と授業の進め方について解決してない。
「持ち物は入学式の日に配られたプリントの通りです。」
普通確認くらいはするだろう。
「授業は日によってプリントだったり教科書だったりしますので、初回で説明することは特にありません。確かにこれは言うべきでした。ごめんなさいね。」
いやいや、ごめんなさいねではなくて、流石にガイダンスの終了が早すぎる。
「初回はプリントを配ります。」
そう言っていきなり配り始める。もうストップは掛からない。
「初回の授業は『集合』です。では皆さんノートを開いて。」
俺、穂積透の高校最初の授業は、僅か1分で開始された。
彼女が単なる数学教師でないことが判明するのにそう時間は掛からなかった。