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ツルギの旅立ち

「このスープ、とても美味しいです」

「そう?良かった」

 盗賊を退けた僕達は焚き火を囲み遅めの夕食を取っていた。武士としては不本意かもしれないが火種はムサシの刀を利用させてもらった。自分の魔導人形とはいえ刀をそのように使ったことに関しては若干の負い目がある。


「便利ね、ムサシちゃんの能力。火種だってタダじゃないもの」

「ははっ。そういってもらえると光栄です。……ところでさっきこの人形は自分のじゃないって」

「ええ。あなたの使った人形、それにその服も一緒に旅芸人をしていた弟の物なの」

「えっ!弟さんがいたんですか!?」

「更に言えばそれは旅芸人だった両親の形見。私は母から、弟は父からそれぞれ受け継いだのよ」

 静かに語るディーネさんは少しだけ悲しそうな表情をした。


「いろんな国を旅する私みたいな人にとって魔導人形は必要不可欠なものなの。さっきみたいな人達から身を守る為にね」

「失礼ですけど、ご両親は……?」

「死んじゃったわ。二人とも。旅の途中の流行り病でね。……あっ!気にしないでね。随分前のことだもの」

「そうだったんですか……。ところで弟さんは?」

 たった数秒。僕達の間に夜の静寂が流れた。しかし、その重苦しい空気のせいか僕にはもっと長く時間が経ったように思える。


「弟はちょうどあなたくらいの歳だったわ。でも、少し前に弟も死んでしまったの」

 震えるディーネさんの声に顔を上げると彼女の頬を涙が伝っていた。

「弟さんも病気で?」

「ううん。殺されたわ」

 突如現れたその不穏な言葉に僕は目を見開いた。

「殺された?一体誰にですか?」

「……わからないの。ここからずっと北に行ったところにそこそこ大きな町があってね。私達姉弟は当時そこに泊まっていたの。でも、その夜にあの事件が起こったわ。……魔導人形の集団による襲撃。私達は何が起きているかも分からないままただ逃げたの。でも、私は逃げ遅れて……。弟はそんな私を庇って……」

 そこまで話すとディーネさんは泣き崩れてしまった。


「ごめんなさい」

 少し落ち着きを取り戻した彼女は謝罪の言葉を口にした。

「何がですか?」

「ツルギ君が弟に似ていたから、私ツルギ君にあの子を重ねて見てたの。勝手にそんなこと……迷惑だったよね」

 なるほど。こちらで目を覚ましてからずっと感じていた疑問。何故彼女は僕に優しくしてくれるのか?その答えがようやくわかった気がする。

「迷惑なんかじゃありませんよ。ディーネさんがいなかったら僕は死んでます。」

「……ありがとう」

「さあ、もう休みましょう!ディーネさんもお疲れでしょうし」

 ディーネさんを伴ってテントへ向かった僕は一瞬思考が停止した。

「あの、テント……一つだけですか?」


「ごめんなさいね?今まで一人旅だったから。」

「い、いえ!だだだ、大丈夫です!」

 狭いテントの中。僕はディーネさんから顔を背ける様に寝返りを打った。よほど疲れたのだろう。背中からはすでにすうすうという寝息が聞こえくる。このままでは緊張で眠れそうにないと思った僕は、ギュッと目を瞑り今日起こったことを振り返っていた。どこまで記憶を辿っただろうか?知らない間に僕も深い眠りへと落ちていった。


 翌日の朝、テントの中には僕一人しかいなかった。昨日のことは全部夢だったのではないかとも考えたが、枕元に置かれた魔導人形を見つけた途端、一気に現実に引き戻された。


 とりあえず顔でも洗おうと昨日の水場に向かうと、既に先客がいたようだ。深い紺色の長い髪が風に揺れ、とても絵になるその女性。ディーネさんに僕は挨拶をした。

「おはようございます。ディーネさん」

「あら、おはよう。ツルギ君」

 僕に気が付くと彼女はにっこりと微笑んだ。

「昨日はごめんなさい。恥ずかしい所を見せちゃったわね」

「いえ、そんなことは……。所でディーネさん!実は話しておきたいことがあって……」

 覚悟を決めた僕は、今までのことを全て話した。自分は元は違う世界にいたこと。暴漢に刺され死にかけたこと。不思議な声に導かれこの世界に来たこと。信じてもらえるとは思っていない。しかし、本来なら辛いであろう両親のことや弟さんのことを、包み隠さず話してくれたディーネさんに僕も隠し事をしたくはなかった。そして、そんな僕の話を彼女は真剣に聞いてくれた。

「すいません、こんな話。でもディーネさんには嘘つきたくなかったので」

「ううん、ありがとう。ツルギ君」


 あまりにもすんなり信じてくれたことに拍子抜けしつつ、僕は本題を切り出した。

「それでですね、実はお願いしたいことがあるんです」

「あら、なあに?」

「僕、この世界の右も左もわからない状態で……だから、迷惑かもしれないですけど、しばらくディーネさんの旅に同行させてもらえないでしょうか!?」

彼女はいつもの優しい笑顔でこちらを見た。

「もちろん。全然迷惑なんかじゃないわ。私も一人じゃ心細かったの」

「あ、ありがとうございます!」

「ふふ。やっぱりツルギ君、弟に似てるわ。お姉ちゃんって呼んでもいいのよ」

「いや、それはちょっと……」

 モジモジしている僕に向かってディーネさんは片手を差し出した。

「それじゃあ、改めて。よろしくね、ツルギ君」

「はい!ディーネさん!」

 そして僕達は固い握手を交わした。

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