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五輪の書

 長い髪を総髪にし、顔には隈取。陣羽織を身に付けたその侍は確かに僕の魔力によって姿を変えた魔導人形だった。

 その瞬間ソイツの操作法や名前、能力アビリティが頭の中に流れ込んできた。

「ツルギ君!……これは?」

「大丈夫ですか!ディーネさん!……コイツは、『ムサシ』って言うみたいです。……多分」

「凄いわ!ツルギ君!」

 手を取り合って喜ぶ僕らとは対象的に、ゴートと呼ばれた男は、ボクジンだった人形を拾い上げわめき散らした。

「てめえら!よくもこのゴート様の人形を!……許さねえ!」

「まあまあ、相棒。ここは俺に任せなって」

 オレオと名乗った盗賊の片割れが魔導人形を伴って前に出る。


「ようよう、にいちゃん。やるじゃねえか。だが、見たところあんたの人形は金属性らしいな。相棒のボクジンは木属性……相性じゃあ、あんたが有利だった。だが、俺はそうはいかねえ。何故なら俺の人形、ブレイズは金属をも溶かす火属性なんだからな!」

 オレオの合図と共にブレイズと呼ばれた人形は掌をこちらに向ける、と同時にそこからバレーボール程の大きさの火球が放たれた。

「危ない!」

 僕は間一髪ディーネさんを抱え、ムサシの影に飛び込んだ。

「ほう、よく躱したな。だが次はねえぞ。それともその変な形の剣で受けてみるか?ま、溶けちまうだろうけどな!」

 ブレイズから再び放たれた火球は、真っ直ぐこちらに向かってくる。だが

「はあっ!」

 ムサシはソレを真っ二つに切り裂いた。

「なっ!なぜ切れる!テメーの属性は金のはず……」

「これがムサシの能力、『五輪の書』です!コイツは光と闇を除く五大属性をこの二本の刀身に纏わせ、行使することが出来る!」

 水属性を帯びた青白い刀身を煌めかせ、ムサシはゆっくりとブレイズに歩み寄る。

「糞!そんな能力ありかよ!……こっち来るんじゃねえ!」

 ヤケクソになったオレオの命で複数の火球がムサシに迫る。僕はその一つ一つを見極め、深呼吸をした。


 本来、二刀流とは防御に優れた構えだ。相手の攻撃を捌き、反撃に転ずる。その基本は祖父から嫌と言うほど叩き込まれてきた。

「行け!ムサシ!」

 一つ、また一つと火球を切り落とす。そして、ブレイズから放たれた嵐のようなラッシュを僕とムサシは全て受けきった。

「そんな……ブレイズの火炎弾ファイアーボールが効かないなんて……!ブレイズが!」

 火球を打ち尽くしたブレイズは突如うなだれ、そのまま元の白い人形へと戻っていった。

「これは?」

「魔力が切れたみたいね。それにしてもツルギ君、凄いじゃない。かっこよかったわ~」

 傍らのディーネさんに抱き締められ、顔から火が出そうなほど、僕は真っ赤になった。


「テメーら!覚えてやがれ!」

「あっ!待てよ、相棒!」 

 漫画のような捨て台詞を吐き、盗賊コンビは森の奥へと消えていった。

「嵐のような人達でしたね」

「ほんとね」


 辺りを見回すと、あの盗賊が残していった魔導人形が地面にぐったりと横たわっている。僕はディーネさんの人形が破壊されていたことを思い出し、そいつを拾い上げた。

「ディーネさん!あの人形壊れちゃったみたいですし、よかったらこれ使ってください」

「あら……。うふふ、ありがとう。助かったわ。魔導人形って貴重だから」

「へえー、そうなんですね。でも凄いな。そんな貴重品二つも持ってたんですね」

 僕の言葉にディーネさんは少しだけ複雑そうな笑顔を見せた。

「実はツルギ君の使った人形はね、私のじゃないの。……うん。せっかくだし私の話、聞いて貰おうかな?」

 そう言って彼女は勢いよく立ち上がった。

「でも、その前に……今度こそご飯にしましょ?」


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