サムライの覚醒
僕は一目散に声の方向へ駆け出した。やがて遠くにディーネさんの姿が確認できた。
「……っ!」
だが、そこで足を止めてしまった。何故ならそこには、ディーネさんを追い詰めるように四人の男達がジリジリと迫っていたからだ。しかも、内二人は身長が二メートル以上はあるように見える。
僕は何をしているんだ。早く助けに行かないと……。でも、僕が行ったところでどうにもならないじゃないか。そうやって変な正義感をだすから死にかけたんだ。脳裏には刺された痛みと血の生暖かさ確かに蘇ってきた。
次第に腹部がズキズキと痛みだす。いや、怪我は完治しているのだ。きっとこれは僕の心の問題なんだろう。それにあの変な声の主も言っていた。生き永らえるかどうかは僕次第だって……。
小さい頃から祖父に剣道を習い、この歳になるまで必死に稽古を続けてきた。それでもあんな小さな刃物一つに敵わなかったのだ。それがあんな大男達に勝てるわけがない。頭の中で何度もそういい聞かせた。だが次の瞬間、何故か僕は男達の前に飛び出していた。
ああ、やってしまった。生まれ持った性分を悔やみながらも、僕は腹を決めた。ここまで来たならやってやる!
「おい!お前たち!四人がかりで卑怯だと思わないのか!」
四人の内、背の低い二人の男が顔を見合せ、大笑いした。
「ガハハハ!四人だと?オイオイにいちゃん。何を勘違いしてんだ?」
「俺たちゃここいらじゃ有名な盗賊コンビ、オレオ様と相棒のゴートさ!そんでこのデカイのは俺達の魔導人形だぜ!」
オレオと名乗る男の言う通り、間近で見ると巨大な男達からは人間とは違う異様な雰囲気が感じられた。
「逃げて!ツルギ君!私のスイリューちゃんもその人達にやられたの!」
後ろからの声に振り向くと、壊れた白い人形を抱えたディーネさんが必死に呼び掛けていた。
「ごめんなさい、ディーネさん……でも、命の恩人を見捨てて逃げてしまったら、それこそ僕は人として終わりです!」
言うが早いか僕は魔導人形の一体に飛びかかった。しかし、巨体に似合わぬ俊敏な動きでそいつは僕を殴り飛ばした。
「クソ!いてて……」
咄嗟にディーネさんから借りた着替えの袋を挟まなかったら骨は折れていただろう。
「ハハハ!このゴート様の魔導人形、『ボクジン』に勝てると思ってんのか?しかし、この間寝込みを襲った商人が魔導人形を持ってたなんてラッキーだったな!オレオ」
「おうよ!こんなスゲー玩具がありゃ俺達の仕事も捗るってモンよ」
ボクジンと呼ばれる人形がゆっくりと迫る。早く距離をとらなきゃ。悲鳴を上げる足腰に鞭を打ち必死に立ち上がる。しかし、思うようには歩けない。このままじゃやられる!そう思った次の瞬間。ディーネさんが僕の前に飛び出した。
「お願いツルギ君!逃げて!貴方まで私を置いていかないで!」
マズイ!ディーネさんを助けなきゃ!……ん?この袋、光っている?
突如として光だした袋の中を探ると、あの白い人形が姿を表した。コレを使えば、もしかして!
『コツを掴めば出来るようになるわよ』
ディーネさんの言葉を思い出しながら、縋るように魔導人形を握りしめた。
「ここで出来なきゃ、男じゃない!」
手の中の魔導人形が鉛色の光を放つ。と同時にボクジンと呼ばれた魔導人形は真っ二つに切り裂かれ、その場に崩れ落ちた。そして、それを見下ろすように、二振の刀を携えた巨大な侍がそこに立っていた。