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生と死の狭間

 剣道場からの帰り道、かすかな悲鳴が聞こえ駆けつけてみると同い年くらいの女の子が暴漢に押さえ付けられていた。僕も正義感は人並みにある方だし、去年の剣道大会では全国までいった実績がある。だから助けようとしたんだ。でも、その時は考えもしなかったよ。相手が刃物を持ってるなんて……。


 ああ、カッコなんかつけなきゃよかった。僕は腹部に気の遠くなるような痛みと流れ出る血の生暖かさを感じながら何度も、何度も後悔を繰り返していた。


 いつも通り剣道の稽古が終わったら真っ直ぐウチに帰ってさ、シャワーで汗を流すんだ。その後は母さんの作ったご飯を食べて、それで……それで……なんだっけ?段々意識が薄れてきた。どんなに練習して、強くなっても結局は無意味だったのだろうか?そのような事を考えているうちに僕の意識はプッツリと途絶えた。



 次に目を覚ました時、僕は真っ白な空間にいた。……のだと思う。というのも、衰弱した僕はまともに目も開けられない状態だったからだ。そして、そんな僕の頭のなかに低く威厳のある声が響いたんだ。

「ここは生と死の狭間の世界。このままならお前は死ぬだろう。だが、宮本剣みやもとつるぎよ。お前は一人の少女を救った。よって望むのなら生き永らえるチャンスをやろう」

 突然の話に僕は吃驚したよ。でも、だれだって死にたくはないだろう?だから僕は何度も首を縦に振ったんだ。もう声もうまくでなくなっていてね。

「よろしい。だが、あくまでもチャンスということを忘れるな。生き永らえることができるかどうかは、お前次第だ」

 結局声の主がだれだったのか?そんなことを疑問に持つ前に、また僕は気を失ったんだ。


 これが、さっきまでの話。そして今、目を覚ました僕の目に飛び込んできたのは、僕を覗き込むように微笑む美しい女性の顔だった。

「よかった……。気が付いたのですね」

「えっ?……あの?」

 状況がわからないまま、モゴモゴと口を動かす。ただ、先ほどから後頭部に感じる柔らかい感触の正体がこの女性の膝枕だと理解した瞬間、全身がバネで出来ているかの如く飛び起きた。

「あっ!ありがとうございます!」

「こんな森の中に倒れているんですもの。驚きました」

 女性の言葉に辺りを見回すと、そこは確かに見知らぬ森の中だった。


「えっ!あの……なんで……?」

「……どうやら混乱しているみたいですね?大丈夫ですよ。病み上がりなのですから、どうぞ、ゆっくり休んでください。……よろしければまた、お膝をお貸ししましょうか?」

 そう言って女性は紺色の長い髪をサラサラと揺らしながらニコリと微笑んだ。よくよく見ると彼女は胸元の開いた露出度の高い服を着ていた。そして、その間から覗かせる女性的な体は、僕には刺激が強すぎた。

「いえ!あの、けけけ、けっこうです!……あの、僕は宮本剣みやもとつるぎっていいます。失礼ですが、あなたは?」

「ふふっ、ツルギ君ね?私はディーネ。旅の芸人で踊り子をしています。」

 なるほど、あの格好は踊り子の衣装だったのか。しかし、このご時世に旅芸人とは……僕より少し年上だと思うが、大変な人生を歩んでるんだなぁ。


 落ち着きを取り戻すと、そこで初めてお腹の傷が塞がっていることに気が付いた。

「ディーネさんですね!傷の手当てもしてもらったみたいで……本当にありがとうございます!」

「どういたしまして。でもね、治療をしたのはこの子なの」

 ディーネさんは傍らにあった道具袋のようなものから、およそ30センチほどの白い人形を取り出した。ただ、人形といっても顔も何も描いておらず、ディーネさんの手の中でぐったりとしている様は少し不気味に感じた。

「この子?」

「そう、この子よ」

 ディーネさんはそう言うと、その人形を握りしめ祈るような仕草をした。すると、真っ白だった人形が突然、深い海のような青い光を放ち始めた。そして次の瞬間、僕の目の前に蛇とも龍ともとれるような、巨大な怪物が現れたのだ。


「う、うわぁぁーー!」

 突如として目の前に現れた怪物から逃げるように、僕はディーネさんの腰にしがみついた。

「私の魔導人形マジックドール、名前は『スイリュー』ちゃんっていうのよ。って、あらあら、そんなに驚かせちゃった?」

「ま、魔導人形?何ですか?それ」

「あら、知らないの?……ふふっ、じゃあ、お姉さんが教えてあげる」

 先ほどからスイリューと呼ばれた生き物は顔の横に付いているヒレのようなモノをパタパタさせながら宙を泳いでいる。そんなスイリューを優しく撫でながら、ディーネさんはこちらにウィンクをした。その言葉や仕草にドキリとしたのは、まだ僕が若いからだろうか?


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