07 倉庫
一応ここから新しくなるので前よりも文字数を少なくして見ようと思いましたが、残念なことに・・・。
王都に着いてから丸一日。
というわけではないが、一晩経てば昨日が過ぎて今日という今があるのだ。
なんか小難しいこと考えているようにみえるだろう。まあ、そんなことはないのだがな。
昨日のお昼頃に王都到着からの一晩おやすみなさいで体力全快だ。
元気いっぱい、今日も一日がんばるぞ、と。
「お腹、空いたな」
酔っている間は、休憩で降りた町で軽く食べたくらいだ。
勇者一行の話によると、魔族はご飯を食べなくても一ヶ月ほどは保つそうだ。
でも空腹という感情は出てくるらしい。今の私がそんな感じだ。
「ごはん」
語彙力の消失が甚だしい。
今まで断食とか少食でもなんとかなる訓練とか受けていたわけではないのだ。だから、しかたないじゃないか。
わたしはおなかがすいたのだ。
「なんてベッドの上で考えてても仕方ないか。……よいしょっと」
「うぐっ」
ん、なんか踏んだぞ。
ベッドから降りようと足を下ろした先に人が居た。というか勇者だ。
勇者たちの話で聞いた。寝袋、というのだったか。それにくるまっている。
私はそれを踏んでいる。
「って勇者、大丈夫か!? す、すまない。まさかこんなところにいるとは思わなかったのだ!」
「やあ、おはよう。朝から強烈だね」
「おっ? お、おはよう」
強烈もなにも、人ひとりが乗っているのだ。重くないわけがない。
「とりあえず、魔王。降りてもらえるかな?」
いや、なんだろう。とても失礼だが、乗り心地が良かった。
一瞬降りたくないとまで思ったほどだ。
「すまない」
「問題ないよ」
「悔しいが、乗り心地が良かった」
「――? そ、そう。それならよかった」
「うむ」
というか。
「なんで僕がここにいるか、だよね」
「――!」
私は今、たぶん、いや絶対、ものすごく驚いた顔をしているだろう。
多芸だとは思っていたが相手の心を読むとかそんなことまでできるとは思わない。
「勇者よ、お前は読心術まで使えたのか……」
「いや、それはないんだけどね――」
ないらしい。
「君が連れてこられた部屋。適当に空いているのをお願いしたんだけど……」
「したのだけど?」
「僕の部屋から遠いんだよね……」
「ふむ」
…………。
「……あ」
そういうことか。
自室が遠いから、ここで寝ていたのか。
ダメだ。起きがけの頭では回転が鈍い。
というより、おなかへった。
「よし、久しぶりにちゃんとした食事にしようか。道中……でいいのかな。いや、空中? どっちでもいいね。だと、まともに食べられなかったからね」
もぞもぞと寝袋から出てくる勇者。
「じゃあ、着替えとかするだろうから一旦部屋から出ておくね。終わったら、食堂まで案内するよ」
「え?」
「ん?」
足にひっかかった寝袋を取るために後ろを向いていた勇者がこちらを見る。
ものすごい顔になっているぞ。
「すぐに出て行くね」
「いや――」
「いいのだが」と言う前に部屋から出て行った。
「我は気にならんのだがな……」
勇者がすぐに出て行った理由は、私が服を脱いでいたからだ。
他の有象無象から見られるのは嫌だが、別に勇者なら見られても問題ないと思っている。
「ラニアとユーラに恥じらいを持てとかいろいろ言われたが、我が恥じていないから……。ってこれも一般的にはダメとかそんなんだったな……」
私には世間一般の知識、認識が足りていない。
「わかってはいるんだがな……って早く着替えるか」
誰にも見られていないとはいえ、裸で考えごとはしないほうがいいだろう。
適当な服に着替えて部屋を出る。
「勇者、待たせた――ん?」
勇者の恰好が寝間着から動きやすそうな服に変わっている。
「ん、どうしたんだい?」
「着替えを入れている物とかなさそうだが……」
どうみても勇者は手ぶらである。
しかも寝ぐせのついていた髪も整っている。
「あ、それはね……」
といって、なにもないところに手をのばし引きぬくような動きをした。
手首の先が消えていないか?
「うぉっ……」
何もない空間から服が出てきた。
空間干渉系の魔法だ。時空魔法といってもいいだろう。
見たことがなかったから、分かるまでに時間がかかった。
「旅の途中で世界中の本を集めている都市に寄ったことがあってね。そこで読んだ本に書いてあったんだよ。呼び方は特に決まってなくてなんでもいいそうだよ。詳しいことはわかっていないけど、容量は使用者に依存するらしい」
「ほう。それは面白そうだな。試しにやってみるか。もう一回、やってみせてくれないか?」
「えぇと、こういう感じ……」
勇者が、先ほどと同じような動きをして服を戻してみせる。
「ふむ。勇者よ、なにか失くなっても良いものを――」
「はい、どうぞ」
すごい速さで対応されてしまった。
渡されたものは、その辺に落ちていそうな石ころ。確かに、これなら失くなっても……ってなんでこんなものを持っているのだ。まあ、いいか。
「こう……こういう……なんだ、こういう感じで……」
先ずは中に何もないであろう袋のようなものを想像し、その中に石を入れる……。
「んー、ほい!」
私の突きだした手は消え、中で持っている石を放す。
手を抜くと、はじめから石なんてなかったかのように消えていた。
「お? じゃあ、こうか……ほい!」
引き抜いた手をもう一度つっこんでみる。
少し間を置いて、引き抜けるかもやってみる。
袋のようなものから何かを引き抜く。
「む、なんだこれは?」
引きぬいたものは、石ではなく……これは、なんだ?
「勇者よ、これは――」
「――!」
凄まじい勢い。
まさに、目にも留まらぬ速さで私の持っていた布切れを奪い、自分のポケットにしまう勇者。
「今のは……あれか、勇者のパン――」
「魔王……」
「っはい!」
今まで聞いたことのない声。
怒っているわけではないのはわかるが、低い声だ。
「感覚で魔法が使えるのはいいことだけど、もう少し……いや、もっと考えてから使うようにしよう?」
「わ、わかった。すまない。わかった」
私の返事に短く溜息を吐きながら真面目な顔になった。
「それにしても、他人のものに干渉できるっていうことについて、あの本には書いてなかったんだよね。君といると新しい発見が多くて楽しくなるね」
こちらに微笑みを向けながら話してくる。
「お……」
「お?」
な、なんだ、この胸の鼓動が早くなる感じは……。
こいつと出会ってから、こいつの何気ない動作で一喜一憂してしまうようになった。
「なんでもない」
「そう?」
「そうだ。そうだぞ。なんでもない」
ふぅ。なんというか、一緒にいて気持ちの良い感覚はあるのだが、こういうところは……なんていうんだろうな。嫌ではないが……うーん、よくわからん。
「……で、その、他人の物に干渉できないというのはどういうことなのだ?」
「えーとね……」
――勇者曰く。
勇者命名の“次元倉庫”、もしくは“次元の袋”は個人依存の容量だから、他人に干渉することは不可能だと思っていたのだという。
件の本にもそのような記述はなく。自身も干渉したことはないそうな。
というより、まず使える者がおらず。それにより資料や文献というものも……という具合らしい。
そういう学者や専門家達の見解では「現実味のない、使えるかどうかもわからない代物」として研究対象にすらなっていなかったのだと。
本の状態に至っては、ホコリをかぶっていたのを偶然発見したものとか――。
「ふむ、なるほどな」
「だから、驚いているよ。これからは中に入れるものに気をつけないといけないね」
勇者が頬を掻きながら、苦笑する。
たしかに……ん、まてよ。
「私の入れた石ころはどうなるのだろうな」
「あ、探してみるね」
「うむ」
勇者が探し始める。
「あれ、ない……かも」
「ほう?」
どうやら石は別の――おそらく、私の――袋に入っているのかもしれない。
「我が探してみよう」
先ほどと同じように想像して石を取り出そうとする。
「お、これだな」
すぐに取り出してみせる。
「あれかな。魔王には魔王の倉庫があるけど、やろうと思えば他人のものにも干渉できるってことなのかな?」
「私に聞くな、私に」
「あはは、そうだね」
勇者のいうことは一理ある。
信じられるかわからないが、実験めいた書物にある確かでない結果というのは推測に推測を重ねたものだとエレノールが言っていたな。
結果をしっかりと確認していなかったり再現不可能だったり、結果を出すことがいろんな意味で無理なものは、この魔法のような本になることが多いそうだ。
まあ、情報が少なくなりすぎるのだ。
「では、お前が我の袋? 倉庫? に干渉すればいいのではないのか?」
「できるかな?」
「ま、やらんよりはいいだろ」
「それもそうだね」
石を「推定私の次元倉庫」に入れてから、勇者に軽く見る。
すると、勇者が「むー……」と唸りながら前に手を伸ばしている。
事情を知らない者がみたらとても滑稽だろうな。だが、真剣なのだ。マジなのだ。
「…………ぷはぁっ! 無理だ。出来そうにない。何度やっても自分の袋に繋がる感覚しかなかったよ」
「ふーむ。これは、なんでだろうな」
試しに勇者の使っているであろう次元倉庫――もう呼び方はこれに統一しよう――に手を突っ込んで見る。
「ほれ、またお前のパンツだ」
「……う、うん。まあ、いいよ。なにもいわない」
「とりあえず戻しておくぞ」
「うん」と諦め気味な返事が返ってきたので「まあ、気を落とすな。パンツの一枚や二枚見られたくらいで。私の裸を何回も見ているのだからおあいこだ、おあいこ」といっておいた。
「とりあえず、このことは口外厳禁だよ。使える人が居ない以上。使えるって分かった研究者やら他国がどんな動きをするかなんてわかりきっているからね」
「それもそうだな。使用もできるだけ控えるとしよう……ん?」
廊下の曲がり角から何かが動く気配がする。
「誰か来るな」
「きっと起こしに来てくれた使用人の方だと思うよ」
「ほう」
私も城に居た時は毎朝、挨拶に来る者がいたな。それと同じだろう。
角を曲がってきた使用人は女だ。こちらに気づき少し驚いている顔をしたあと近づいてくる。
「ぉ、お……おはようございます。アラン様」
近づいてきた女の使用人――メイドだったか――は少し緊張気味に勇者に挨拶をした。
「おはようございます。えーと、君の名前は……シェリア、だね」
「あっ! わたくしめの名前を覚えていただいているとは! 光栄であります」
すこぶる緊張しているようだな。
「勇者よ、何故この者はここまで緊張しているのだ?」
「それはね、僕が勇者だからだよ」
「お、おう。そうか」
「あはは、えーとね。使用人からしたら……というより、一般人からしたら、その辺の貴族と同じくらいかそれ以上の階位の人間だからじゃないかな?」
「なるほどなー」
「いくら優しい世界でも、そういう位の人は大概が同じような人ばかりだから」
と、勇者。
そういえば、この世界は優しい人ばかりだと前に言っていたな。例外はもちろん存在するがそれも多くはない数なのだと。
「ふむ。それで、シェリアよ。なんの用だ」
「ひゃい!」
私の質問に肩をビクつかせる。
そこまで、驚かなくても……。
「え、えーと……」
メイドは私と勇者を交互に見て困っている。
あー、なんとなく察することができる。と思っていたら勇者が説明してくれる。
「あ、彼女はまお……」
「ま、まお……?」
あ、そうか。いや、でもどうだろうか。
私の正体というのは言ってもいいものなのだろうか。
私としては問題ないが、勇者の立場……というか。「和平のために話し合いにいったはずの勇者が、魔王をお持ち帰りしてきてしまった」みたいな状態になるのか?
仕方がない。偽名だ。
自分で自分に名前をつけるようで変だが、偽名だからあの時の約束を反故にはしていないだろう。
「そうだぞ、メイド。私はマオ。勇者の旅の道中で出会ったしがない魔族だ。角が少しばかり他とは違うが、その辺にいるのとなんら変わらんただの魔族だ。安心しろ」
「ちょ、まお――」
「そう何度も名前を呼ぶではない」
といって勇者の肩を引き寄せる。やはりというか高くて不格好になったが、なんとか耳元に顔を近づけることが出来た。
「偽名だ」とこそっといったあと「適当に合わせておけばいいだろう」
わざとらしかったかもしれないが、なんとかなるはずだ。
勇者は首を少しだけ縦に動かした。おそらくは伝わっただろう。
「そう。彼女はマオっていうんだ。大事なお客様だし、昨日は体調がよくなかったから様子を見に来たんだよ」
「そ、そうでしたか! てっきり、特殊な角の形をしているものだから魔王さまかと思いました!」
「「――!」」
するどい! するどすぎないか! めっちゃ、すっごい、なんかもう驚いてしまった。
「あ、あの、わたくしはなにか……」
「いや、大丈夫だ。安心しろ、問題ない」
「あぁ、うん! 問題ないよ……あっ! それで、なんのようだったのかな!?」
露骨に話題を変えにかかる勇者。いやもう、こうするしかない。
「あっ、はい! 朝のお食事の準備ができましたので、お声をお掛けしようかと……」
「それなら、今から食堂に向かおうと思ってたからちょうどよかった。呼びに来てくれてありがとう」
「い、いえ! アラン様の大切なお客様の使用人という光栄なお勤めを果たせるだけでわたくしはもう……。あっ! では、こちらへ……」
メイドに案内されて、食堂へ向かう。
向かっている最中に勇者の髪の寝ぐせが消えていたのは何故か聞いてみると。私の洗浄魔法を応用した整容魔法なるものを使ったのだという。
なんというか。隠密行動系の素早い足運びや魔法の改変やら多芸過ぎて驚くしかないな。
「こちらが、食堂になります」
案内された、大部屋に向かうととても良い匂いが漂っている。
あぁ、おなかがすいた。久しぶりにお腹いっぱい食べられそうだ。
マオ(仮)さまの今後はいったい……。
仮想ストレージとか、仮想空間のアイテムボックスみたいなものをリアルで使ってみたいと、よく思いますよね。・・・思いません?
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