表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

06 到着

魔力が弱くなっても魔眼の能力は問題なく使えるみたいです


 いよいよだ。

 城から出て、私のまだ見ぬ世界への冒険が始まる。

 と、言っても私の連れ――いや、私が連れられるのは、おそらく世界最強の勇者。

 冒険と言っても安全過ぎるし、私はその勇者から物理的に離れられない。

 まあ、いわば旅行だ。


「さて、そろそろだと思うんだけどね」

「予定では昼前に着くのだったな。飛行魔法は使えても空高くまで飛ぶようなこともなかったし、まず城から出られなかったしで楽しみだ」


 中庭での雑談後。アーガスとディアスに城のことを任せた。


 あ、因みにディアスは女だ。このアーガスとディアス、二人は互いに互いを好いているのだとか。


 これは第一部隊――アーガス、ディアス以外の者――と親睦を深めたラニアからの情報だ。

 で、あと一歩を踏み出さない両者をどうにか一押ししよう。と、第一部隊の連中は頑張っているそうだ。


 アーガスが隊長で、ディアスは副隊長とかなんとか。ふふ、上司思いの部下を持ったじゃないか。

 町で索敵魔法展開後の結果報告をしていたのはディアスなのだと。


 なんとまぁ、仲の良いことで……っと、話が()れてしまった。


 何故、この二人に城の留守を頼んだか。


 私と話し、私以外と話している姿を見て分かったのだが。アーガスは真っ直ぐというか純粋で、町で勇者に絡んだ時は己の力が通用するかどうか。そして、強い相手に挑みたかっただけという、思っていた通りの単純な理由だった。


 あの時、悪態を()いていたのは勇者を挑発していたらしく、普段は温厚な性格で部下思いの良い隊長という話だ。

 ま、まぁ、その挑発に乗ってしまったのは私だがな……。


 とりあえず、その他諸々(もろもろ)が所以(ゆえん)。こいつは信用できるということで任せたのだ。


 ディアスも含めた理由は、アーガスを好いているし尊敬しているので言わずもがな。

 何故、エレノールに任せないか。普通に信用出来ない。いや、うん。信用できるはずがない。その直轄(ちょっかつ)の部下も同様。誰が任せるものか。

 

 直轄だのなんだのということならば、アーガスたちも含まれるのではないかと思ったが、詳しく知らないがエレノールの管轄とは少し違って、影響を受けていないとかなんとか。


 その辺はよくわかっていない。一応、私直属の部隊に当たるとかなんとか?


「お、あれじゃないかな?」

「ほう?」


 私は遠視(えんし)で見てみると、確かに、此方(こちら)に向かって飛行する何かが近づいてきている。


 勇者はあれが何気なしに見えたというのか。なんというか、わかってはいた。


「あれが、(くだん)の飛空艇。もしくは飛行船というものか?」

「そうだね。物を浮かせる力のある魔石、魔力水晶や魔力結晶。その中でも特に巨大なものを用いて動いているんだよ。ただ、問題があってね。周りから魔力を吸い取っているからか、近づくと人間からも魔力を吸い取るんだよね」

「船の下に剥き出しの状態で付いているのはそのためか?」

「そうだね。できるだけ人から離して、尚且(なおか)つ魔石の力を効率よく使うには、あの位置じゃないとうまくいかなくてね」

「む? まるでアレの設計に、お前が関わったみたいじゃないか」

「昔からあるものらしいけど……旅に出る前、あれの開発に少しだけ関わったことがあってね。今、向かってくる機体は僕が手伝ったものじゃないかな」


 視線を感じて振り返ると、まだ見えない空飛ぶ物体の話をしている私と勇者を呆けた顔で見ているぱーてぃめんばー他見送りの者たち。


「前から思っていたけど、アランってなんでもできるわよね。学校に入る前から勉強も運動も優秀だったし……というか、何においても一番だった記憶しかないのよね」

「いやいや、その分、努力はしていたよ」


 あはは、と頬をかく勇者。

 ラニアの言うとおり、この勇者はなんでもできる気がする。


 ん、学校?


「おい、学校とはなんだ?」

「「「「「え?」」」」」


 勇者一行が驚いた風に声を上げた。


「な、なんだ! あれか! 我は、またなにかおかしいことをいったのか!?」


 ◆


 飛空艇が到着するまでの間。学校について説明を受けている。


 世界的にも知名度は高いもので。人間なら殆どの者はそこに通うことになるらしい。


 年齢、性別、種族は関係なく。入ろうと思えばどんな者でも受け入れるという。ただ、入学前から明らかに不審(ふしん)であったり、入学してからの素行に問題があったりするようであれば、学校から去ることになるとか。


 賊や、良からぬ(たくら)みをするものは何処にでも居るからな。魔族の中でもエレノール然り、その部下然り、だ。


 ――ん? 特に気を付けるのはあいつだけじゃないかって? まあ、もう気にすることはない。


 学校に通って何をするかというと、様々なことを“学ぶ”らしい。

 一般教養、戦闘と魔法の基礎、各々の将来に向けての専門的知識、他者との交流などなど。


 始めは三年間通うことになると言っていたが、その後も上の学校に通うことができるとも聞いた。

 ただし、始めの三年間はほぼ無料。そして上――上級学校へ入学するのは有料。となれば、裕福でない者たちはどちらを選ぶか。

 言わずもがな、というやつだ。


 裕福な者でも中には三年間だけ通わせるということがあるらしい。

 裕福という恵まれた環境だけでなく、そうではない教養を蓄えさせるためだのなんだの。


「まあ、貴族の継承権が薄い子、なれない末っ子、妾子(しょうし)が入らされて、将来的に一人でも生きていけるようにするっていう陰の話もあったりなかったりするんだけどね……」

「やはりというか、人間の世の中は面倒くさいのだな」

「人間っていうのはそんなものなのよ。裏とか(やま)しいことがない存在なんて、極少数。今はなにもないかもしれないけど、私たちやあなただって、そのうちそういう“面倒くさい”存在になるのよ」

「ふむ……」


 いくら、長い間生きていようと、私には経験が無さ過ぎる。

 一般的知識も同様。勇者たちが現れてからは特に自覚させられる。


 そんな無知を具現化させたような存在が外界に出て、無知を無かったことしていき、知識を得て、経験を積む。そうすると、今まで考えなかったことを考えるようになる。

 結果、もしかしたらエレノールのような者に出来上がったり、そうならなかったりするのであろう。


「王都にいって暇になったら我も学校とやらに入ってみるかな。なんてな」


 なんとなく、冗談混じりで吐いた言葉。

 別に、本気で行きたかったわけでない。多少、興味は湧いた。しかし、勇者たちと居たほうが余程、糧となることを身に付けれそうだと思う。


 だが、口から発せられる言葉というのは災いか幸いか。幸か不幸か。なんとなく吐いたあとはどうなるかわからないものだ。


「それは良いかもしれないね。国に戻って一段落したら手続きをしてみようか」

「お?」「え?」「ん?」


 勇者に対して、私、ラニア、ユーラの順で頭の上に疑問符を並べた。

 この勇者、何を言っているのだ?

 

「えぇと、だから、魔王を入学させてみようかなぁ……と。一般教養を学んで高めるには、あそこが一番だからね。君たち二人やエディッツ、アーティアさんばかり頼っていたら、いざという時に対処できなくなるかもしれない。僕は離れられないし、それに監視なりなんなりと適当な理由をつけて学校に入ることも可能だと思う。たぶん」

「ちょっと待って!? アランがいくなら私も――」

「ラニア、学校の規則。と言うより、国で決められていることを覚えていないとは言わせないよ?」

「ぐっ……そ、それは……」

「そういうわけだから。君もユーラも戻ったら十分な休息を取るんだ。分かったね?」

「で、でも――」

「君たちに無理をさせたくないんだ。僕からのお願いなんだけど……」


 普段の飄々とした雰囲気とは違う……なんだろう。

 媚びているような、甘ったるい雰囲気を感じる声で、ラニアとユーラに向かう勇者。

 そんなことで引くわけが――


「「分かった」」


 あった。

 二人はやけに素直になっている。

 こいつ、なにか使ったか? いや、そんなふうには感じなかったが……。


「二人とも、ありがとう」


 と言って二人に軽い抱擁。


 ラニアは顔が真っ赤になり硬直。ユーラは俯いたまま硬直。帽子のせいでどのような顔になっているか分からないが、きっとラニアと同じようになっているのだろう。

 私も、されたい……って何を考えているんだ。


「ありゃりゃ、チョロインだから全く……」

「あらあら、うふふ」


 後ろでエディッツとアーティアが笑っている。

 この二人は、なんというか。勇者とは違う強さを持っているように思える。


 特にアーティアの方が……。絶対に逆らってはいけないと確信できるナニカがある。


「あ、そろそろだね。エレノールさん、アーガス、ディアスさん。大変、お世話になりました。また、なにかあった際はよろしくお願いします。この指輪が解けた時は、直ぐに魔王様を送り届けますので……それまで、しっかりとお守りします。それでは、ありがとうございました」

「「「「ありがとうございました」」」」


 勇者の言葉にぱーてぃめんばーが続く。

 

 ラニアとエディッツは、アーガスと「またね!」「次こそ勝つ!」とか「ああ、またな。いつでも来い」と、言い合い。

 

 ユーラとアーティアは、ディアスに対して「また」「今度、料理の本を持ってきますね」とか「充実した日々でした」と、言葉を交わしている。

 

 勇者は、エレノールに対して「申し訳ありません」と、また謝っている。

 そいつにそんな謝らなくても……。

 エレノールは「あのままでは、この城も破壊されていたのだから……」とかなんとか勇者を責めるようなことは言ってないが、どうせ建前だ。


「……ふむ。では、城の者たちよ、行ってくる。城の留守、頼んだぞ」


 私の言葉と同時に飛空艇が到着した。


 ◆


「うっ……王都。やっと、うっ……」


 飛空艇に揺られ一週間ほど。

 王都――確か、ユロパス――に、とりあえず到着。

 空の旅の最中は記憶が無い。いや、有るには有る。だが曖昧なのだ。所以は……まあ、端的に言えば“酔った”のだ。


 自分の意思に関係なく訪れる感覚にやられてしまった。

 体の中が、ふわっとする感覚。そして、空中を移動している間、急速に変わっていく気候。まさか、私がここまで繊細な存在だと誰が思っただろうか。

 

 ……誰も思わないな、うん。私も思わなかった。

 もちろん、勇者一行には驚かれた。


 魔族というのは人間に比べて肌が白い。いや、人間で言う「生気を感じる」程度には色が付いている。しかし、その白さは人間からすれば“異常”だ。


 それで、なにがいいたいのかというと。

 異常に白い私の顔が蒼と白で素晴らしい色になっていたらしい。


「驚いたわよね。あなたが乗り物に弱いなんて」

「うぇ……すまぬ。自分でも驚いている。うぅ……」


 ラニアに肩を借りて飛空艇から降りる。

 飛空艇の降りた先は勇者が王から賜った屋敷だとか。


「どうしようか」

「アラン、どうしたのよ」

「この状態の魔王を陛下のもとへ連れて行っていいものかどうか考えてるんだけど……」

「あー……」


 酔った当初は治療系の魔法を掛けてなんとかしようとした。

 アーティアに掛けてもらおうとしたが、自分で掛けたほうが早いと思い発動。

 結果はまあ、なんだ、吐いたのだ。

 どういう理屈かは不明だが発動して自分に効果が出るくらいのタイミングで吐いた。

 後にアーティアに掛けてもらったが、それも同様、効果が出るときにゲロゲロ。

 とりあえず酔い止めの薬を飲み、安静。そんな具合である。


「今日は休もう」

「やすむ。きもちわるい」

「ほら、もう地面なんだから安心でしょ?」

「あぁ、石や土がここまで愛おしいものなのだと思ったことはないぞ」


 変に揺れない床――もとい地面というのはここまで安心できるものなのか。このままここで寝ても許されるのではないかという錯覚を起こしてしまいそうだ。


「なに地面に寝っ転がってるのよ。はい、立って。ゆっくりでいいから歩いて行くわよ」

「あぁーじめんーいとおしいぞー」

「あはは……」


 ラニアにゆっくりと起こされて屋敷へ案内される。

 後ろでは勇者が何人かに指示を出していたが、何を言っているかは聞こえなかった。おそらく、王への連絡とかその他諸々だろう。

 とりあえず、揺れない地面の上で早めに回復してしまいたい。

 うっ、まだ吐き気が……。ゆっくり、ゆっくり休むとしよう。


 ◆


 魔王が飛空艇に弱かったのには驚いた。

 重力系の魔法で自身を浮かせることができるということを聞いていたものだから、問題はないと勝手に思っていた。


 魔王との距離を空けないよう、移動しながら屋敷の人たちに指示を出したあと、一人のメイドさんへ個別に指示を出す。


「では、陛下への連絡をお願いします。陛下には長旅で疲れているので今日一日だけ休ませて欲しいと伝えて下さい。あ、歓迎などは必要ないともお願いします」

「畏まりました、アラン様」

「それと僕に様とか付けなくていいって、前から言ってるじゃないですか」

「そういうわけにはいきません。わたくしの命はアラン様のおかげで今ここにあるのです。感謝や敬いはすれど、それ以外の選択肢はありません」


 深々と頭を下げられる。

 こういうのには慣れていない。対応に困ってしまう。


 勇者だということがギルドでわかるまでは田舎くらしだった。

 朝起きて畑の手入れや家畜の世話をして一日を過ごす。

 空いた時間でラニア、ユーラと一緒に川や山、近くの湖で遊ぶ。

 週二回。村に来る優しい行商人から「余ったから」という理由で文具を貰い、それを使って文字を覚えたり、知識を身につけたりした。


 僕らの勉学に勤しむ姿をみた両親たちは学校へ行かせようと思ってくれたらしく、十一歳になる年。僕、ラニア、ユーラの三人で王都にある学校へ入学。

 その際、冒険者としての登録をしなければならないということでギルドに行き、適性検査装置で適性を知り今に至る。


 短い人生だけど、なにが起こるか分からないと何度も思った。


「うーん、でも元々はフランクに絡んできてくれてたじゃないですか。僕はあの時の方が好きですよ」

「え、え? 好き? そんな、えーと、あの……」

「初めて話した時の、クレアさんの、あの時の態度が、好きでしたよ」

「あ、あぁ……そういう。いえ、あの時はその、なんていうのでしょうか。我を失っていたというか、そのような状態でして……」


 彼女はクレア・レイレリア。

 今はなんでもござれなメイドさんだが、元は暗殺者で貴族だ。

 出会った当初はそうでもなかったけど、今では都合のいい聞き間違いを素でしてしまう天然系だと分かった。


 クレアさんと出会ったのは僕が学校を卒業した頃。

 旅に出る一年とちょっと前くらいに彼女がやってきて僕を殺そうとしてきた。


 とりあえず対応して、捕縛。捕えたあと、何故か陛下のもとまで直接届けに行った。

 陛下は尋問後に即処刑と即答。


 尋問の最中は僕もその場に居た。いや、頼みに頼んで許可をもらった。

 はじめからなにか変な感じがしていたからだ。


 予感は的中。

 魔道具を使い調べてみると、高度の洗脳を受け、クレアさんは操られていただけ。

 なんとか洗脳を解き、もう一度話を聞くと、自分の意思でそのようなことをする人間ではないということがわかった。


 洗脳の効果で、それまで――洗脳を解かれるまで――の記憶は一切ないという。

 専門の人たちによれば、記憶の改変、改ざんをされていた可能性もあるのだと。


 で、また陛下に頼みまくって、ギルドや諜報(ちょうほう)機関に調べてもらった。

 結果、一応は貴族で、最近、その家の一族が全て消されたのだとか。


 殺されたではなく、消された。

 証拠もなにもなく、摩訶不思議な出来事。恐れた周辺の貴族たちは、触れずに隠蔽(いんぺい)しようとしていたのだと聞かされた。


 なんでクレアさんは消されなかったか。

 それは、クレアさんは元から身体能力が高いのと、兵士のように精神干渉耐性がない。それと、そんなちょうどいい人がいなかったからなのでは……って推測されている。


 繋がりのある存在を消され、なにもない人間と、冒険者など絶対どこかに繋がりのある人間。このどちらが居なくなっても問題が起こらないかといえば前者である。


 まぁ、そんなこんなで、哀れに思った陛下は監視つきで保護しようということになった。


 反対はもちろんあった。

 しかし、狙われた僕が無罪を主張し、陛下もそれに賛同。

 僕が預かると言ったら驚かれたけど、それにも了承。

 今では立派なスーパーメイドとして、身の回りのことを任せているほど。


「んー、旅に出ている間に変わってるかなって思ったんですが、そうじゃなかったみたいですね」

「え?」

「これだけは言いたくなかったのですが……」

「え、あの……」

「命令します。今後、僕のことは名前で呼び捨てにしてください」


 メイドさんに対する命令だ。

 僕は一応、雇い主。


「――! 畏まりました。……アラン」


 ビクッと、肩が跳ねたあとに名前を読んでくれた。


 まあ、仕方ない。

 目上の人間や雇い主のような“命令権のあるもの”の命令というのは、この国、ひいては世界で共通していることがある。

 簡単なことだが、逆らってはいけないということ。

 正当な理由もなく逆らった場合は罰が与えられる。


 けど、今まで――旅をしている間には――そんな状況をみたことがない。

 行った先が少ないというのもあるけどね。


「いいですね。どうしても、様って付けられるとむず痒くなっちゃうんですよ。あ、それと口調も、堅苦しいのはナシということで」

「はい、あっ、かしこ……わ、わかりっ……たわ」

「――っ!」


 あまりにも面白くて吹き出してしまった。

 最近はいろいろと緊張しっぱなしだったから新鮮に感じられる。


「おーい、あんまりメイドさんをイジメてやるなよー。それと今日はここに泊まっていくからなー」


 飛空艇から小走りで来たエディッツに注意される。


「そんなこと言われても、そんなつもりじゃなかったんだよー」

「はっはっは! とりあえず中に忘れもんはなさそうだったぞ。んじゃ上がらせてもらうな」

「ありがとう、エディッツ。ゆっくりしてって」


 返事代わりに手をひらひらと振って屋敷へと向かっていく。

 魔王もそんなに離れていない。大丈夫そうだ。


「あの……」

「クレアさん、ごめんなさい。面白くて、つい」

「いえ……いや、問題あ、ないの……です。けど、出会った当初の勢いのある口調というのを実践しようと思っても、なかなかむつかしいくて……」

「あー……」

「そ、それと……」

「ん?」


 もじもじとしながら、クレアさんが口を開く。


「お願いしたいことがありまして……。できればその、アランも、私に対しては先ほどの方同様の話し方をしていただければなぁ……と」

「あ、大丈夫ですよ。じゃない。大丈夫だよ。むしろいつになったらなんちゃって敬語から変えようか考えてたくらいだから……」


 実際、すごく話しづらい。

 クレアさんが相手だからというのではなくて、丁寧な言葉遣いが苦手。


「あと……」


 意外と要望の多いメイドさん。


「わ、わたくしのことも呼び捨てにしてくれて構いません。それに……はぁ、はぁ……命令も……どんどん、してくだされば……」


 息が荒いメイドさん。どうしたんだろう。


「わ、わかったよ。命令することがあればするかもしれない。でも好んではしないから……」

「はい、わかりました……はぁ……」


 ん?


「で、でで、では、私は陛下のもとへ連絡をおいれすればいいのですよね?」

「ん? うん、そうだね」

「では、その……」


 とても、なんていうんだろう。物欲しそうな目を向けられる。これは……なんだかなぁ……。


「えーと、じゃあ――」

「はいっ!」


 食い気味である。


「じゃ、じゃあ、命令します。クレアさん、陛下への連絡を、お願いできるかな」

「ひゃいっ! わかりまひた!」


 すごい、嬉しそうだった。すごい、嬉しそうだった。

 初めて見た恍惚とした表情に少しだけ引いてしまった。いや、あからさまに引いてしまった。


「へへ、へへへ……では陛下のもとまでいってきます」

「……う、うん。いってらっしゃい」


 この国の王も変わり者だけど、その王に関わる人たちは、それ相応に変わっているのかもしれないな。

 僕は違う。一応でも勇者だから、そんなことはないはず。……はず。


「と、とりあえず。今日は休もう」


 クレアさん……呼び捨てでって言われたんだっけ。自分が呼ばせているのに呼ばないのはダメだ。

 クレアが帰ってくるまでは起きていることにして、それまでゆっくりしよう。


 ここ最近でいろいろありすぎたせいか、さすがに、疲れた。



暗殺系メイドさんはどうやらやばい人っぽいです


とりあえずこれで一区切りっぽい感じです

次からは王都での活動が主になります


よろしければ評価、ブックマーク、感想、指摘などよろしくおねがいします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ