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05 眼

下着って重要なんですよね。衛生的にも見栄え的にも。



 私の旅支度を一通り終え、あとは出発するだけとなった。といっても出発の予定は明日。まだ時間はある。いや、無いのか?

 

 城の中庭で勇者一行とアーガス、ダークエルフ――名をディアスというらしい――の計七人で雑談中。


「それで勇者、我は魔王城からの大使? というより、まあ、そんな感じの意味合いを込めていくということでいいのか?」

「そういうことになるね。大使と言っても一国……いや、魔族の王だから、王同士の……会見? みたいな形になるのかな。一対一になることは流石にないと思うけど、もしそうなりそうな場合は何かと理由をつけて僕が傍にいようと思う。それでどうかな?」

「お、おう。無論、問題はない。傍にいる、か。ふむ」


 何気ない言葉なのは理解るが、なんだ、こう胸の辺りを早く打つ感覚……指輪の効果がどのようなものか解ったあとの夜みたいなモヤモヤとする感じ……んー。悪くはないのだが――


「どうかしたのかい?」

「ぶぇっ! うぉっちかっ!!」


 勇者が私の顔を覗きこむようにして顔を近付けてきた。いや、近付けてきたというよりは覗いた際に顔が近くなってしまったというだけだ。

 

 し、しかしな。突然、目の前に顔があると驚いてしまうではないか。


「よっ……と」


 驚いたと同時に後ろへ転びそうになった私を、勇者は迅速且つ軽快に支えてくれた。


「お、おぉ……なんというか流石だな。ありがとう」

「いえいえ。これくらいなら当然のことだよ」

「す、すまないな。それで、なんだったか……あぁ、あれか大使云々(うんぬん)か」

「そうそう。数日前に君の了解を得て、君が王都まで行くということを事前に連絡してあるからね。冒険者ギルドの伝達者は優秀だから、もしかしたら、君が王都にくるという連絡を受けて意味のない手紙が途中まで来ているかもしれない」

「我らがいる場所と王都とは、そんなに近いものなのか? お前たち、ぱーてぃめんばーは長い間、旅をしていたような事を聞いた気がするのだが?」


 勇者たちにこれまでの旅では、どのようなことがあったのか――冒険譚(ぼうけんたん)といえるものだな。暇があればその話を聞いていた。

 始めは、指輪調査の休憩中に勇者が話してくれる程度だった。

 だが、調査も終わり、支度をしている際に、ぱーてぃめんばーとの交流があった。


 その前から話してはいたが、指輪の調査では、勇者以外、魔族の文字が読めないということで、ぱーてぃめんばーは別行動。城の散策なり、アーガスと手合わせなりをしていたようだ。

 なので、話す機会など(ほとん)どなかった。食事の時も、書斎まで食べ物を持ってきてもらい、食べながら調べていたくらいだ。


 やっと、まともに話せたのは下着云々の後。


 元々、互いの身の上は話してあったためか、冒険譚を聞くまでの時間は取るに足らないものであった。

 ぱーてぃめんばーから語られる時はアーガスも一緒だったな。

 

 しかしこいつ、どれだけ勇者一行と仲良くなっているのだ?

 今も、やれ攻撃がどうだ、やれ防御がどうだ。と、ラニア、エディッツの三人で盛り上がっている。


 話が逸れてしまったが、ここまでの道は短いものではなく、聞く分には約半年程掛けてここまで来たそうだ。

 様々なことがあったとはいえ、その距離を優秀な伝達者とやらが一週間も経たずに往復できるものだろうか。と、考えていたら勇者が答えてくれた。


「そうだね。長い道だったけど、それは、いろいろな事が起こったからで、実際の距離はそこまであるとは言えないかな。それに、僕の急ぎの手紙については、リレー方式で止まらず運ばれるからね。昼は足の早い馬に任せて。夜は、夜目が利いて、獣化できる獣人族に任せる。土砂や氾濫などで道が塞がれている場合は、飛行が得意なハーピーやワイバーンに頼む。皆、優秀だからね。賊の十数人は軽く追い払えるんじゃないかな」

「ふむ、そんなもんで大丈夫なのか?」

「手紙は国王の紋章で封蝋をして、配達員は冒険者ギルドや国のものだとわかる目印をつけてるんだ。もし、目印を付けているなにかに危害を加えた場合。世界中の冒険者ギルドと……今回だと僕の所属している国から追われることになる」

「そんなもんに攻撃をくらわせるやつは武術にも魔法にも長けているのではないのか? そうであらば、逃げ切られるという可能性が大いに出てくると思うが」

「正直、僕もそう思ってたんだけどね……意外としつこいというか、そんな精度の高い追跡者を派遣するとは思わなかったんだよ……」

「お、おう。なにやらいろいろとあったんだな……」


 勇者というのは優遇されもするし、どこかで不憫な目にあっているらしい。お気の毒さま、だ。


 そういえば、勇者は先代勇者と直接の繋がりがあるわけではないとか言っていた。

 昨今――と言うより三百年前から――勇者というのは魔族との協定を確認するための存在なのだと。


 過酷な道――主に魔王城周辺の魔物や、それまでの道のり――に耐えられる素質がある者が勇者に選ばれる。

 勇者かどうかの素質は、生まれてから物心がつくまでに、ギルドに置かれている能力検査装置を使うという。


 そして、その者にどのような素質があるかを確認するというものだ。

 私なら魔王。勇者なら勇者。将来的に戦士になるかもしれない者は戦士等。


 生まれて直ぐに職業適性を賜われるということだ。ただし、成長とともに変わる可能性もあるとかで、定期的に検査しなければいけない。


 因みに、私がその装置を試した結果。

 私は“魔王”としか書かれていなかった。

 勇者は“勇者”のみだったか。


 勇者の素質を持つ者は度々現れるらしい。ただ、この勇者のように“勇者だけ”となっているわけではなく、似たようなものが書かれるのだとか。


 昔は、“勇者になれるかもしれない”者しかいなかったようだ。

 この勇者は特別なのか?


 将来的に一つしか選択できない者は、今回のようになるのではないか、と勇者他ギルドの者たちは言っていた。国王でも、いざ検査してみると他の適性値が出るという噂もチラホラ……。


 この装置は大戦以前からあるものらしく、今まで動き続けているという。

 ……謎多き物体だ。女神が関係しているとかしていないとか?


「しかし、一国の王と会うのだから、粗相のないようにしなくてはな。下手をやらかしては、我だけではなく魔族の評価まで下がってしまうかもしれないからな。それに、先の大戦もあり、あまり好印象ではないだろう」

「それは、問題ない……かな。今の王は寛容(かんよう)な方だと思うよ。ただ、害になる存在には神経質なだけで……。おそらく、歓迎してくれると思うよ。それに、君も王だから堂々としていれば問題ないさ」

「そ、そういうものなのか?」

「そういうものなのですよ」


 好意的なのは間違いないんじゃないかな? と、微笑む勇者。


 勇者他めんばーや町の者たちから聞いた話では、人間には、どのような理由であれ魔族との親交を始め、深めたいと思っている者がいるそうだ。魔族側はどうでもいいとかなんとか。

 

 どうせ、エレノールとその一派は随一の反対派だろう。勇者たちを城に泊める時もどれだけ梃子摺(てこず)ったことか。


 あ、一応、私の力のことは城の者には伏せてある。


 知っているのは、あのアーガスとダークエルフくらいだ。

 大凡(おおよそ)はエレノールの耳に入っているだろうが……。

 今の私でも、あいつくらいなら手間取らないはずだ。はず、だ。


「ん、アラン、話は終わったの?」


 勇者と一緒にラニア、エディッツ、アーガスの戦闘民族三人組の会話を見ていると、一番の戦闘狂、ラニアが話しかけてきた。


「うん、今終わったところだよ。あとは明日に備えていろいろ確認するだけだね。ここ一帯の調査はできなかったけど。陛下なら魔王がユロパスまで来てくれるだけでも、嬉しいと思うからね」

「この子が王のところに行くだけで、そうなるかしら?」

「陛下がどれだけ亜人種を好きか知っているよね? 従者の中にも獣人やエルフ、ドワーフが沢山いるし、最終的には種族の差別化をなくそうとしている。つまり、そういうことだよ」

「……ふぅん」


 特に表情を変えることなく受け答えする二人。なんだろうか、人間の王の元に、行ってはいけない気がする。

 身の危険……それに近い何かを感じる。別に嫌ではないし、そこまで悪い意味でもないのだが、うぅん。


「魔王、魔法」

「む? あぁ、いいぞ」


 下着の一件以来、暇があればユーラに魔法を教えている。

 下着を購入する時に使った洗浄魔法やその他諸々。ユーラと確かめた、人間たちが使わないような魔法を教えようと思っている。

 この娘は飲み込みがいいからな。ただ、飲み込みが良くても、使えるかは別なようだ。


「今日も、洗浄魔法で良いのか? 別の魔法を教えるということもできるのだぞ?」


 教えると言っても、今は洗浄魔法が使えたかどうかの確認くらいだ。


「問題ない。先ずは教えてもらったことを出来るようにならなければ意味が無い。一度に平行して物事を進めるのは効率が落ちる。これは――」

「分かった、分かった。ふむ。今回はなににするかな……」


 魔法のことについて口を開かせると、この娘は饒舌(じょうぜつ)になる。魔法が好きなのだな。いや、それ以外の理由もあるな。


 回復魔法も勇者以上に使えるようだからな。回復魔法が苦手な勇者の為になると思い、覚えているのであろう。いいやつだな。


「しかし、この城の中にはあからさまに(よご)れている物はないからな。(けが)れている者は居るようだが……。よし、ならば……んー、ほい!」


 中庭を囲む廊下と、その間にある柱に向かって炎の魔法を放ち、三本ほどに焦げ目をつける。


 いくら弱くなったとはいえ、加減しないと溶かすか爆発させてしまう。城に使ってある石は強固で珍しいものらしいが、あまり関係ない。

 それと、城には自動修復機能があるのだが、汚れには意味が無いらしい。先日気付いたことだが……まあ、その話もいいだろう。


「今日の課題は、あの柱の焦げ目を消してみることだ。想像することが大事だぞ。元あった柱、焦げていない柱を想像することなど簡単であろう? 横にいくつもあるのだからな。よし、やってみるのだ!」

理解(わか)った。ありがとう。がんばる」


 ユーラは一度だけ焦げていない柱を見て、杖を構え柱に意識を集中しだした。ただ見ているだけでも分かるほど、この者の力が強いことがわかる。


 現象を想像し、拡散させ凝縮させる。


 私が魔法を使うときに無意識にやっていたことだ。

 だが、人間にはこの発想が無かったらしく、私が魔法を使う瞬間を見ていた勇者に言われて分かったことだ。

 そして、ユーラにその(すべ)を教え今に至る。


「順調かい?」

「そうかそうでないかといえば、順調だ。あの者は魔法の適性が高い。ただ、適性があっただけでなく、努力を怠らなかったのであろうな。どれだけ努力をしたかは分からないが、あそこに至るまで、本来ならばどれだけの時間を要するか教えてもらいたいほどだ」


 戦闘民族との話を終え、此方(こちら)進捗(しんちょく)を聞きに来た勇者。


「君がそこまで言うのかい?」

「あぁ。今、オーガの脇でひっそりと(たたず)んでいるダークエルフよりも、魔法の扱いには長けていると言える。物理的な戦闘面に()いても優秀なダークエルフだが、魔法が不得手とは言えないからな。ましてや人間相手ならば言うまでもない。だのに、ユーラはそれを超えている。私が言うのだから間違いはない」


 今も、目にわかる速さで焦げ目が消えている。


「例の“魔王の眼”で見た結果かい?」

「あぁ、そうだ。魔族というのは、総じて“魔眼”をもって生まれてくる。普通の魔族がもっている魔眼は、ひとつだけ能力がある。その能力は先天的なものがなく、無作為に決められる。前に少し話したが、これくらいは話したか?」

「えぇと、魔王の眼はその全ての能力を使えるくらいまでは聞いたかな? 能力については、聞いてないはず」

「ふむふむ。ならば、能力についてだが数が多くて全ては言わんが、それでいいか?」

「勿論。寧ろ、教えても大丈夫なのかい?」

「大事無い、大事無い。目を潰されないかぎり能力は有効だからな。それに、見るだけで能力の効果を発動できるものばかりだ。殺られる前に殺ることは容易いぞ」


 あはは、そうなんだね。と軽く笑っている勇者。


 本当に、この者はなんなのだろうな。他にこういうことを話す者など居なかったが、こういう反応は普通の人間のするようなものでは無いような気がする。


 力を奪われる前の眼で見た時は分かった勇者の力も、今じゃ差が開きすぎているからか、何も見えなくなった。強大な力を持っている以外に、絶対に何かある……気になる。


「では、魔眼の種類についてだが――」


 魔眼の種類についでだが、様々なものがある。ありすぎる。

 

 私が勇者の力を見抜いた眼は、“直視(ちょくし)”というものだ。その者の身の上ではなく、芯を見ようとする眼。故に、潜在的な力がどれだけあるかを見ることが出来る。


 勇者はとてつもない力を持っていたな。

 あれはおそらく、潜在的なものではなく勇者の意思でも使える力だろう。恐ろしいことだ。


 “直視”と似ている“魔見(まげん)”というものがある。

 これは魔法に対する適性だったり、耐性をみたりすることができるものだ。ラニアとユーラを視たのは、この眼だな。


 これ以外にも、透視、未来視、過去視、遠視、千里眼、読心、暗視、識別、鑑定、石化、麻痺、洗脳、魅了、歪曲などなど。

 数が多くて説明するのも面倒臭くなる。名前でなんとなく察してくれたら嬉しい。


「と、まあ、こんな感じだな」

「そ、そんなにあるのか……」

「何個も併用して使えるが、眼が疲れるからやりたくないな」

「へえ、そうなんだ」


 魔法を使わなくてもなんとかなるかもしれない。

 だが、じっと相手を見るより、魔法を範囲系で発動させて、その中に対象を入れるほうが楽なのだ。

 町の見張りを眠らせたのも、このやり方だ。瞬間移動か空間転移でもされない限り、確実に魔法を当てることができるからな。


「それにしても……」

「む?」

「ラニアやユーラの面倒を見てくれてありがとね」


 そう言って私の頭を撫でてくる。

 何度か撫でてもらっているが、これは、癖になる気持ちよさなのだよ。


「な……」「む……」


 それまで、柱に集中していたユーラと、またアーガスと話していたラニアがこちらを見た。

 こちらというより勇者の方を見ているのだな。ユーラの表情が変わるとは珍しい。


「ふんっ!」

「…………」


 ラニアは大きく鼻を鳴らし、ユーラは黙って魔法の練習に戻った。


 暫く勇者に頭を撫でられた。「君の髪ってふわふわで気持ちいいよね」とか「いつまでも撫でていたくなっちゃうね」とか言っていたので、「好きに撫でると良い」と返したからだ。

 

 その間、ラニアは勇者を睨んでいるし、ユーラはチラチラと此方を見ていた。


 ど、どうしたのだ、二人共。……って、あぁ、そういうことか。

 むぅ、これはなにかある旅になりそうだな……。


魔王さまの目にかかれば何でもお見通しです。たぶん。


魔眼についてはいろいろな作品に影響されています。

なんとなーく察していただければ幸いです。


よろしければ、ブックマークや評価などお願いします。

誤字や脱字などの指摘もしていただけると助かります。

よろしくお願いします。

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