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03 調べ物

魔王さまと勇者さまはどうするのでしょうか


 魔王の暴走はあっさりと終わった。

 意識を取り戻したパーティメンバー、魔王軍の第一部隊や町の住民たちと共に町の修復を行っている。勿論、魔王も一緒だ。


 町の損壊は思っていたより軽微なもので、屋根の部分だけが飛ばされたり、外壁に穴が開いていたりする程度だった。

 これを軽微だと言える僕の感覚もおかしいと思うが、とりあえず修復作業は滞り無く進んでいる。


 作業は主に魔法で進められ、魔法を使えない人は飛び散った瓦礫(がれき)の撤去を行っている。

 修復作業の途中、住民かと思われる大男が魔王に話しかけ、指輪を渡していた。指輪をよく見ると膨大な魔力が込められていることがわかる。

 その大男から何か聞いた魔王は男に礼を言い、直ぐに指輪を付け此方(こちら)に走ってくる。


 その指輪は、指輪全体が高純度の魔鉱石――(ちまた)ではマナタイトと呼ばれるもの――で造られた指輪だった。

 高純度のものは大変珍しく、指先ほどの大きさでも向こう数十年は遊んで暮らせるほどの価値がある。


 効果は使用者の魔力を石により代用できるというものだ。

 そのような物を持った魔王に疑問を感じていると、その指輪を使い、僕に回復魔法を掛けてくれる。

 今までよりも体が軽くなった。


「ゆ、勇者よ、これである程度は楽になったか……? その……なんだ、あれだ」


 出会った当初の勢いがない魔王。言いたいことは、なんとなくだがわかる。


「そ、その、すまない。世話を掛けた。言い訳ではないが、あのようなことになるとは思わなかった。もし……もし、我に出来ることがあるなら言ってくれ。お前からしてみれば、力の弱い我は必要ないだろう。だから、出来ることなら、なんでも……なんでも応えようと思う」


 思っていた言葉と同じようなものが魔王から発せられた。表情は申し訳なさそうだ。


「体の方は大分楽になったよ。ありがとう。僕は、回復魔法が不得手(ふえて)だからね。普通の人に比べればできる方なんだけど、それにも限界がある。君のおかげで左手の感覚はあるし、今も全快に近い状態だよ」


 と言って、左腕を大きく振ってみたり、指を器用に動かして見せたりする。それをみて魔王はホッとした様子で胸をなでおろしていた。


「それと、いくらあんなことになったからって、男相手に“なんでもする”なんて言っちゃダメだよ。だから……っていうのもおかしいけど、今は君の言葉に答えることは出来ない」


 そう言うと、魔王の小さい身体は更に小さくなった。


「し、しかし、それでは……我はどうすればいいのだ。このようなことになったら(つぐな)うというのが、人間の……いや、世の決まりではないのか? それを……お前にそう言われてしまうと……我は……」


 魔王は俯いてしまった。表情や仕草がコロコロと変わるのを見ていると、申し訳ない気持ちと一緒に可愛く思えてしまう。

 きっと今まで、何かを傷つけてしまう、壊してしまうという経験が無かったんだろう。


「じゃあ、そのことは保留ってことにしよう。んー、あ。じゃあ今後、僕が君を必要とした時に力になってほしい……っていうのはどうかな?」


 その言葉に勢い良く顔を上げた魔王。

 驚きと嬉しさが入り混じったような状態になっている。面白い顔だ。


「やっぱりダメかな? その場でのことはその場で解決したほうが――」

「いや! 問題ないぞ! だが……本当に、お前はそれでいいのか?」

「うん、僕の方も問題ないよ。さて、この話はこれで終わりかな」

「ふむ……そう、だな。では、我は町の修復を引き続き行う。時間を取らせてしまったな。用があれば、声を掛けてくれ」

「分かったよ。それと、何度も言ってるけど、ありがとう。大分楽になった。……よし! 修復完了までもう少し! 頑張りますか!!」


 軽く伸びをして周りを見ると、修復は七割ほど終わっている。


 瓦礫の撤去も迅速(じんそく)に行われ、アーガス率いる第一部隊、中でもダークエルフたちのおかげで修復作業は滞り無く進んでいる。


 その第一部隊の部隊員は、オーガのアーガス、ダークエルフ五人の計六人だけだった。

 町に探索魔法を掛け魔王を発見し、確保するだけの予定――つまり、僕が出ていかなければあんな事にはならなかった――だったようだ。心が痛い。


 補足だけど、これだけの人数で「魔物の軍勢が~」と騒ぐのはおかしいと思い、開いた門の向こうを見ると、ワイバーンや地龍、ライガーでも珍しい黒色の個体などが確認できた。

 攻めるにしても護衛にしても十分な戦力だといえる。

 包囲されているという言葉通り、町の周りを囲んでいたようだった。


 修復作業をある程度終えたところで魔王が「この町の復興には全力で努める。城の物でも何でも好きなだけ使ってくれるといい。せめてもの償いだ」と叫び頭を下げた。

 しかし、住民たちは断った。

 僕も始まる前に寄付をすると言ったが、「成り行きでこうなったのだから、それは自分のために使いなさい。ただ、町の修復はお願いするよ」と住民たち言われ、修復作業のみ行った。


 何故、住民たちが魔王からの寄付を断ったか。

 それは、魔王と魔王の事情をある程度知っているアーガスが住民たちに話していたことが所以(ゆえん)と言えるだろう。


 魔王となる者は不老不死。現魔王も三百年近く生きているらしいこと。

 その三百年近くを配下のエレノールに「ただ城に居るだけで良い」と言い聞かされ、その言葉通りに過ごし、城から一回も出たことがないこと。


 容姿は、アーガスが言っていたように“幼子(おさなご)”であり“幼女(ようじょ)”でもあること。

そんな魔王の境遇を知り、(あわ)れむ者が多かったことなど。


 魔王はあっけらかんと話していたが、魔王の姿を知らなかったアーガスはエレノールに対して(いきどお)っていた。

 

 そういえば、アーガスは実直で純粋な存在だと思えてならない。僕に絡んだのも、勝負がしたくて空回りしただけかもしれない。

 結局、自身の立場と感情に揺れ動かされ、あんなことになっていたけど……。今度、しっかりと勝負してみるのも良いかもしれない。

 

 おっと、話が逸れた。こういう逸れる癖ってなかなか治らないよね。


 話を聞いた町の住民たちはアーガス以上に憤慨(ふんがい)

 その他にも、現魔王になって以来、エレノールは好き勝手やっていたという。

 

 魔王を軟禁して、自分は町まで遊びに来ていたとか“良くない話、噂”が多かった。

 そのため、魔王は被害者ということになり、寄付は断られた。


 なんというか、この世界は優しい。


 エレノールのように例外も存在するが、魔族にかぎらず人間の中にも例外の一つや二つはいくらでもある。

 だから、というのもおかしいが、あまり気にすることではないと思う。

 

 いやでも、それにしても優しい世界だとつくづく感じてしまう。


 ――さて、こんな説明をしているうちに町は完全に直った。

 日も暮れてきたし、一応でも解散の号令をしておこう。


「町の皆さん! この度は僕が出しゃばったせいで、このような被害を出してしまいました! すみません! 己の未熟さを改めて実感し、この失敗を今後の糧として精進していきたいと思います! 皆さん、ありがとうございました! そして、おつかれさまです!!」


 そ、それっぽいことは言えたかな?

 僕の言葉に住民達は「大丈夫」「気にしなくていいんだよ」「みんな無事ならそれでいいのさ」と口々に言葉を返してくれる。なんというか、暖かくて甘えたくなってしまう。

 

 しかし、その中で一人、こらえるように震えている影を僕は見逃さない。

 

 小さな魔王さまだ。


「お、おい! この原因……被害の大半は我であろう!? なにお前がコトの発端みたいに言っているのだ!! 我の方こそ、出しゃばらなけれっばっなにをすっ――」


 話している最中に、仲良くなったおばさん達から口を塞がれる魔王。

 モガモガフガフガとまだ話しているが、人間相手に力強く抵抗できない魔王は為す術もなく撃沈。


 魔力的な力はなくなっても、物理的な力はなくなっていないようで、(たくま)しい男たち――おそらく土木建築系――が運んでいた板やら瓦礫やらを片手で持ち上げていた。

 

 人間なら九歳前後かそれくらいの大きさなのに、どこにそんな力が――いや、魔王だから当たり前か。


 その光景をみた男たちが目を光らせていたり、肩を落としていたりしたのを僕は忘れない。


 ◆


 被害が出ていた範囲は狭くなかったらしく、散り散りになっていたパーティメンバーも修復が終わり戻ってきた。

 

 事務的な処理についてはギルドの方に頼んでおいた。

 僕はそういうのが得意じゃない。何事に対しても感覚派で、喋るのも少しばかり苦手だ。

 必要最低限のコミュニケーションはできるけど、多くを求められると困ってしまう。


 ギルドには魔王もついてきた。

 曰く、事の顛末(てんまつ)を見なければいけない者が、それを(おこた)るのはありえない。だそうだ。


 ギルドから出て、パーティメンバープラス魔王で話し合い。


「これで一通りは終わりかな。壊れた結界は魔王がマナタイトの指輪を使いきって張り直してくれたからね。後は宿をとって休もう。今日は流石に疲れたからね」


 ここまでの道のりを共にしてくれたパーティメンバーの顔に“疲れ”という文字は無かった。

 寧ろ、成し遂げた雰囲気を醸している。艶々(つやつや)しているようにも見える。


「んで、アラン。俺らは宿にいくとして、魔王の嬢ちゃんはどうするんだ? 流石に日が落ちてきたのに一人で……って第一部隊? ってのがいるから大丈夫か。でも流石に、町の入口まではついていくんだよな?」

「そうだね。そのつもりでいるよ」

「よし、そんなら、今日最後の大仕事だな」


 パーティメンバーのエディッツは率先して意見を出してくれるからありがたい。


 口調は荒っぽいけど困っている人を見過ごせない。優しくて熱い人なんだよね。

 僕が歳下っていうのもあるけど、いつも助けられてばかりだ。いつか恩やらなんやらを返したいと思っても、なかなか機会が得られない。


 そういえば、パーティメンバーについてなにひとつ触れていなかった。


 メンバーは僕がリーダーということになっていて。

 ラニア、ユーラ、エディッツ、アーティアの計五人パーティだ。

 基本的に一番前が僕で、その後ろに盾持ちのラニアとエディッツが並び、そのまた後ろにユーラとアーティアが並ぶ。


 僕が遊撃。ラニア、エディッツが防御主体のアタッカー。ユーラは攻撃魔法で援護、アーティアが支援魔法で全体を支援。


 五人にしてはバランスの取れた編成だと思っている。


 僕だけじゃ対処しきれない、若しくは暇すぎる時はラニアも遊撃に加わる。

 エディッツが防御特化になり、後ろ二人を守る。


 自信があるわけではないが、おそらく戦闘面は僕一人でもなんとかなる。ただ、それだと何のためにパーティを組んでいるのか分からなくなるため、全員の力を合わせて戦うようにしている。

 

 それに独りだったら長距離移動の際、いろいろと荒んでしまってもおかしくない。仲間――いや、友という存在に何度助けられ、支えられたか分からない。


「む? 別に必要ないぞ。弱くなったとはいえ、その辺の雑魚にはやられん。それに、我は不死身でもあるからな。それじゃお前たち、達者に暮らせよ」


 そう言うと魔王は悠然と歩いて行く。


「え、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


 ラニアが止めようとするが、それを止める。


「ちょ、アラン、ついて行かなくていいの? いくら魔王って言ったって女の子なのよ?」

「魔王とはいえ外見は幼女ですからね。心配です」

「心配」


 ラニアの言葉にアーティアとユーラが続く。

 本来ならばついていくべきだろうが、できない理由がある。


「三人の言い分、普通ならその言葉に従う必要があると思う。いや言われるまでもなくついていこうとするだろうね。けど今は、ここで見送ったほうがいいと思う」


 僕は、なんとなくだが。相手の纏っている雰囲気――というか空気が読み取れる。ような気がする。いや、的中率のようなものは高い気がするんだけどね。


 魔王の纏っている空気は、漠然としているが“この町から一刻も早く出て行きたい”というものに感じ取れた。若しくは“この町に居てはいけない”とも感じ取れる。


 ついて行っても、“一応はこの町の一部”である自分たちは、魔王からしたら“罪悪感を勝手に以って心を抉りにくる存在”にしかならないだろう。


「あぁ、いつものアレね」

「分かってくれてありがとう。ごめんね」


 日が完全に沈み、町の全てに明かりが灯った。

 目に見える場所は明るい。だが、魔王だけは薄暗く、距離を空けるごとに、明るさの中でも見失っていきそうに――


「ぬああぁぁああ!!」


 見失うことはなさそうだった。



 ――今は、父上の書斎にて勇者と指輪について記してある本を探している最中。

 何故、勇者がこの城に居るか。事の顛末(てんまつ)を振り返ろう。


 勇者一行と別れ、独り帰路に就こうとしていたら体中に激痛が走った。


 突然のことに驚きと痛みで叫んでしまい、その声で勇者一行が此方(こちら)に急行。一行が近くに来ると痛みは治まった。


 楽になったところで、ダークエルフの使った探索魔法を応用。

 魔法感知型の探索魔法を周囲に展開した。


 魔法を使うと、その痕跡が多少なりとも残るはずなのだが、反応は特に無し。

 どころか自分に掛けられたであろう魔法かと思われる現象さえも感知しなかったのだ。


 そんなことがあった所以。門までついてくると言った勇者一行と歩き、着いたところで再び別れを告げた。

 

 勇者一行から離れ、暫く歩くと指輪が締まるような感じがした。

 先ほどもこのように締まっていく感覚があり、その後……。


 まあ、案の定というか、なんというか。


 勇者一行と離れたら全身に痛みが走る……わけではなく。勇者から離れると――厳密には指輪から離れると――、この痛みは発生する。


 故に、勇者一行――勇者が言うには“ぱーてぃめんばー”というものだと――を、城へ招いた。というより同行してもらう他なかった。


 道中、勇者から“ぱーてぃめんばー”の紹介をしてもらった。

 途中、エディッツという男が茶々を入れていたが、茶々含めての紹介。


 まずは、目がつり上がっている気の強そうな長い金髪を一本にまとめている娘。

 ラニア・クローバレット。今年で十六になり、結婚適齢期までの指折りを始めているらしい。人間の成人は十五歳からだそうだ。


 町の者を見た感じでいうと、この者の容姿は悪くないといえる。寧ろ良い。背は勇者と私の中間くらいだろう。

 戦闘時は片手剣とバックラーを持ち、防御主体の迎撃、若しくは遊撃の担当だとか。


 次は、髪は短めで色は青緑の娘。

 名をユーラ・フォン・ルーイン。ラニアと同じ歳だが、背は私より少し大きいくらい。

 

 背と胸の大きさを気にしているらしく、少しでも関連する話題が上がると、いつの間にやら居なくなっているとか。

 私も背と胸は小さいが、全く気にしていないぞ。


 ユーラもラニア同様、容姿に恵まれていると言える。


 勇者も良い顔をしているが、この“ぱーてぃめんばー”というのは、美形だけが入れるのか?

 杖の先に青い球体の付いた物を持っており、特殊な力が籠っているようだ。

 戦闘時は、攻撃系の魔法での後方支援。


 ――この二人は勇者に気があるそうな。

 

 三人目はエディッツ・アーベントという勇者より大きな男。

 歳は二十七。先の娘二人より歳を重ねていて、一応この中では年長者ということになる。私には敵わないがな。

 髪は茶色で短く、癖がある。この男も顔は良い。


 人当たりがよく、“ぱーてぃめんばー”の中では町の者たちと一番に親交を深めていたように思える。“気さくなやつ”というのだったか。


 戦闘時は、その大きな身体に見合う盾で防御主体の迎撃を担っているとか。武器はメイスを持っている。

 曰く、俺が一番、アーティアを愛している。とかなんとか。


 四人目はアーティア・レウィン・アーベント。腰まである亜麻色の髪を、背の中ほどで結んでいる。

 優しい雰囲気の女だ。

 年齢は二十四歳で、エディッツとは夫婦らしい。本で読んだことがあるぞ。(つが)いというやつだな。


 勇者と出会う前から、エディッツとともに他のパーティーに所属して、冒険者として活動していたとか。

 勇者、ラニア、ユーラに冒険者としての知恵やらなんやらを教えたそうだ。私も是非、学びたいな。


 エディッツが「ほんとはおっかねーやべえおんなだぜ。とくによるのべっどのうえとか――」と言ったところで、アーティアの魔法により気絶させられていた。どういう意味だろうか。


 ユーラ同様、この者も杖を持っていて、薄い橙色の球体が杖の先に付いていた。これもまた特殊な力が籠っているようだ。

 戦闘時は、後方から回復、支援魔法を行っている。


 各々(おのおの)の出会った経緯も、軽く聞いた。

 ラニアとユーラは勇者との幼い時からの馴染み。


 勇者が“勇者”としての任を得て旅に出る際、それに強行して同行したらしい。始めは動物を狩ることすらまともに出来なかったとか。


 冒険者として活動していたエディッツは“世話焼き”、“お節介”として有名だったらしく。

 勇者以外の二人を見兼ねて、教育ついでに同行することにしたとか。

 アーティアも同じ性格で、ついていくことには反対しなかったそうだ。


 そんな説明じみた紹介をしているうちに城に着き、エレノールに事情を説明。

 嫌そうな顔をしたが、此方もその顔に見合った反応を示し、ぱーてぃめんばーの城での無期限滞在が約束された。


 そして、今に至る――。


「うぅむ……どれだったか……」

「なかなか……見つかりませんね」

「勇者よ、砕けた喋り方で良いと何度言った? 我は気にしないぞ。それに、あまり何度も言わせるようならば力尽くにでも従ってもらうぞ?」

「それなら、今の君には難しいことなのではありませんか?」

「ぐっ――」


 勇者の言葉に詰まってしまう。


 あの指輪のせいで、私の力は吸い取られた。

 全てが吸収されたわけではないようで、端的に言うと“凄い弱く”なっている。

 従来の十分の一か、それ以下だ。


 肉体的には問題ないが、魔法を使う際は困っている。非常に困っている。


「お、これではないか? ――ふむふむ。勇者よ、見つけたぞ!」

「おぉ! さすが、まおーさまであります!!」

「貴様……いつか絶対に(ほふ)ってくれる……」


 内容は前に言ったものと同様。だが、過去に読んでいた部分に追記がある。


「何々? 『指輪は何方(どちら)かが死ぬまで効力を発揮する。その際、死んだ者の指輪は消滅し、生き残っている者に指輪が残る。吸収された側が生き残った場合、力はその者に戻り、指輪は外すことが可能――!!』これは……つまり、勇者を殺せば万事解決ということか?」

「わわ! 待って、待って!! 発想が物騒だよ! 続きがあるようだから! それも読んで!!」

「はっ!? す、すまぬ。えぇと――」


 要約すると。

 ――指輪に吸収された力は、吸収した側が死ねば戻り、その際に指輪は外れるようになる

 ――吸収した側の意思で、力を“された側”に戻したり、吸収したりできる

 ――その際、戻す量は“元あった量”まで、奪う量は“初めに吸収した量”以上はできない

 ――一定距離を置くと指輪により、全身に電撃のような感覚が走り続ける


 追記の内容で、大きな項目はこの四つであった。

 因みに指輪の名前は、サブレッションリングという。

 

 その(ぺーじ)の端に『注意事項! 人間同士が婚姻の(ちぎ)りを結ぶ指につけて行った場合。種族に関係なく、何方(どちら)かが死ぬまでは、指輪の効果により、一時的な不老不死状態になる』と書いてある。


「「は?」」


 二人して()頓狂(とんきょう)な声を出した。

 人間の婚姻の契りを結ぶ指というのは確か――


「こ、ここ、これは!? つまりあれか! ゆゆ、勇者と、わ、我はけっこ――」

「ま、待って! 落ち着いて! 決してそうなったわけじゃない! それにほら、何方かが死ぬまではって書いてあるじゃないか!!」

「勇者よ、焦りによって忘れてしまったのか? 我は、魔王は、不老不死だぞ?」


 冷静な私の言葉に勇者は白目を剥いて固まった。石化魔法は使っていないはず……。

 あぁ、自分も冷静さがなくなっているようだ。


 数秒後、勇者が意識を取り戻した。


 とりあえず指輪の対処方法が分かったから、一度休み、後日に考えようということになった。

 それと、改めて自分が不老不死で、不死身だということを勇者に伝えたら、何かを悟ったような顔をしていた。


 なにか、悪いことをした気分だ……。

 

 って、元がどうであれ、されたのは私じゃないか!


魔法的な力が弱くなっても物理的には強いのです


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