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01 脱出

初投稿です。よろしくお願いします。

不定期更新となりますが、お付き合いいただけたらなって思います。


数字を漢数字に書き換えました。

 

 ――魔王。それは世界中の何からも畏怖(いふ)され、(うと)まれる存在。

 尊敬や敬愛(けいあい)で仕えている者はいない。絶対的な力への恐怖によって(したが)わせる存在である。


 ――とかなんとか言われているが、そんなことはないと思う。


「魔王様! 魔王様はどこだー!!」「またどこかに行ったのか!?」「勇者が近くの町まで来ているというのに!!」「いつもあの人はどこへ消えるんだ!!」「隠し通路は全部埋めたはずだぞ!!」


「ふふん。この我が勝ち目も無しに逃げると思うなよ。伊達に魔王はしていないぞ」


 こんな感じで、ここ最近、ほぼ毎日のように城から抜け出そうとしている。まあ、毎度良いところで捕まっているのだが……。


 そのおかげで数々の魔王城挑戦者が造り上げた、抜け穴や隠し通路が全て封鎖されている。

 何故、あんなにも素晴らしい通路を(ふさ)いでしまうのか。私には理解できない。私が抜け出せないではないか。


 脳筋よろしく正面から抜ければいいのだが、私のために働いている配下を自分のワガママで殺すのは心が痛む。実際、直ぐにでも勇者に倒されるなりなんなりして、この待ちぼうけの日々からおさらばしたい。


 あ、もちろん、死にたくはない。倒されるだけだ。

 だが、城で待っているだけというのは……まあ、つまらないのだ。


 しかし、どうしよう。隠れているベッドの下からどうやって出て、どうやって逃げたものか。

 窓には鉄格子がはめられており、部屋の鍵も外からしか開けられないよう改造されている。部屋から出る際は、配下で一番偉いであろう者が鍵を開け、監視付きで部屋の外に出られる。これを不便と言わずなんというのか。


 窓の鉄格子を破壊しようと試みたが強力な結界が張られているらしく。壊すためにはそれ相応の力が必要になる。

 ……おそらくだが、自室が吹っ飛ぶ。吹っ飛ぶのだ。

 当然、そんなこと出来るわけがない。


「ん?」


 隠れているベッドの下。その脚に目をやるとボタンを見つけた。このボタン、今まで気づかなかった。とりあえず、ポチッと――


「え!? っひゃぁぁあああ――」


 押すと、ガタンッという気持ちのいい音とともに張り付いている床が抜けた。抜け落ちた。


 いや、落ちている。現在進行形だ。

 焦って落ちる床にくっついていたが、そんなことしなくても浮くことができるのだ。

 ならば、存分にその力を振るわなければいけないだろう。

 重力系の魔法で体を浮かせ、上を見る。抜けたはずの床がもう修復されている。


 そういえば、この城は自動修復する機能がついているとかで、壊されたらゆっくりとだが確実に直っていくのだ。

 ん? つまりあれは床が壊れたということになるのだが……まあ、いいか。


 抜け穴や隠し通路なんかは、修復される前に阻害(そがい)する魔法を掛けるか、特殊な道具を使えば修復されないらしい。

 先の素晴らしい挑戦者たちが残したという、素晴らしい抜け穴、素晴らしい隠し通路が作られた所以(ゆえん)だな。


 とりあえず、魔法で光を作り出し、落としてみる。なるほど、結構深い。

 というか、あれだと城の一階か、その下辺りじゃないか?

 もう一度光を出して降りていく。暗視も使えるのだが、目に力を入れることが面倒くさいのだ。

 あと目が疲れる


「ふむ、もう少しだな」


 罠の(たぐい)かと思ったが違うようだ。

 降りた先の壁に『ここは、先代の魔王が逃げ出すために作ったはいいが、勇者に倒されたため一回も使わなかった抜け穴』と父上の字で書いてあったから、違うと確信できる。


 父上は何回か使ったことがあるのかと思っていたら追記でそうでないことが分かる。内容は『あ、俺は一回だけ使ったけど。抜け出した後に勇者が来ちゃって、待ってる勇者を後ろから激励(げきれい)するハメになった』というものだ。父上、最期の最期まで一貫された生き方を……。

 と、言うより魔王はどの代でも逃げ出そうとしているのか……。


 とかなんとか思いながら周りを見ると、壁とは反対側に私が三人ほど通れそうな穴があった。


「これは、どこまで続いているのだ……」


 もう城の敷地からは出たと思うが、だいぶ歩いた気がする。


「あれは……階段? 出口か?」


 光を投げ階段の先を見ると、石でできた板で(ふた)をされていて途切れている。


「これは……ふむ」


 階段を登り、軽く“蓋”を押してみると開きそうだった。


「おっ、どれどれ……よっこいしょっと!」


 なんともいえない掛け声を出してしまった。

 いや、なんだろうなこの年配者を彷彿(ほうふつ)とさせる掛け声は……。


「ぶぁっ!? 油断した!」


 勢い良く開いたため、砂が体に叩きつけられる。全身、(すな)(ぼこり)


「髪の毛まで砂まみれ……おのれ父上」


 とりあえず父上のせいにしておこう。

 蓋を開けると小高い丘になっているのか、辺りを見渡せる。ぐるっと視界を巡らせると遠くに城が見える。お、これは――


「外……だよな? 城の外に出られたのだよな?」


 答えてくれる者は居ないが、興奮していて言葉に出てしまう。


「やったー! 外だぞー!!」


 そう言って叫んだのが間違いだった。周りや城の方を(ろく)に確認せず叫ぶものじゃない。


 遠くの方で「あんなところに魔王さまがいるぞー!!」という声が聞こえる。

 城の見張りが私を視界に(とら)えたようだ。遠視持ちは困る。特にあいつらは目に関する能力に(ひい)でている。これは目潰しでもしないとダメそうだ。


 あ、ついでに耳も良いのだったな。


「すまんな。少しばかり視えなくさせてもらうぞ!」


 此方(こちら)も遠視で見張りを見つける。視界に暗闇をプレゼント。ついでに喋れなくもしておいた。

 ……よし、逃げるぞ!


「えぇと……城があっちにあるってことは、反対側に走れば町があるはずなのだ。町の者には申し訳ないが(かくま)ってもらうとしよう」


 町があるかもしれない方角に向かって全力で走る。離れているように見えたが、ものの数十秒で着いてしまった。意外と近い。

 そういえば、ここに勇者が来ているというが、そいつを利用……(もとい)、そいつに匿ってもらおう。ここまで来られる奴ならば。配下など蹴散らしてくれるだろう。


「町にはギルドというものがあるというが、そこにいってみるか。きっと情報収集なりで勇者もそこにいるに違いない。ふふん、我ながら冴えているな」


 そう言って町を囲んでいる壁に沿って入り口まで行く。……って、門番が居るじゃないか。

 たしか、門番とかが立っている町というのは許可証とか身分証明のできるものが必要なんだよな……。

 どうしよう……。


「あ、壁を飛び越えるか。あまり、ゆっくりはしていられないからな」


 軽く壁を飛び越え……って、ここにも見張りが居るではないか!


「うぉっ!? お前、何者だ! 先ほどの町に向かってきた砂煙は……ん? その角はまお――」

「すまんの! すぐにでも目が覚めると思うから眠ってくれ!!」


 パパっと簡単、睡眠魔法。

 下の方から「今なにか聞こえなかったか?」「気のせいだろ? 疲れてるんだよ」という会話が聞こえてくる。いや、もっと物音に敏感になれ。魔王城の見張りのように。

 よし、なんとか町に入ることが成功。他に誰からも見られていないようだし、問題ないはず。


「さて、ギルド、ギルド……ってどれだ?」


 壁の上から町を眺め、こじんまりした建物が並んでいるのを見る。


「んー、とりあえず降りてみるか。よし、誰もいないな……」


 下を見て、重力魔法を使いながらゆっくりと降りる。

 そういえば、先ほど見張りが言っていたことは良い情報だな。


「角か……魔族なら誰でも生えているらしいが、魔王は特有の角になるらしいな。ふむ、んー……ほい! と、これでどうだ? おお、消えているではないか! よしよし、とりあえず人の気配のする方へ行ってみるとしよう!」


 幻惑魔法を角に掛け、近くにあった窓で確認。人の気配が多い場所へ。

 建物と建物の間の細い道を進んでいく。すると(ひら)けた場所に出た。

 壁の上からでも見えた、この町では一番に広い道。


「なんというか。にぎやかできらきらと輝いているようにみえるな……」


 壁の上から見た時は小さい建物しか見えず、寂しい印象を受けた。

 しかし、大通りに出てみると様々な種族が居て、様々な店が有り、様々な音が聞こえる。


「これが、外界というものか……」


 目に入る景色はどれも初めてで新鮮なものばかり。

 今まで生きてきた自分という存在が寂しく思える。

 これが、外界。


「おい、魔族の嬢ちゃん。そんなとこで突っ立ってっと邪魔だし危ねえぞ」

「――――!?」


 近くで威勢よく声を張り上げていた大男に話しかけられる。おそらく露天商と呼ばれる者だろう。

 突然話しかけられ驚く私をみて、大男は(いぶか)しげな顔をする。


「嬢ちゃん、見ない顔だな。それにしても、ひでえ恰好だな。砂埃だらけじゃねえか」

「ん、恰好? ……あぁ、恰好のことはどうでもよい。それよりもギルドという場所を知らぬか」

「ギルド? そんなもんこの通りをあっちにいけばあるぞ。大抵の町は門から大通りを進んで、その突き当りにギルドがあるってのは世界共通だぜ」

「ふむ、そうか」


 世界共通か。

 そのことを知らない私をどのように思っているだろうか。と、考えてみたが情報を聞いたなら行動あるのみだ。

 軽く礼を言って立ち去るとしよう。


「礼を言う。それではな」


 早くギルドに行かねばな。

 と、思った矢先である。


「おいおい、嬢ちゃん。そりゃねえぜ。こちとら商売でやってんだからなにか買ってってくれよ」

「は?」

「は? じゃねえよ。そっちが必要な情報を(もら)うだけ貰って、こっちは礼を言われただけ……ってのは、なんちゃって商人としても舐められすぎってもんなのよ。いくらちっこくっても、それくらいの受け答えができるんなら……まあ、わかるよな?」


 なるほどな。

 なにか買え。というより、情報料としての軽い金銭を要求しているのか。それとも、普通に売り物を買え、という意味なのか。

 まあいい。


「ふむ。待て」

「お、なんか買ってくれるかい?」

「いや……んー、これでいいか」

「なにやってんだ?」


 大男を無視して指輪を渡す。

 父上、(いわ)く『大量の金を持ち歩くより、換金できる指輪や小さいものを持ち歩いていたほうが楽』とのこと。

 これに(なら)い、いつ城を出ても良いよう。高そうな指輪を付けておいたり、持っておいたりしたのだ。


「とりあえず、これをやろう」

「あぁ、なんだ? 指輪じゃねえか……ってこれ……」


 大男がじっと指輪を見ている。


「これでいいか?」

「……あ、あぁ良いけどよ。でもこれ……あれ? おーい、嬢ちゃん!?」


 了承の返事を直ぐに立ち去る。

 大男がなにか叫んでいたが、今は身の安全……じゃなくて、勇者を優先する。

 町の外に意識を向けてみる。少し離れた場所に、集団で町へ向かって移動する気配がある。もしかして、城からの追手か? いや、それ以外の可能性は無いだろうな。


「ギルドはこっちって聞いたが、どんな建物か聞いていなかったな……」


 ぬかった。

 しかし、それも聞くとなると更に金品を渡さねばいけないような気がする。数はあるが限りがあるのだ。有限は節度を持って使わないと……。

 突き当りと言っていたが、いま目の前にある建物なのかどうなのか。とくにギルドと分かるようなものはない。

 ふむ、とりあえず手近な者に聞くか。


「おい、そこの青いの。ギルドがどこにあるのか教えて欲しいのだが」


 近くに居る薄く青みがかった鎧の優男(やさおとこ)に声をかける。

 優男が振り向き、私と目を合わせた後、優しく答えてくれた。

 ん? なんだこいつ、ただの優男に見えるようで凄まじい力を感じる。


「あ、えぇと、こんにちは。ギルドなら、君から見て右側にある大きな建物だよ。それよりも、その恰好……砂まみれで裸足だけど、もしかしてどこかからか逃げてきたのかい? 良ければ、お話を聞かせてもらえるかな?」


 目と鼻の先で場所を聞くとは、恥ずかしいな。


「お、おぉ、そうだったのか。魔族だがこの辺の地理に(うと)くてな。すまん、すまん。あ、ほれ、礼にこれをやろう。恰好はまあ、そんなところだ。気にするな」


 指輪を外す。優男が私をみて固まったように見える。まあいいか。

 優男目掛けて指輪を投げる。

 節度とはなんだったのか。


「って、うわ! え、これは……ちょっと君! あれ?」


 驚いた顔をしていた凄まじい優男を無視してギルドに入る。

 食事処(しょくじところ)も兼ねているようで、チラホラと食事をしている人間や亜人がいる。今は昼過ぎだが、テーブルを囲み、酒を()む者たちの姿もある。

 酒とは夜や日が沈む時に呑むものではないのか。そうではないあいつらはいったい……。


 そんなことより、勇者が居るかどうかを確認しよう。建物内を見渡してみるが、それっぽい者は居ない。多少なりとも強靭(きょうじん)な肉体を持っているものが居るくらい。全員、普通の人間、亜人たちだ。


「おい、お嬢ちゃん! そんなところに突っ立ってどうしたよ! ギルドに用があるんなら、受付はあっちだよ!」


 木製で大きめのコップに泡がなみなみと入っているもの――なんだったか、液体は黄色でエールというもののはず――を持っている男が指を差して受付の場所を教えてくれる。


 あれは、父上から聞いたことがある。“ヨッパライ”というやつだ。


「聞いてもいないのに、殊勝なことだ。礼を言う」


 節度だよ、節度。今回はなし。すまないな、親切なヨッパライ。

 受付の前に立つと……って意外と高いな、受付。私の頭が届いていない。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルド魔王城前支部へ。当ギルドは冒険者としての登録から金銭の預け入れ、お引き出し。お手紙、お荷物の郵送。物品の換金など様々な手続きを行えます。本日はどのようなご用件でしょうか。あ、私は受付のサニアと申します。以後お見知り置きを」

「ふむ。客は粗雑な雰囲気を醸していたが、お前は丁寧な説明をするのだな。では、受付のサニアよ。勇者がこの町に来ていると小耳に挟んだのだが、どこに居るか知っているか?」

「勇者様一行でしたら、先ほどギルドから出て行かれましたよ。周辺の調査の後に魔王城へ行くと仰っていました」

「勇者一行だと? 仲間を引き連れているのか。まあよい、そいつらの……そうだな。恰好を教えてくれ」

「申し訳ございません。完全な個人の特定に関わることはお答えできません」

「なんだと? くそう……あ、よい。手間を取らせたな。ほれ、褒美にこれをやろう!」


 受付から少し離れ、サニアが見える位置から指輪を投擲する。

 先ほどギルドから出てきたような者を私は見ている。というより話している。おそらく、あいつが。


「うわ! これは、指輪? わわっ、これって高いやつじゃないですか? お客様! こんな高いもの……あれ、居ない」


 喚いている受付嬢を他所(よそ)に、早々と立ち去る。

 きっとあの“凄まじい優男”だ。よく見なくても分かる。あの潜在能力、間違いない。


 ギルドを出て直ぐの所に先ほどの凄まじい優男が居た。

 さっきは気付かなかったが、受付嬢から聞いた連れもいる。優男含め五人ほどで話している。

 聞き耳をたててみれば、なにやら渡された指輪を返すか返さないかで議論しているようだ。


 連れの女が一人、私に気付き指を差してきた。それにつられて背を向けていた凄まじい優男が振り返る。


「あ、よかった! 君、これは高価な物じゃないのかい? 初対面のよく分からない相手に、お礼だからって渡しちゃいけないよ?」

「ん? よいよい、そんなもん。今の我には不要なものだ。お前らで好きにすると良い。それよりも――」


 カンカンカンカン、という音が街中に響いた。


「魔族の軍勢が町を包囲しているぞー!!」


 あ。

 もしかして、あの集団か。


「魔族に包囲されている?」

「とりあえず、早く行くわよ!」

「疲れてるが、町が危険な状態じゃ、(ろく)に休めねえからな」

「皆さん、今直ぐ強化魔法を掛けますので……」

「敵、倒す」


 ふむ、やはり……いやおそらく、この者たちが勇者一行っぽいな。

 推定勇者一行の中で僧侶のような恰好の女が詠唱を始める。


「精霊よ。万象を司りしその力。我が力として発現させ給え。力は我々を守護(まも)り、勇壮なる徒とならん――『崩撃を凌ぐブレイブ・ミスト』」


 言の葉の後に、勇者一行を光る霧が包んだ。

 陽の属性、強化系の魔法だな。見たことがなくて使い方がわからなかったが、あれなら私でもできそうだ。


「君はここにいるんだよ! 皆、いくぞ!」


 後に「おう!」とか「はい!」とか続いて走っていく。

 何も言わなくても、なんとかなりそうだな。その間に何処かに隠れて……いや、あれを引き連れてきたのは、私が原因だからな……。うーむ。


「はぁ、いくか……」


 我ながら支離滅裂だと思う。

 推定勇者一行の後を、露店や建物の陰に隠れながらコソコソとついていく。

 一行が門の前まで走って行き、何かを話している。適当な露店の陰に隠れ、安定のコソコソ。聞こえないわけがない距離なのに、よく聞こえない。あの勇者らしき優男、何かしているな。


 頑張って聞き耳を立てていると、町全体に聞こえそうな声が門の向こうから発せられる。


「我は魔王軍、第一部隊のアーガスである! 貴様らに危害を加えるつもりは毛頭ない!! しかし、この町には現在、魔王様が潜伏している! (うそ)(いつわ)りはない! 直ちに門を開け、捜索を開始したい! もし、隠し立てするようならば、それ相応の処置に移る! もう一度言う! 門を開けよ!」


「魔王だって?」「いつの間にそんなやつが……」「うぇええええん!!」「こら、静かにしていなさい!」「おいおい、なんで魔王が隠れる必要があるんだよ」「俺、この町に先週来たばかりだぜ? はは……」


 なんだか、いたたまれない空気になる。す、すまない。

 ん? あれ、素直に魔王のことを言ってしまうのは不用心じゃないか? 一応、不死身だから簡単に殺されることはないと思うが、それでも問題があるような気もする。


 あ、不死身といえど、勇者の資格を持つものの攻撃では殺されてしまうらしい。特殊な効果があるとかないとか。

 というか、第一部隊とかそんなものがあるとは。


 それと、勇者たちの話を聞くために空間干渉系の集音魔法を使っていたから耳が痛い。叫ぶなら叫ぶと言ってほしい。


「聞こえるか! 僕は勇者のアランだ!! 二、三、質問する! 一つ、その情報の根拠はどこにあるのか! 二つ、危害を加えない保証はあるのか! 三つ、捜索とはどのようなことをするのか! これについてお答え願いたい!!」

「む、勇者だと……。いいぞ、答えてやろう! 先刻、魔王さまが魔王城より逃げ出したのだ!! 魔王さまは黒い寝間着をお召になられている! 髪は白く短めで、魔族特有の角が生えておられる! だが、その角は通常の魔族と違い、魔王と成られる御方特有の形をしている!!」


 ちょ、そんな簡単に答えていいのか? ギルドの受付を見習え。まだ守秘義務に忠実だったぞ!

 というか勇者も勇者だ。お前ら、私が集音魔法を切ろうとすると叫んで……後で覚えていろよ。


「ここに、捜索の間、町への一切の損壊、損害を出さないことを記した誓約書がある! 捜索については町全体に探索魔法を掛けるだけだ! しかし、町に結界が張ってあり、壁から外より魔法を掛けられん!! 門から入ることにより、その結界の中へ入り探索魔法を行使することができるのだ! これでよいか!!」


 外部からの魔法を掛けられなくする結界は、同時に侵入も出来ないものだ。

 指定されている穴――門や水路、もしかしたら抜け道とかだな――以外からの侵入は難しいはずだが……。

 私がこの町には入れたのはどうしてだ? 魔王くらいの存在なら弾かれるはずだが……。


「わかった! しかし、変な素振りが見えた瞬間、こちらも対応を取らせてもらう!」


 と勇者は言って門を開くよう、手で合図を出した。あいつ、連れとの会話の“遮音”やアーガスとか言うやつとの“大声”もそうだが、多芸だな。


 重厚だと分かる低い音とともに大きな門が開き、その門の半分くらいはある大男がゆっくりと入ってきた。その姿は黒に近い灰色の鎧で包まれており、如何にも“戦士”というものだった。

 ふむ、あれはエンシェントオーガか。オーガの中でも一番に強い種だな。

 オーガは軽く息を吸い込み、声を出す。


「では、捜索を開始する!」


 あぁ、耳が痛い。


耳元で拡声器をぶつけられる感じ。


誤字脱字とか、ここの表現って~~など意見があればお願いします。

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