三日目 4
「落ち着きなさい。別によくあることじゃない。とにかく空を見上げて雲の数を数えるのはやめなさい」
「はい」
肩に手を置かれると、妙に懐かしい安心感がある。何だ、この感じ……前もあったような……まあ気のせいだろう。
本殿でクラスメイトより少し遅れてお参りをすると、隣でツアコンさんはまだぎゅっと目を瞑ったまま手をしっかり合わせていた。そんなに祈りたいことがあるのか。神様とか信じるタイプには見えないんだが。
「……どうかした?」
「いや、何を祈ってたのかなって……」
「気になる?気になる?気になる?」
「あっ、やっぱいいっす。さ、次行きましょう」
「とっても大事な人との幸せな未来を祈っていたの」
「言っちゃったよ……」
てか、大事な人との幸せな未来って……随分ぶっちゃけたな。あと何故じーっとこちらを見てくるんですか?そんなに純粋な男子を勘違いさせたいんですか?
「さあ、行きましょう。もうクラスメイトの姿が見えなくなってるわ」
「あっ……」
ほんとうに見えなくなっていた。何て薄情な奴らだ。
ツアコンさんはクスクス笑いながら隣をくれていたが、心なしかさっきより距離が近く感じられた。
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奥宮の参拝を終えると、いよいよ本日のメインイベントとも言うべき場所、中宮に到着した。つってもさっき傍を通り過ぎてたんだけど。
最早クラスメイトは諦め、参拝だけすませて合流しようと考えていると、ツアコンさんが肩をつついてきた。
「そういえば君は私のことはどう思ってるの?」
「はい?」
いきなりすぎる質問に一瞬聞き間違いかと思ってしまった。
「す、すいません、もう一回言ってもらえますか?聞き間違えちゃったみたいで……」
「君は私のことはどう思ってるの?」
「ええ?ど、どうって……きれいなお姉さん?」
「ありがとう。他には?」
「距離感バグった変な人?」
「ありがとう。他には?」
ここにもありがとうを言うのか……別にいいけど。
まだ何か促されているので、ふと思いついた事を口にしてみた。
「昔どっかで会ったことありますか?」
「ええ、あるわ」
「ああ、なるほどね。……えっ?マジ?」
あっさり肯定されたせいか、つい聞き流してしまうところだった。ツアコンさんはようやく気づいたのと言いたげな呆れた表情を見せた。
「やっと思い出してくれたのね……」
「いや、思い出したとかではないんだけど」
「……えい」
「いっ!??」
めっちゃ足踏まれた!これ本気で怒ってるやつだ!
ツアコンさんはぷいっと顔をそむけ、恨めしそうな声でつぶやいた。
「修学旅行終わるまでに思い出さなかったら二度と会わない」