三日目 2
「さあ、皆さん。今日は人生史上最高の一日にしましょうね」
『はい!』
おい、こんな所で人生のピークを迎えていいのか。
ここまで来ると普段のテンションを割と保っている自分の方がおかしいんじゃないかと思えてきた。
だが、ここまで来て何をどうこうできるわけでもないので、とにかくついていく事にする。
「どうかした?」
「いえ、これはこれで楽しいなと思っていたところです」
「もっと楽しくなるから期待してていいわ」
「…………」
その発言は不安な種にしかならないが、ここは世界有数の観光地・京都。どこだって楽しめるはずだ。
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「はあ……はあ……」
「これは……想像以上ね……」
俺達の班は現在鞍馬寺にいる。
ぶっちゃけそこそこきつい。軽い登山だな、こりゃあ……。
階段が長く、本殿に辿り着くだけでも割ときついが、そこから貴船神社へ行く道も思ったより長い。こっちから行った方が下り多めで後が楽らしいけど。
ウチの班は文化部多めだからか、既に息が上がっているのが多い。何を隠そう帰宅部の俺はもう帰宅したい。いや、やっぱりしたくない。ここで諦めちゃダメだ……!
「い、意外とツラいわね……」
「調べたんで知ってはいたんですが……てか、何でここにしたんですか」
「……くじで決めたのよ」
「…………」
あれ、これ怒ったほうがいいやつ?
まさかの理由にぽかんとしていると、バスガイドさん改めツアコンさんはそっぽを向いた。
「そんなの……言えるわけないじゃない」
「え?」
「さあ、行くわよ。先は長いわ」
『はいっ!!』
「…………」
ウチの班、何で息切れしてんのにこんな元気なんだよ……実はあのツアコンさんに調教でもされているのだろうか。そこだけ聞くと少しご褒美な気もするが……。
背比べ石や木の根道をのんびり眺めたり、大杉権現堂を写真に収めたりしながら、自分達のペースで話しながら歩いていくと、いつの間にか下りの道に差しかかっていた。やっぱり誰かと話しながら歩くのって大事。
山の中の澄んだ空気を改めて吸い込むと、その心地よさを感じる余裕が出てきた。
それはクラスメイトやツアコンさんも同じらしく、心地よさそうな笑みを見せていた。
「なあ、あのお姉さんの連絡先聞こうぜ」
「いや、いい。あと無謀な真似はやめとけ」
俺はもう知ってるからな。
とりあえずクラスの恥にならないように止めておくとしよう。
「この後貴船神社かぁ……楽しみだなぁ」
同じ班の水野さんが呟いたので、ここぞとばかりに話しかけることにした。チャンスは作るものだ。
「水野さん、そんなに楽しみだったの?」
「うん。だって縁結びのご利益があるんだよ♪」
「…………え?」