初日
「ふぅ……」
「いや、ふぅ……じゃないですよ。そろそろ降りてもらえませんかね……」
「それは……無理な相談ですね」
「何でっ!?」
バスガイドさんは俺の抗議など全く気にする素振りも見せず、マイクを使い、クラス全体に話しかける。
「右手に見えますのが……この町唯一の本屋です」
知ってるよ!あと唯一とか言うな!皆気にしてんだよ!
「え~、では今から高速に入りまーす」
カーナビかよ。一々言わなくていいよ。他のクラスメート達は、良くも悪くもこちらには気を留めずに、それぞれ談笑していた。
ちなみに、先生はバスガイドさんに見とれていた。
*******
高速道路に入ってから20分くらい経って、バスガイドさんは俺の膝の上に座ったまま話しかけてきた。そろそろ慣れてきた自分の適応力が恨めしい。
「ねえ、君……」
「はい?」
「……一応聞くけど、彼女いるの?」
「い、いや、いませんけど……」
お、おい……いきなりどうした?や、やっぱりこれ……フラグだったのか?まだ心の準備ができていないんだけど……いや、そんな事じゃいかん。チャンスは全力で掴みにいかねば。
すると、バスガイドさんはマイクを手に取り、口元へ寄せた。
「皆さん。赤崎君は彼女がいないそうです」
「は?」
いきなり何言ってんの、この人!?
背後からはどっと笑いが溢れ、「知ってるよ~」とか「興味ねえよ」とか聞こえてくる。おい、今言ったの誰だ。地味に傷つくんだが。
「ちょっ……何言ってんすか!」
「……やっぱり座り心地はよくないわね」
「だったら降りてくださいよ!しかも俺の話はスルー!?ってあれ?」
窓の外を見ると、すぐ傍を白バイが走っているのが見えた。あれ、これってヤバいんじゃ……。
「あ、あの!この態勢まずいんじゃ……!降りたほうが……」
「…………(ぐっ)」
「…………(ぐっ)」
何故か白バイ隊員とバスガイドさんは、お互いにサムズアップし合った。何でだよ。おかしいだろ。おい、颯爽と走り去るな。このお姉さん捕まえなくていいの?いいのか。
そんなこんなで、あっという間にフェリー乗り場まで到着した。
*******
「お~い、着いたぞ!皆一旦整列しろ!」
先生がややテンション高めに呼びかける。結局俺を助けてはくれなかった事実は忘れない。このエロオヤジめ。
バスガイドさんは、すっと立ち上がり、俺を振り返ることもなく、そのままフェリーへと乗り込んだ。え?あなたもフェリーに乗り込むの?タイトル崩壊してしまわないですか?
初日と4泊目はフェリーで過ごすのだが、もしかして……フェリーの中でも絡んでくるのだろうか……。
「赤崎、どうした?早く行こうぜ」
「あ、ああ……」
「そういやお前、バスガイドさんと何か話せた?」
「……いや、そんなには……」
結局、フェリーの中ではバスガイドさんと遭遇しなかった。