三日目 12
「弥生お姉ちゃん……そうだ、俺……」
「えっ、何?どうしたの?もしかして……」
「うん、思い出した……」
「えっ、マジで?どんなタイミングかしら?」
「すいません」
まじまじとこちらを見つめるツアコンさん、もとい弥生お姉ちゃん。
やがてその表情にはこらえきれない喜びがにじみ始めた。
「やったぁ!」
そう言って思いきり抱きついてきた。
過去にこうされていたこともまざまざと思い出すことができた。
きっかけはさっき写真を撮ろうとしたあの瞬間。
俺は確かにこの景色を見たことがあった。
小さな頃、二人で親がテーブルの上に置きっぱなしにしてあった旅行雑誌を見た時……
『ここきれいだね〜』
『そうだね〜、翔太くんはこういう場所行きたいの?』
『うん!絶対お姉ちゃんと一緒に行く!』
『そっか。じゃあ おっきくなったら一緒に行こうね』
『うん!』
「……ごめん、弥生お姉ちゃん」
「いいのよ。後でたっぷり償ってもらうから」
「うっ……」
償ってもらうって……なんか強めのワードが出てきたんですけど……。
汗が背中を伝う感触にぞわぞわしていると、弥生お姉ちゃんがぷっと噴き出した。
「冗談よ、冗談。そんな怖がらなくてもいいじゃない」
「いや、教師の弱みを握りまくってる人から言われると恐怖が止まらないというか……」
「それはそれ、これはこれよ。思い出してくれたなら言うことはなし」
「ならいいですけど」
「あ、でもクラスの子と浮気しようとしてた事に関しては後でゆっくりと聞かせてもらうわよ?」
「……はい?」
あれは浮気に入るのだろうか?ていうか俺達の関係はもうそういうことになっちゃってるのか?展開がアレすぎてついていけてないんだけど。
「まあ、それは向こうに帰ってからきっちりやればいいわね」
「そ、それより、観光してこうよ!せっかくの京都なんだから楽しまなきゃ!」
「うふふ、それもそうね。楽しみは後にとっておかなくちゃ」
「楽しみとか言っちゃったよ……」
「大丈夫。痛いことなんてしないから」
「それ多分痛いやつですよね。そうですよね?」
「大丈夫、痛いのは私のほうだから」
「いやいや、未成年相手に何どストレートな下ネタかましてるんですか!」
「あら、いけない。喜びが溢れ出しちゃったわ」
今溢れだしたのは単なる欲望だと思うんだけど……。
そんなことを考えていたら、さっきみたいに手を繋がれた。
「じゃあ後1時間位は一緒に楽しみましょうか」
「……はい」
そんな無邪気な笑顔を向けられたら、もう頷くしかないじゃないか。
夜の京都はほんのりとした灯りの中でぽつぽつと人が行き交っていた。