三日目 11
背筋が凍る思い。
そんな小説で読んだような表現を実際に体感することになるとは……いや、今はそれどころじゃなく……。
「い、いつから気づいていたんですか?」
「3時間前から」
「だいぶ前じゃねえか!よくさっきまであんな空気出してたなぁ!!」
思わずマジツッコミしてしまった。
その様子にツアコンさんはクスクスと笑う。
「だって一生懸命合わせようとしてるのがかわいかったんだもん」
「……怒ったりとかはしないんですか?」
「怒ってほしいの?」
「いや、そうじゃないですけど……嘘ついてたのは事実なんで……」
「そうねぇ、じゃあ……」
ツアコンさんは小悪魔めいた笑みを見せた。あっ、これなんかやばいやつだ。
「これは貸しにしておくわね」
「…………」
ほら、きたぁ!これ絶対ヤバいやつじゃん!
俺、修学旅行から無事に家に帰れるんかな?
などと言ったことは口には出さず、俺は黙って頷いた。
こんなやりとりをしながらも、どちらも足を止めることはなく夜の街をゆっくりと俺の知らない目的地へと進んでいた。
いつの間にか周りの風景はだいぶ変わっていて、いかにも情緒溢れる京都の街並みといった雰囲気に変わっていた。
確かここは松原通りだったかな。
……あれ、なんか見た事あるような?
「ここを君と歩きたかったの」
「へえ、そうなんですね」
「昔君と約束したから」
「…………」
それを言われてしまったら何と返せばいいのかわからない。
「あの……ウチの母親が弥生ちゃんも一緒にいるの?とか聞いてたんですけど、事前に連絡してたんですか?」
「もちろんよ。ちゃんとご挨拶もすませてるわ」
「…………」
気になる言い回しだが今はスルー推奨。
とりあえず人違いということもないらしい。
「あの……」
「大丈夫よ。いやらしいことはしてあげるから」
「まだ何も言ってないんですけど!?いや、このままデート続けてもいいのかなと……」
「デートと思ってくれてたのね。ありがとう」
「…………」
うん、とりあえずそれほど怒ってはなさそうだ。かといって罪悪感は残るんだけど……。
「ねえ、写真撮ってくれない?」
「いいですけど……」
俺は彼女から携帯を受け取り、そのまま構えた。
「こっち向かないんですか?」
「ええ、これでお願い」
まるで観光客みたいな構図で1枚撮り終えると、不意にある場面が脳裏をよぎった。
『ここ、きれいだね』
『そうね』
『ねえ、お姉ちゃん!いつか一緒にいこうね!』
それは小さな頃の思い出の1ページが風にあおられてめくれるように見えた映像。
……あ、思い出した。