三日目 10
「いい風ね」
「そう、ですね」
少し寒い気もするが悪くない気温だ。少し歩くことを考えたらちょうどいいぐらいだろう。
ツアコンさんの横顔は夜の街明かりに照らされてるからか、昼間よりも見た時よりも妖艶さを増していた。それでいて口元はずっと緩んでいて、同年代のような親しみを感じてしまう。
「もしかしてちょっと引いてる?」
「まあ少しは引いてますけど……てか探偵もやってるんですか?」
「まさか。ちょっと調べものが得意なだけよ」
「…………」
それを探偵と言うんじゃなかろうか。
うっかり聞いてしまったことを後悔しながら、とりあえず修学旅行の話題に変えた。
「今日は結構楽しかったですよ」
「そうね。次は二人っきりで来ましょうね」
「う、うん……」
何故だろう?二人っきりという言葉に狂気を感じる。他意はないのはわかるんだけど……怖いです。
「そういえばどこに向かってるんですか?」
「実は何も考えてなかったりするわ。この時間だと開いてる場所も少ないから」
「えっ?じゃあ何で……」
「二人でこの街を歩きたかったの」
そう言ってツアコンさんは朗らかに笑ってみせた。
……いや、反則じゃないですかね。こんな笑顔見せたれたら大抵のことは許せてしまう。
そんな弱い自分に呆れていると、手にひんやりとした感触が絡みついた。
「ん?……はっ?えっ?」
「ふふっ」
視線を下ろすと、ツアコンさんがしっかりと俺の手を握っていた。
その感触に狼狽えながら何とか平静を保って……いや、やっぱ無理!緊張やら何やらがとても隠せそうもない。
「い、いきなり、どうかされましたのでしょうかか?」
「ほら、このほうが怪しまれなくて済むでしょう?」
誰が何を怪しむのかは知らないが、そういうことなら仕方ないかとそのままにしておくと、ツアコンさんはそのまま視線を前方に固定した。
と、とにかく!頑張って話を弾ませて昔の事を聞き出すんだ!もしかしたら俺もうっかりこの人の事思い出すかもしれんし。
「そ、そういえば最後に会ったのいつだっけ?」
「……いつだったかしら?」
アンタが忘れるんかい!
どっちも異世界人とかに記憶刈り取られてるんじゃねえのか!
「なんてね、冗談よ。君の小学校の卒業式前日に会ったのが最後よ」
「……あ〜」
とりあえず頷いておく。せめてもう一声欲しいところ。
「まあ、でも時間が変えていくことも色々あるわよね」
「?」
「君、本当は思い出してないんでしょ?」
何気ない会話を続けるみたいに彼女はこれまでどおりのテンションで呟いた。