三日目 6
「ふぅ……」
精神統一をはかり、記憶の糸を一本ずつ手繰り寄せ、その輪郭がはっきりしてくるまで意識を研ぎ澄ませ……無理だな。そんなんできるならとっくにやっとるわ。
もしかして、この京都の街に秘密があるとかじゃないよな?
だとしたら今から行く場所にも何らかの意味があるはず!
……これまで行った場所にも何かあったかもしれんけど。
もし見落としてたらどうしようと思いながらも、俺はこの先の目的地に思いを馳せた。
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「金閣か……」
京都有数の観光名所に到着し、いざ実物を目の前にしてから、記憶と結びつけようとしても何も思い浮かばない。
「随分悩んでるようね。観光地で見せる顔じゃないわよ」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「君がはやくケリをつけないからよ」
「……それはそう、なんですけど」
「下心に突き動かされてもその程度なのね。ED?」
「んなわけあるか!」
「じゃあ、まだ頑張れるわね。あ、ちなみに京都とかは関係ないわ」
「…………は?」
「私、京都に来るのはまだ3回目だし。旅行で来た思い出しかないから、どれだけ京都の事考えても何もうかばないわよ」
「何やて!?」
思わず関西弁でツッコんでしまった。
俺はなんて無駄な時間を……いや、まだそんな時間も経ってないか。
ツアコンさんはじーっとこっちを見ながら、さりげなく足を踏みつけてきた。
「ごめんなさい。わざとよ」
「潔すぎてびっくりです」
「はぁ……君の記憶力の悪さにはびっくりね。成績大丈夫?」
「上の中くらいです」
「……今日一番の驚きだわ」
「ナチュラルに失礼!一応真面目ないい人で通ってるんですけどね」
「何そのモテない代名詞みたいな評判。ちょっとお姉さん泣けてきたわ」
「やかましいわ!」
「昔からそういうところは変わらないのね。……危ない。うっかり思い出話しちゃうところだったわ。なかなか誘導尋問が上手いわね」
「何一つ誘導しようとはしてないんですが……てか、今の言い回しだと……あっ」
「えっ!?も、もしかして……」
「すいません、トイレ行ってきます」
「……置いていくわね」
その言葉が冗談であることを祈りながら、俺はまっすぐにトイレへと向かった。
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「あっ、もしもし、母さん?聞きたいことがあるんだけど……」
「なるほど、お母さんに聞こうとするとは……よく考えたわね」
「な、何でいるんですか!?ここ男子トイレですよ!?」
「今だけ男」
「今日びババアでもその言い訳しねえよ!」
「あら、アンタ今弥生ちゃんと一緒にいるの?」
「……………………えっ?」




