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三日目 5

 次の目的地へと向かうバスの中。同じ班の田崎の隣で頭を抱えていた。


「……わっかんねえ」


 うっすら思い出しかけた気はしたが、はっきりとはわからない。

 会ったのは小さい頃だろうか?もしかして一緒に東大に行く約束とかしちゃったのだろうか?いや、それはないか。それなら女子大生として俺の目の前に現れるはずだ。あの人は今バスガイドからツアコンにジョブチェンジしちゃってるし。

 ……もしかして、元カノだったとか!?

 んなわけないか。いかん、何を考えてるんだ。脳みそが修学旅行テンションでおかしくなっちゃってるよ。それに高校生で元カノ忘れてるなんてどんだけなんだよ。とにかく彼女ができた記憶がないからこれも違う。


「なあ、さっきから何をブツブツ言ってんだ?」

「今シンキングタイムなんだよ、ちょっと静かにしててくれ、NPC」

「クラスメートをNPC扱いするな。もしかしてお前……やらかしたか?」

「何を?」

「修学旅行テンションで告白してフラレたとか。もう既にウチのクラスは5人の男子が撃沈している。しかも同じクラスの女子に」

「なんだよ、それ。ちょっとしたモラルハザードじゃねえか。あとウチのクラスの男子、どんだけ人気ないんだよ」

「まあこればっかりはな……」


 クラスメートの田崎は窓の外を眺め、溜め息を吐いた。


「やけにでかい溜め息だな。ん?もしかしてお前……」

「何も言うな」


 田崎はバスを降りるまで一言も口を開かなかった。

 ただ気まずいだけのクソみたいな時間だった。仕方ないけど。ドンマイ、田崎。

 余計なことにだいぶ思考時間を割かれてしまったが、かえって脳を休ませるきっかけになったと思うことにしよう。

 すると、いつの間にか隣にいたツアコンさんが話しかけてきた。


「まだ思い出せないのかしら。これだから童貞は……」 「童貞と記憶力は関係ねえ!!あと童貞は貴重な女性との接触は忘れねえ!」

「そ、そうなの……うん……が、頑張って」


 なんかドン引きと応援された!!

 ていうか、さっきはあんな事言ってたのに普通に話しかけてくるんだな。


「そんなに熱い眼差しで見ても脱がないわよ」

「頼んでないです」


 あっ、脱いだら思い出すかもとか言っときゃよかった!俺のバカ!


「じゃあ思い出したら脱ぐとかはどう?」

「…………おお」


 思わず「おお」とか声が出てしまった。

 ツアコンさんは怪しげな笑みを見せ、亜麻色の髪を風に泳がせ、胸の前で手を合わせている。

 ……こうして絶対に負けられない戦いが幕を開けた。


 

 

 

 

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