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プロローグ


 修学旅行。

 それは学校生活における最大級のお楽しみイベントの1つである。体育祭のように運動神経の残酷なまでの差はなく、文化祭のような大変な準備もいらない。つまり、割と気軽に誰でも楽しめるイベントだということだ…………多分。

 とにかく、俺はこの日の為の下準備は怠らなかった。

 修学旅行先の京都・奈良・大阪の下調べはバッチリだし、班決めをおこなってから、班のメンバーとはこまめにコミュニケーションを取った。

 ここまでは完璧だった。

 俺は意気揚々とバスに乗り込み、楽しい修学旅行に思いを馳せる予定だったのだ。しかし……


「あの……」

「はい、どうかしましたか?」

「バスガイドさん……何で俺の膝の上に座ってるんですか?」

「お気になさらずー」

「いや、無茶言わんでくださいよ!」


 俺の膝の上にはバスガイドのお姉さんが座っている。

 もう一度言おう。俺の膝の上にはバスガイドのお姉さんが座っている。時を遡ること、30分前……


 *******


「お~い、お前らはやく乗れ~!」


 担任の指示に従い、事前に決めた席にそれぞれ座る。

 俺は右側の一番前の座席だ。本当は真ん中辺りで楽しく雑談していたかったが、ジャンケンで決まったものは仕方がない。まあ、今の内に気持ちよく睡眠をとっておいて、現地に着いてから楽しもう。

 担任を含めた全員がバスに乗り込み、そろそろ出発かと思ったところで、誰かが乗り込む音がした。

 目を向けると、スーツ……いや、制服姿のバスガイドらしき女性の姿がそこにあった。

 亜麻色の長い髪に、制服の上からでもわかるしなやかなスタイル。ややつり目がちの整った顔立ちは、クールというか、少し性格きつめな印象を受ける。しかし、間違いなく美人だ。

 いや、それより…………何故、バスガイド?

 普通は現地に着いてから合流するものじゃないのか?

 こんな見慣れた街からガイドされても、あんまりありがたみがないんだが……。

 クラスの皆も、突然のバスガイドの乗車にどよめいている。


「先生、バスガイドさんは現地に着いてからじゃないんですか?」


 委員長がクラスを代表して先生に尋ねると、のろのろ立ち上がった先生は、白髪混じりの頭をかきながら、頬を赤く染めた。可愛くも何ともない。


「いや、実はな……最初っから可愛いバスガイドさん乗っけてくださいって校長先生に土下座して頼んだら、本当にお願い聞いてもらえて……」

『…………』

「まあまあ皆、そんなゴミを見るような目を向けるんじゃない。こらこら、三井。四文字言葉の書かれたプラカードを下ろしなさい。南野、親指を下に向けるのはやめなさい」


 こ、このオッサン、正気か?なんてくだらないワガママを……。

 何とも言えない残念な気分になっていると、バスガイドさんは備え付けのマイクを取り、さっきとは打って変わって、にぱっと可愛らしい笑顔を向けてきた。


「はいはーい。皆さん、今日はこのクラスの担任の桑野先生の要望で、皆さんのクラスに最初から最後まで付き添う事になった、バスガイドの水戸です。よろしくお願いします」


 笑顔の割に微妙なローテンションの挨拶をして、バスガイドさんは……すとんと俺の膝の上に座った。

 ……は!?

 柔らかい感触、甘い香りにドギマギしながらも、さすがに訳がわからずに声を上げる。


「ちょっ、ど、どうしたんですか、い、いきなり!俺にそんなドッキリは……」

「じゃあ、運転手さん。出発してください」

「あいよ」


 いや、待て。ここに頭のおかしな座り方してる奴がいるぞ。

 しかも、バスガイドさんってこういう指示出す人だっけ?


 *******


 てなわけで、膝にバスガイドを乗っけて、僕の修学旅行は幕を開けた。

 え?どんな状況かって?言葉通りだよ。

 羨ましい?いや、最初は俺も嬉しかったよ?訳のわからないフラグ立った!!なんて考えたよ?

 しかし、今はもう戸惑いしかない。

 てか、誰か気づけよ。特に通路挟んだ左側の窓際にいる桑野先生。

 あっ、こっち見た。


「せ、先生……どうにかしてくださいよ……」

「……羨ましい」

「は!?そうじゃなくて、こ、この人どうにかしてくださいよ!」

「ははは、いいじゃないか赤崎。滅多にないことだぞ」


 ダメだ、話にならん!このオッサン頭おかしいだろ。薄々感づいていたけど!

 そこでバスガイドさんは、ポツリと呟いた。


「……座り心地はあまりよくないわね」

「だったら降りろや!!」


 


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