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5:門番:ドモヴォーイ(2)

 機体に目を向ける。

 全長7~8m程、平均的な人型の機体だ。傷だらけの老朽機というのは、まぁ流れ機士としてはありえる、もっとも最近は使い勝手の良い獣機も増え、となれば流れ機士としては上等な部類か、この塗装の剥げ落ちた外装でなければ。


 そして、この男が差し出した通行手形に押印された朱印がまた変わっていた。


 「ソグディアナ」の「タラス」――国名は、まぁ知っている、知ってはいるがそれだけだ。門番としてこの地を離れたことがないドモヴォーイだが、交易都市の門番ゆえに噂話や遠く異国の名称や土地柄についての知識はそれなりにある。そのゾグティアナといえばここから遥か遥か西の彼方のそのまた遠くにある国だ。山河をいくつも越え、枯れた土地を抜け、また再び山河を超えたそのまた先の国だ。そこはこのヌワコットのように外壁をめぐらせた都市が国々としてまとまり、水場と農地と香木や麝香や香辛料や絹を運ぶ隊商路の支配権をめぐって、王族だか祭主だか領主だかがよく分からないそんな高貴な血族同士がひたすら戦争を繰り返している土地柄と聞く。水玉の瞳と栗色の髪と褐色の肌の美姫がおり、顎鬚あごひげ豊かな目鼻立ちが深い血気盛んな男たちの土地と聞く。


 ――なればこそ鷲鼻の男でなければならぬ。なのにこの男の風貌はこの地のものとそう変わらぬ。やや眉は濃いがその丸い鼻は決してはるか彼方の隊商路から来訪する西方域の商人たちとは違う。異貌でないことが異貌となっている。となれば、この通行手形は偽物か、偽物とするにはあまりに場違いで、拾いものとしたらそれに付帯される「乗機」の特徴は一致する。


 白い大鎧、機名は「ペルン」――特徴のない中型機、頭部は天頂部が尖った兜、通常の2つカメラ、肩当は垂れ、腰回りは簡素、5本指の手には古びた長槍、腰に中剣、そして傷だらけの装甲板。色落ちが激しく関節周囲部や突端先端部での摩耗も激しい。普通ならば縁取り装飾を施すであろうそれらの個所には、擦り切れ削り取られ、より一層鮮やかな乳白色が見えるだけだ。胸部装甲や脚絆部では何度も何度も補修を行ったであろう継ぎはぎ装甲も見て取れる。しかしその仕上げは丁寧なようだ、年数による色合いの違いがあるだけで、継ぎ目は装甲と一体化している、手抜きは見うけられない、丁寧な仕事ぶりだ。そして何より、首や肩や脇や膝関節部を覆う砂除けの僅かな垣間から見える培養筋肉の色鮮やかさは、いま長旅を終えたばかりとも思えないほどに透明に色づいていた。この機体が耐久力に優れた名機であることは確かだろう。そして男の名は――


「で、お前さんの名前は何と言うのかね」


 そう尋ねたドモヴォーイに対し、男は札に書かれた通り「アルマムベト」という名を答えた。と同時に上層背後から


「おいおい、機士を通すなら、この俺に話を通してもらわないとな、ドモヴォーイ」


 という声がかけられた。

 またか、ドモヴォーイは心の中でちいさくため息をついた。そして体を半分ひねり、


「これから話を聞き、そしてお前さんに連絡を取るつもりだったよ、ジャバウォーキ」


と答えた。

 門扉の横は尖塔になっている。そこは望楼でもあり、そこは兵士の詰所でもあり、そこにはドモヴォーイの手配から唯一外れる門番獣機兵の「ジャバウォーキ」がいる場所でもある。


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