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女王伝2  作者: 桜ノ宮
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序章

第2部スタートしました。更新はゆっくりですが、よろしくお願いします。

 少女は薄暗い階段を駆け下りた。


「お母様!」


 ガンッと柵を揺する先に、石畳の冷たい床に薄汚い布を引いた上に倒れている女性がいた。

 息苦しそうに呼吸を繰り返す彼女に少女の声など届いていなかった。

 地下牢には、蝋燭の明かりだけが唯一の光であった。


「……っ、なんで!」


 階段を伝って明るい声が聞こえてくる。

 女王を讃える声だ。


「どうしてお母様を治してくれないのよっ」


 癒しの光は、地下牢に閉じこめられている女性を癒しはしなかった。

 盗みを働いた咎で牢に入れられた女性は、本来なら恩赦の対象として解放されるはずであったが、取り仕切る役人が許さなかったのだ。おかげでこの地域の犯罪者は一生牢の住人となることになる。


「よぉ、いいかげんオレのモンになったらどうだい?」


 にやにやしながら話しかけてきたのは、少女を連れてきた牢番であった。着崩した出で立ちで、微かに赤らんだ顔。吐息からは酒の匂いがした。


「そしたらおめぇの母ちゃんだって助けてやるぜぃ?」


 牢番が少女に手を伸ばす。けれど少女はぴしゃりとたたき落とした。


「あたしをだれだと思っているの? あんたのようなゲスが触れていいと思ってるの? 穢らわしい! 早く消えてっ」


 嘲り笑うと牢番の顔から笑みが消えた。


「なんだぁ? このアマっ、つけあがりやがって! 浮浪者がイキがってんじゃねぇよ」

「や、やめ……っ」


 やせこけた少女が体格のよい牢番に敵うはずもなかった。

 牢番が少女の服を引き裂き、少女は悲鳴をあげた。


「へへっ、そら、見物人がたんといるぜ」

「……っ」


 ちらりと視線を動かした少女は息を呑んだ。そこには身なりの汚い男たちが、飢えた獣の目で震える少女をなめ回していたのだ。

 唯一の救いは母親の意識がなかったことだろう。

 少女はきつく目を閉じると諦めたように四肢を投げ出した。すっと流れ落ちる涙を牢番が舌先で舐めとった。

 牢番の荒い息づかいが薄暗い地下牢に響き渡る。

 けれど少女は唇を噛みしめて声を上げようとしなかった。

 苦行のような時間がただただ早く過ぎることを祈って。

 しばらくすると男が体を引いた。


「……っぅ、よかったぜ」


 まだ情欲をたたえた目を細め笑った牢番は、羽織っていた服を少女に投げつけた。

 半裸にされ、青ざめた顔で床に座り込んだ少女は、しばらく呆然としていたが、はやし立てる男たちの声にハッとして上衣を着込んだ。

 震える足。

 初めてだったのだ。


「……る」


 少女が震える唇をゆっくりと開いた。噛みすぎた唇からは血がしたたり落ちた。それを拭った少女の目には青白い炎が宿っていた。


「後悔させてやるっ」


 牢番を睨みつけた少女は、胸元をかき寄せると痛みに顔をしかめながら階段を上った。


「また遊ぼうぜ。母ちゃんの面倒はちゃあんとみといてやるからさ」


 げひた笑い声が、背中に投げつけられる。

 そこに、はやし立てる声が重なる。


「なんだ、もう、終わりか? あっけねぇな」

「嬢ちゃん、次は、おいらと遊ぼうぜ」


 嘲笑と欲望の混じった声が、遠くなっていく。


「許さない! 許さないっ、許さない……っ、みんなアイツが悪いのよっ」


 わき上がるのは激しい怒りだった。

 すべてを奪ったアイツ。

 アイツのせいで、自分はこんな目に遭ったのだ。


「地の底へだって、追いかけてやる。追いかけて、追いかけて、同じ目に遭わせるやるっ」


 かつては、気位の高い猫のように輝いていた双眸には、暗い光しか宿っていなかった。

 呪詛を繰り返す彼女の口元が、いびつに歪んだ。


「アイツが幸せになるなんて、――絶対に、許さない」

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