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夕陽を待つ人

作者: 五十嵐 涼

金色の帯の様に荘厳で光り輝く夕陽をマンションのベランダから僕らは眺めていた。


雲の合間から放たれる白、黄、橙の光の万華鏡がまるで僕をその先へと導いてくれている様だ。


「ああ、なんて美しい。あの時の夕焼けもこんな風に綺麗だったね」


振り返ると、僕の後ろで君はただ黙っていた。


「憶えているかい?小学生の時、ほら、公園でいつもみたいに追いかけっこをしていてさ。あんまり夕陽が綺麗だから走る事もやめて立ち尽くしてしまったよね」


子供の時からいつも僕の相手は君だけだった。


日が暮れるまで2人で追いかけっこをしたりして遊んだものだ。


君はいつだって僕が決めた遊びに嫌な顔一つせず付き合ってくれた。


そして、大人になった今でもこうやって傍を離れずに居てくれる。


君は無口だから何も言わないけれど、今僕が何を考えているのかきっともう分かっているだろう。そして許してくれているんだろう。


「いつも一緒に居てくれてありがとうな」


僕はまた夕陽を見つめた。眩しさと心を締め付ける痛みで僕の瞳は潤んでいた。


「それから、ごめん」


そう言うと僕はベランダに手をかけ、まるで重力から解き放たれた様にふわりと空へと飛び立った。


一瞬、きっとほんの一瞬の事だったと思うが、僕の体は空に溶け込む事が出来た気がした。


(何と言う開放感だ。僕を縛る者なんてもう居ないんだ!)


しかしそんな幻想は束の間、すぐに地獄へといざなう鎖が僕を縛り付けアスファルトへと引きずり降ろしていった。


迫り来る地面への恐怖に僕の意識が遠退きかけていた。するとその時、どうしてだろう。聞いた事もない君の声が聞こえた様な気がした。


僕はハッと目を開ける。するとそこには、地面で待ち構えていた君の姿があった。


(最後に僕を迎えてくれるのも、やっぱり君なんだね)


僕の心からすっかり恐怖心は消え去り、もはや安堵感に包み込まれていた。


(そりゃそうか、だって君は僕の影なんだから)


それは僕の体が君と一つになった瞬間だった。




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