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それはおはじきのような

作者: 環道遊星

「でも俺、おはじきなんてやったことないよ」

 ばらばらとおはじきを机に広げる明莉(あかり)に、雅志は言った。

 明莉は信じられない、というような顔をする。

「おはじきくらい、普通知ってるよね?」

 そう言って彼女は左隣の裕也の顔を覗き込んだ。

「ガキの頃やったなぁ、強いぞ俺は」

「私も負けないよ」

 裕也が笑いながら言って、明莉もつられて笑う。二人の笑い声は楽しそうに部屋に響く。

 ここは二人の場所だ。雅志は思った。笑い声は二人分だけ。ここに俺がいる意味はあるのだろうか。

「じゃあ俺達がまずやるから、それ見てルール覚えろよ」

 そう言って裕也は、小指でおはじきとおはじきの間に線を引いた。

「これが当てるおはじきです、って合図だ」

 裕也はそう言って、人差し指でおはじきを弾いた。小気味の良い音が響いて、二つのおはじきはぶつかって、少し離れる。裕也はもう一度その二つの間に線を引いてから、当てられた方のおはじきをとった。

「弾く前と後に小指で線を引いただろ、これをしきりって言うんだけど、この時に指がおはじきに当たったらアウト。それと、狙ったおはじきじゃないおはじきに当たった時は持ってるおはじきを全部戻さないといけない」

 裕也は取ったおはじきを手でもてあそびながら言った。

「すごい、裕也上手だね」

 明莉は楽しそうに笑っている。

 だから嫌だったんだ。雅志は二人を視界から外した。おはじきをしようと言い出したのは明莉だった。裕也が柄もなく乗り気だったから、こうなることは分かっていたんだ。

「雅志、やってみて」

 明莉が言う。きっとうまくいかない。そうしたらまた俺を馬鹿にして二人で笑うに違いない。

 机の上のキラキラとしたおはじきを眺める。おはじきを集めることはあっても、遊ぶことはなかった。今でも覚えている。子供の頃、袋に詰めて集めていた沢山のキラキラとしたおはじき達。あれをぶつけて遊ぶなんてとんでもないと思っていた。俺は見ているだけで良かったんだ。だけど、そういうわけにはいかなくなってしまった。

 ちょうど良い具合に離れている二つのおはじきを探して、雅志は小指で線を引いた。

 別のものに当たってはいけない。確実にいかなくては。

 雅志が弾いたおはじきは、もう一つのおはじきに当たった。しかし、勢いが足りずに二つともその場に止まってしまった。

 これでは指が通らない。

「初めてにしては、なかなか」

 慰めのつもりか、明莉はそう言いながらしきりをし、おはじきを弾く。裕也がやった時と同じように、当たったおはじきは綺麗に弾かれてちょうどしきりを出来るくらいの距離で止まった。

「こういうのは思い切りが大事なの」

 ぽん、と明莉は雅志の背中を軽く叩いた。雅志は小さな声で返事をすることしかできない。

 裕也がまた、慣れた手つきでおはじきを取った。

「ちょっとは手加減しなさいよ」

 明莉は裕也の背中を叩いた。

「俺はいつだって本気なの」

 裕也も明莉の背中を叩く。そうして二人は何度も叩き合う。だけど彼らの顔には笑みが浮かんでいた。二人は笑い声を響かせながらお互いを叩き合う。

 ここに俺の場所はあるのだろうか。裕也はじゃれあう二人を気にしないように、おはじきとおはじきの間に小指で線を引く。

 思い切りが大事だと、明莉は言った。しかし勢いよくぶつけて他のおはじきに当たったらそれは最悪だ。手持ちのおはじきを全部戻さなくてはいけないのだから。ちょうど良い力加減はどれくらいなのだろう。

 何度順番が回ってきても、雅志はおはじきを取ることができない。思い切りが足りないのだ。明莉と裕也は楽しそうに笑う。お互いの背中を叩きながら。

 雅志はどれくらいの力加減がいいのか分からない。手持ちのおはじきが消えることが怖くて、思い切り弾くことができない。もともと手元に、おはじきは一つもないのにもかかわらず。

 明莉と裕也は笑う。お互いの背中を叩きながら。

 雅志はおはじきを取れない。力加減が分からないから。

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