最弱スキル『掃除』、実は世界を消せる能力でした
俺は、この世界に転生していたことを最悪な形で気づかされた——。
この世界の人間は必ずスキルを一つ持っている。
10歳から18歳までの間に、スキルが発動して、はじめて自分がどんなスキル持ちか分かる。
村の子供たちは自分がカッコいいスキル持ちだと思って、弱いスキルの大人をバカにした。
剣や魔法関係のスキルが大人気で、ほとんどの大人はこのスキルを持っている。
実際の世間評価も、戦闘系のスキルが上位ランクで、戦闘以外はランクが低かった。
10歳の時、『料理』のスキル持ちだと判明してしまった友人は家に引きこもってしばらく出て来なかった。
13歳の時、『勇者』と言う超レアで誰もが認める最強スキル持ちが友人から出た。
俺はショックだった。
先にそんなレアスキルが出たら、俺がレアスキルを当てられなくなるだろう!
ただ、『勇者』の幼なじみが『聖女』だった事もあるらしい。
『勇者』の友人が王都に呼ばれて旅立つ時に、「本当は行きたくない、こんなスキルなければいいのに」と言ったが、謙遜——いや、そう言わなければ周りからの嫉妬が酷いだけだ。
俺もかなり嫉妬した。
みんなのスキルが良くも悪くも判明する中で、まだ分からない俺は肩身が狭かった。
でも、弱いスキルだと判明する悪夢にうなされて、現実の自分のスキルがまだあかされいなくてホッとした。
18歳、遂にスキルが判明。
『掃除』って……スキルだった……。
『掃除』……『掃除』って……聞いた事もない。
『掃除』なんて誰でもやるだろう。
そんなモノをスキルとして持つ意味あるのか……?
——「あー……生きてそう!」「……うん、田中くん、生きてそう……!」
死んでそうって言われる奴いるか?
小学校の卒業アルバムで『10年後、〇〇してそうな人』を全員分書かれた。
ユーチューバーになってそう、アイドルになってそう、とか活躍してる未来が書かれる。
活躍してなくても、結婚してそうとか、ニートになってそうとか、みんな個性があるよな。
なのに俺は、『10年後、生きてそうな人』って、なんでそう思った!?
俺が知らなかっただけで、10年後、22歳になれる奴がいないサバイバルな世の中だったのか!?
「ハハ……」
みんなの前で愛想笑いを浮かべて、帰って家で泣いた。
最悪な日——。
——あれから10年生きられなかった、前世の記憶だ。
あー、俺、転生者なんだ。
『転生して、チートスキルで無双』って見たなぁ。
そうか、転生者って普通はチートなのか……。
なのに俺はまた……『掃除』……。
「うっ……」
俺はまた一人、家で泣いた。
「へー、『掃除』か俺の役に立ちそうじゃないか」
王都に行っていた『勇者』の友人が里帰りしていて言われた。
「本気で言ってんのか……」
すっかり立派になってる友人にバカにされてると思って睨む。
「本気だよ。そうだ、王都に一緒に来いよ。役に立つから」
信用できるか疑ったが、村にいてもバカにされるだけだから、『勇者』と一緒に王都に行く。
王都には華やかな人々が沢山いて、村では立派に見えた『勇者』も目立たない。
王都ではいつも開かれている夜会に『勇者』に連れて来てもらう。
「彼のスキルは『掃除』なんですよ。田舎ではこれでも人間扱いされるんですよ」
は? 何言ってんだ?
「激レアだけど、戦闘で使えない最弱スキルなのに!?」
魔法使い風の女が俺を見て驚く。
って魔法使いの衣装って水着にマント羽織ってるだけだな、恥ずかしくないのか!?
「……田舎がそんな野蛮な所なら、いくら『聖女』だからって、魔王退治の旅になんて出られないわ……」
俺に嫌悪の目を向ける『聖女』は、清楚風なのに田舎への見下しが酷い。
けど、華やかな二人だ。
「あ……」
一人のグラスの飲み物がこぼれた。
「なあ、『掃除』見せてくれ」
『勇者』に言われて、俺は飲み物がこぼれた絨毯を掃除した。
夜会の会場で掃除用具を借りて、こぼした飲み物の水気を布で拭き取った。
「なに、これー! 普通に掃除してるだけじゃない……! ぷぷぷっ」
「うふふははっ!」
堪えきれなそうに吹き出す。
普通に掃除しているように見えても、布を当てた箇所の汚れが一瞬で布側に移り、絨毯はあっという間に綺麗になってるんだ。
本来なら、こぼした飲み物の水気を布でとって、洗剤をつけた布で飲み物の汚れを取る。
さらに水で濡らした布で洗剤のベタつきを取り、乾いた布で水分を取る。
四つの布を使い分けるところを、俺は一枚の布で完璧に汚れを取り除いたんだ。
——この凄さ、なかなか伝わらない。
「でも、こいつは掃除しか能が無いんだ」
『勇者』が言う。
「スキル持ちに数えられないような最弱スキルだけど、自分がすごいと思ってる所は面白いわね!」
は? 全然そんなこと思ってなくて泣いてたんだが!?
俺の行動が、『勇者』に誘導されてる!
淡々とスキルを見せるのが都会なのかと思って見せただけなのに!
「受けてるよ! 『掃除』のおかげで俺が引き立つ、『勇者』の役に立ってるよ、その最弱スキル!」
は……はは、最初から『掃除』のスキルが王都で『勇者』の役に立つなんて話は疑ってたさ……。
『勇者』は、『魔法使い』と『聖女』と笑いあってる。
——こんな最弱スキルの俺を気にかけてくれだけで嬉しくて、騙されてもいいと思ったけど……!
目の前で、女の子と仲良くしてる所を見せつけられるのは嫌だ!!
例え、絶対に付き合いたくない性格最悪な女でも、見た目がいいから嫌だ!!!
俺は『掃除』のスキルを『勇者』に向ける。
俺が布の代わりになって、『勇者』についた汚れを落としてやる。
『汚れ』とは概念だ。
グラスに入っていた飲み物が、床に落ちたら『汚れ』になる。
『勇者』の持っている、女性を惹きつける要素、女性とのつながり、それは全て『汚れ』だ。
——『勇者』の『汚れ』は全て俺が拭き取った。
パッと『魔法使い』と『聖女』が『勇者』から離れる。
いや、存在が消えてしまったように、不思議そうに『勇者』のいる場所を見つめている。
『勇者』も顔を見てるのに視線が合わない。
「なんだ!? これは!? お前が何かしたのか!?」
『勇者』が俺に向かって大声で叫ぶ。
夜会会場の男たちが振り向く。
女たちが振り向かないことを、男たちは不思議がるが、そのまま女性との会話に戻っていく。
「なんなんだ……」
さらに不安を強めた勇者に、俺は『掃除』スキルと事態を説明する。
「『勇者』、お前は一生、女性との縁がなくなったんだ」
勇者の顔が衝撃に歪み、みるみる怒りの表情になる。
『勇者』だから、特別に許された腰の剣を抜くと、俺に襲いかかる。
周りの男たちが慌てて止めに入ろうととするが、勇者を止めることなど出来ない。
数人が負傷して血が飛び散った。
『勇者』が俺に切り掛かる瞬間に、前を女性が横切った。
女性は勇者が見えていないから剣が向かって来ていることも知らない。
——そして、勇者が弾かれる。
女性とのつながりを絶たれた勇者が女性に触れることは出来なかったらしい……。
俺は驚いた。
まさか、『勇者』が切り掛かって来るとは……。
偶然に女性が通りかかってくれて命拾いした。
心臓がまだバクバクしている。
でも、『勇者』はまだ俺を狙って剣を構えている。
俺はまた『掃除』のスキルを勇者に使う。
男とのつながりも『汚れ』だ!
『勇者』の剣が俺に弾かれて、勇者が後ろに転がった。
さっきまで『勇者』を見ていた男性たちも勇者に存在を忘れてる。
俺だけは、つながりを失っても『汚れ』を拭き取った『掃除対象』を見続けることが出来た。
「男にもモテなくなったな」
独り言を言う。
『勇者』は人とのつながりを失った。
『勇者』から世界が消えた——。
「どうして男たちが血を流して倒れているんだ!」
「急に倒れて……!」
『勇者』の存在が消えて、斬られた男たちが訳もわからず苦しんでいる。
血が絨毯を点々と赤く染めている。
掃除が大変そうだ。
俺は『掃除』スキルを使ってやることにする。
さっき勇者が斬りつけた出来事を『汚れ』として拭き取った。
男たちは完全に回復し、絨毯の血は消えた。
「……!」
見ていた者たちが、唖然としている。
シーンと静まり返る一角に、なんだなんだと興味の輪が広がっていく。
「嘘……傷と血を一瞬で『掃除』した——!」
言ったのはさっきの『魔法使い』だった。
シーンと更に静けさが増した。
一呼吸おいて、みんなの理解が追いついた頃に、わあっと大歓声になる。
「え!? 『掃除』のスキルって最強!?」
さっきの『聖女』が言う。
『魔法使い』と『聖女』の俺を見る目が変わった。
ゾッとした。
見た目がいいから他の男とイチャついてるのを見せられたらムカつくが、性格が悪いから関わりたくない。
俺の見てないところで好きに生きてくれ!
俺は二人と俺のつながりを『汚れ』として拭き取った。
途端に二人は俺を忘れた。
「『掃除』のスキルにそんな使い方があるなんてな」
「激レアスキルだった理由が分かりましたね」
「一瞬で傷も治して、血も吸い取るなんて……私、負けてるの!?」
ゾロゾロと強そうな奴らが現れた。
『勇者』『剣士』『僧侶』と数人の勇者パーティのようだ。
「どうだ、俺たちと来ないか? 『掃除』なんて役に立ちそうだ」
彼らが本気で『掃除』のみを期待してるんじゃない事はわかるが……。
彼らがいたらしい一角は飲み食いされた物で散らかってる。
『掃除』も期待されてるな、これは。
◆◇◆
俺が勇者パーティで重宝されている頃。
王都の中で、ゴミを漁っている男がいた。
ただの浮浪者のようで、誰にも認知されていない……『勇者』だ。
俺に気づいた『勇者』が涙を溢れさせて懇願する。
「お願いだ、元に戻してくれ……」
ただ、俺も戻し方なんて知らない。
「俺は掃除しか、能がないんだ」




