夢・夢の夢・盗聴・登校・逃走
親と仲間・・・。
あなたはどちらを選びますか?
(夢)
ざーーー!ゴロゴロ!!
辺りは豪雨。いつの間にか雨が降り始めたようだ・・・。
俺は、家の中。雨の音だけ家に響く・・・。
リビングは暗闇・・・。何が起こっているのか分からない・・・。
ゴロゴロ!
雷が・・・光って、近くの何かに落ちる。
「・・・・・・赤い!?」
一瞬見えた・・・。リビング全体が赤く染まっている。
ゴロゴロ!
「・・・・・・うぁーーーーー!」
2回目の雷の光で見えた・・・。赤く染まって・・・横たわっているお袋を。
「俺が・・・やったのか?俺が・・・お袋を?」
ゴロゴロ!
雷の音が俺の質問に答えているようだ・・・。
「・・・そんな?・・・嘘だろ!?」
俺の手には、大量の血がついた包丁を握っていて・・・服には返り血がびしゃり。
「何で!?どうして!?記憶が曖昧だよ!思い出せよ俺!!俺は殺しちゃいないよな!」
誰も答えはしない・・・。
「・・・キッヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
雨の音がさっきまでの悪魔の笑い声に聞こえてくる・・・。
「怖い・・・。怖いよ・・・!」
ガタガタ・・・。
再び俺の体は昼間と同じように震える・・・。
ガチャガチャ!
いきなり玄関からの音・・・。ドアノブを回す音だ。
「・・・誰だ!?」
俺は勇気を振り絞って、玄関まで出てみる。
ガチャガチャ!
「だっ!?・・・誰だ!?」
鍵がかかっているドア・・・。
それを開けようとするのは何者なのだろうか?ただ、ひたすらドアノブをひねって開けようとする・・・。
ガチャガチャ!
再び、ドアノブが回りだす・・・。
ジャララララ!
俺は、ドアにチェーンをかける・・・。そして・・・
がちゃり。ガチャ・・・。
震える手で・・・。鍵を外し、ドアを開ける!
「誰だ!!」
俺の声は、チェーンとドアの隙間に吸い込まれる!だが・・・
辺りはシーンとしている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!?」
隙間から覗いてみても・・・。誰もいない・・・。
俺はほっとするとは裏腹に怖さが・・・。
「誰もいないのに、一体誰が・・・?」
不思議に思いながら、ドアを閉めて鍵をかける・・・。
そして・・・リビングに戻ろうと後ろを向く。
ガチャ・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・!!?」
ドアからまたおかしな音・・・。
俺は再びドアの方を見た。
シーン!
何も起きない。俺はこの静寂が怖い・・・。
そう、思ってる俺を脅かすようにドアには異変が起きたのだ!
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!
「わーーーーーーーーーーーーー!」
俺は声にならない声を叫びながら、ドアノブを手で押さえる・・・。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!
「こんちくしょーーーー!」
俺は鍵を開け・・・。チェーンを外し・・・。ドアを勢いよく開ける!
ダッダッダ!
俺はひたすら逃げる。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げまくる!後ろを振り向かずに・・・。
(振り向いたら、殺される・・・。殺されちまうんだ!)
俺は、涙でうまく見えない視界の中を走り続ける・・・。
雨はまだやまないようだ・・・。
(夢の夢)
さーーー!
辺りには風が吹いて、下には落ち葉がたくさん積もっている・・・。そして、人気は全くない朝。
そんな場所に俺は眠っていた・・・。まるで心地よいベッドに眠るように・・・。
「・・・ここは?」
俺の声を木々が答えるように枝を揺する・・・。その音が、俺には言葉として聞こえてきた。
(う・・・ら・・・・・・・や・・・ま。)と・・・!
「裏山・・・か・・・。」
俺は木と会話ができるようになったのだろうか?・・・それとも聞き間違い?
そわそわ!
俺の心が急に落ち着かなくなる・・・。
どうやら、昨日の事を思い出してしまったようだ。
「お袋は俺が殺しちまったんだよな・・・?俺が・・・お袋を。」
自然と乾いた目から涙が落ちる・・・。まばたきを忘れるほど自分でも驚いている・・・。
「・・・学校。」
今日は何曜日かも忘れてしまった。だが、学校だということは分かる・・・。
「学校に行かないと・・・。俺がお袋を殺してしまったことがばれちまう・・・。」
俺は、そう言ったが自分の格好を見てみる・・・。
「私服で・・・血が大量に・・・。」
昨日の事件で・・・俺の服は血とドロだらけ・・・。制服でもないのだ。
「家に帰らないと・・・!」
そう言って、俺は裏山から家への道を探し始めた・・・。
・
・
・
案外、早く見つかった!家までの道が・・・。
「昨日、家から必死に逃げた時に偶然見つけたんだよな!」
そう言いながらも、ここからやはり家まで、7、8分かかる程度だ。近いとは言えないであろう・・・。
「ここの、角を曲がったら・・・見えた、見えた!」
そう、見えた!家と赤いチカチカする何かが・・・。
「・・・パトカー!?」
家まであと十数メートル・・・。警察の声も無線の声も聞こえてくる・・・。
確か、俺の家には・・・お袋の死体が・・・!?
俺は、今日、警察からの逃亡者となった・・・。
(盗聴)
朝、太陽の光はさっきより強くなっている・・・。
そんな中、俺は身を潜めている・・・。自宅の横で・・・。
何でかって?そりゃ決まっているだろう!警察に見つからないためさ・・・。そして、警察の盗聴でもある・・・。いわば、スパイみたいなもんだな・・・。
「ガガ・・・、どうだ?犯人は見つかったか?」
「こちら、草木です!犯人、未だに見つかりません・・・。」
そんな、無線での警察のやりとりが聞こえる・・・。犯人はここにいるのに馬鹿だな警察って・・・。
「富山さーん!死体見つかりましたー?」
「いや、みつかってない・・・。早い所見つけるぞ。」
(あれ?富山って昨日の?・・・ってか、ちょっと待て!死体がないってどういうことだ・・・?)
「富山さーん!ちょっと来てくださーい!」
「何だ?どうした?」
家の中は騒々しい・・・。あったのか?死体?
「これは・・・血!?」
「本部、本部!家の中に大量の血の跡発見・・・。海道かよのだと思われる!」
<海道かよ>・・・。俺のお袋の名前・・・。
「ガガ・・・ガ、何?直ちに調べろ!」
今頃だが何で、俺盗聴なんかして、逃げないんだろ?警察の会話がおもしろいからか?
「草木!昨日の犯行は何時ごろだ?」
「はい、確か、夜の10時頃だと思われます!」
「死体が見つからなかったら、どんな風に殺されているか分からん!」
誰が死体を動かしてくれたのか分からんが助かったと言えるだろう・・・。ありがたい!
「富山さーん!一回、署に戻りましょう!資料とか取りに!あと、応援も呼びましょう!」
「・・・あぁ!」
警察は家から出てくる。
「海道龍牙。」
そう言って、パトカーは行ってしまった。
「制服に着替えるか・・・。」
俺は犯人・・・!だが、そんなのバレなきゃいい!見つからなきゃいい!仲間と・・・。俺の大切な宝物と一緒に笑いあえればそれでいい!
お袋は俺を殺そうとしたし、親父は殺人を犯した・・・。
「親は悪魔でしかなかった・・・!」
俺はそう言い、悪魔の住んでいた、家へと入るのであった・・・。
(登校)
ガラガラ!
教室でドアの開く音がする!子供達の笑い声。懐かしい学校だ。
「みんなー!おはよう!」
俺はもうなれたクラスに大声で挨拶!声がクラス全体に響く。
「・・・龍ちゃん。」
少し暗めの声が返ってくる・・・。そして、俺の回りをみんなが囲む。
「どうした?優香?こんなに天気がいい日は元気出さないと!」
そう、暗めの返事をしたのは優香だった。いつもと少し違う紅川優香・・・。
しかし、優香だけが暗いわけではなかった。よく見れば、りんもらんも桜ちゃんも天音ちゃんも彩人、そしてクラスの男子も女子も暗い表情・・・。てか、怖そう。
「みんな・・・。どうしたんだ?腹でも痛いのか?」
すると、みんなはさらに顔を下に向け、優香は俺を見つめる・・・。
「・・・龍ちゃん!!!」
いや、違う。優香は俺を睨んでいるんだ。まるで飢えた獣のように・・・。
「な、何だよ!俺は何もしてないだろ!」
俺がそう言うと、クラスにいる全員が顔を上げ、俺を睨む・・・。
(ば・・・れ・・・・・・て・・・る?)
急に俺の体から大量の汗・・・。
(落ち着け俺!落ち着け!)
「殺せ・・・。こいつらを殺せ・・・。」
そんな、声がどこからか聞こえる・・・。
(どうする俺?どうすれば・・・?)
すると突然。
「今日は、みんな予防注射なので怖いのです!ぶー!」
この雰囲気の中、かわいい声が鳴り響く。桜ちゃんだ!
「そうそう、今日は注射やった!」
「りん姉!怖がっているだろ・・・?」
りんもらんも弾んだ会話をしている。
「ふん・・・。転校生。何を怯えている。注射がそんなに怖いのか?」
彩人もむかつくがこの雰囲気を壊す。
優香も目つきが変わり、いつものスマイルで喋りだす。
「龍ちゃん!困った時はあたい達に相談してね。」
クラスのみんなも顔を上げて笑い出す。
俺は今頃になって気づく!
(友達は困ったとき相談しても大丈夫!)
今まで気づかなかった俺が小さく見える。
「おう!ありがとう!」
みんなの笑顔が輝き始める。
「ところで、龍ちゃん。裏山に行かなかった?」
突然の問いかけ・・・。優香からだ。
「・・・いや、行ってない。」
優香の目はまたさっきの目・・・。怖い。
「・・・本当に?」
「・・・あ!・・・あぁ。」
俺は少し自信がなさそうな返事をしてしまった。優香の目はさっきと変わらないまま。
「・・・優香。」
天音ちゃんが、優香の肩を軽く叩く。
「・・・あっ!ごめんね!あたいったら何やってんだろ!あはははは!」
優香はごまかすかのように笑い出す。
俺はここに来て、怖い思い・・・。狂った事がたくさん起こる。
俺のそんな不安は消えようとしない。
(逃走)
刻々と時間は進んでいく・・・。もう、朝の10時・・・。予防注射の時間だ。
「次の人!どうぞ・・・。」
保健室前の廊下で俺達は無言で並んでいる・・・。
ひそひそ・・・。
無言ではないな・・・。耳をすませば、どこからか小さな声が聞こえる・・・。
「・・い道くん、かわいそうだよね。警察に追われているんだっけ・・・。」
「そうそう、・・・なんだよね!」
そんな女子の会話は耳をふさいでも聞こえてくる。
(俺はいつまでここにいれるんだろう?)
そんなことも考え始めた・・・。そのとき
「海道くん!」
廊下の向こう側まで声が響く!
「えっ・・・?はい!」
俺は慌てて返事をする!・・・声の主は先生。
「海道くん!気が動転しているのは分かります!先生も一生懸命、かばってあげています!ですが、今は予防注射の時間です!みんなと一緒に行動しないとあなた自身が苦しみますよ!」
俺の心の中と廊下に声が響く!
「はい。すみません。」
思わず謝る俺・・・。先生の顔に笑顔が戻る!
「だから、次はあなたの番ですよ!予防注射!ちゃんと名前呼ばれたら返事をして立って!はい!そして、保健室に入ってください!」
先生に無理やり、立たされ、保健室に入る。
ガチャン!
入ったとたんに保健室のドアに外側から鍵がかかった。・・・何で?
「海道くんだね!椅子に座って!」
奥の方から声がする・・・。俺は、声のする奥の方に足を進める。
「あなたは・・・?」
「見てのとおり医者だよ!」
見てのとおりっていわれても、体はでかいし、顔には傷だらけ、そして目つきがとてつもなく悪い。医者にはとうてい見えない。むしろ、ヤクザだ!
「怖がらなくてもいい!私は君の味方だよ!」
そういって、そいつは目の前の椅子を指さす!
「とりあえず座ろう!すぐに終わる!」
「嫌だ!」
!!?
自分でも驚いている!反射的に口が動いたのか?俺の意識とは別に口が勝手に動きやがった!
「そうか、やはりこれをしなくてはいけないようだな。」
医者の姿をしたヤクザがそういうと、保健室のベランダから5、6人のスーツを着てサングラスをつけているいかにも怪しい奴らが現れた。
「なっ!何だよ、お前ら?」
俺の問いかけを無視して、そいつらは俺の腕やら足をつかみとる!
「ぐわ!やっ!やめろよ!何すんだよ!」
そうして、俺が身動きとれなくなったら、医者の格好をしたあいつがバックから何かを取り出した。
「・・・裏山に行った人はこうなってもらうしかないんだよ。」
そう、あいつが取り出したのは、注射器。・・・普通に見えるが、中の薬品の色が怪しい紫色で濁っている。
「何だよ、それ!あんたは俺の味方ってさっき言ったのはやっぱり嘘だったのか!」
だが、医者もどきはニヤリと笑って、俺の腕をつかむ!
「やめろーーーーー!」
声が保健室全体の薬ビンを振動させる。
もうすぐ、昼になる。太陽がまぶしく輝いている。