川呪い
紅川・・・。それは、東山を昔から流れる川の名前・・・。
しかし、龍牙の仲間にも・・・確か、紅川は・・・。
(川呪い1)
今日もせみは鳴いている・・・。俺の中では今日は何も起こらない予定だったんだが!?
そんなこと思ってる俺は今、自宅から数分もかからない川に来ている。
「こんな所に川あったのかよ!?家の裏の用水路の水はここの川からか!」
そんな事言っている俺だが、辺りには誰もいない。みんなお着替えをしているらしい。水着に・・・。
「久々の川だな・・・!よーし!」
そう言って俺は川の水に足をつけた。
「おぉーーーー!ひんやりーーー!」
俺はここがどんな川か一瞬にして察知した。
「水質はとてもきれい!川の水はほとんど穏やか!水の温度は今まで行ったことのある川で一番冷たい!生物は、蛍の原形となる川虫、蛙、ニジマス、イワナ、アブラメ、ヤマメなどなど、沢山の生物がいる。時々、鳥が飛んできてその生物を食って、弱肉強食の世界が生まれる!河童さんも是非一度住みたくなる川に違いなーい!」
パチパチパチパチ!と後ろから拍手の音が複数聞こえる。
「いやーーー!お見事!龍ちゃんはなかなかいい川センスしているよ!」
「いやいや!いい川センスって、嬉しくねーよ!」
そう、そこにいたのは優香とその仲間達!詳しく言うと、昨日の隠れ鬼のメンバー全員だ!水着姿ではないな・・・着替えてたんじゃねぇのかよ!
「龍牙くんの独り言には呆れ顔だよ☆」
ぐさっ!っと音がする。
「桜ちゃん!地味に傷ついた!俺の鋼の心でも地味に傷ついた!心が痛い!」
「「「あははは!」」」
みんなの笑い声が絶えない、幸せな時間だ!こんな幸せな時間なら第1章は永遠に続くだろうな・・・。
「・・・・・・・・・・・・幸せか。」
んっ!?今のは天音ちゃんの声だよな!?良く聞こえなかった!
「どないしたん龍ちゃん?暗い顔して!何かあったん?」
りんが心配してくれている!何でもないよな!何でも・・・。
「きっと、龍ちゃんは恋の悩みだな!恋してるんだよ!」
らんは俺をおちょくる!俺が拳をあげたら優香の後ろに・・・!くそー!これじゃあ優香に拳を見せたとたんに三途の川で泳ぐことになるぞ!
「じゃあ、これから泳ぎまくるよ!それじゃーせーの・・・」
よし、この合図でみんな飛び込むんだな!俺も陸に出て!せーの!
「ドン!の前にラジオ体操!、カセットテープ、カチッと!」
ザバーン!
「最初に言えや!それも準備体操ならずラジオ体操かい!」
ラジオ体操の音が夏の川原に響く!
(川呪い2)
外の気温と川の水温が反比例している夏・・・。今、俺はラジオ体操をしている。もう、最後の深呼吸だ。
「スーハー!スーハー!」
そして、再び優香が叫ぶ!
「みんな、あたいに続いて、飛び込むよ!」
優香に続いて、りん、らん、桜ちゃん、天音ちゃんが服を脱ぐ!一瞬、女子の脱ぐ姿を見ておぉーと思ってしまったが・・・。当然水着を着ていた。
そして、みんないっせいに飛び込むのだった。よし、俺も飛び込むか!(突然水に飛び込むと死ぬ恐れがあるし、飛び込みは危険だから、良い子は真似しないでね☆)」
ザバ、ザバ、ザバーン!
「プハー!水冷てーな!水もきれいだし言うことは何もないな!」
照り続ける日の光・・・。川に入れば怖くない!部屋の中の次に極楽だ!
「何で人って陸上で過ごすようになったのかな?水中で過ごせばずっと極楽なのに・・・。」
そのとき、声かした・・・。
(お前のその望め叶えてやろう・・・)
「へっ?誰・・・。ブアッ・・・プ。」
誰かが俺の足を引っ張る・・・。意識が俺の体と一緒に沈んでいく・・・。俺このまま死んでいくのかな・・・?
・
・
・
意識がない中で呼び続ける。俺の事を・・・。
「お前がいなくなったときみんなは悲しみます。どうする事もできないでたくさんたくさん嘆くでしょう・・・。だから、私は謝ります。お前を私がここに落とし入れてしまったから・・・。」
声は鳴り止まない。俺に再び訴える・・・か細い声を振るわせて・・・。
「同じ過ち繰り返さず、お前が幸せくれるなら私は笑って見過ごします・・・。この想いお前は分かるのか?どうせ、分からない・・・。お前が行動を起こさない限り・・・。な・・・。」
声はまだ聞こえる・・・。だが、この声は人が出しているのだろうか?きっと違うだろう!?今までの声とは何かが違う・・・?分からない。
「あなたの心は分かります。どうせ良からぬ事を考える。どこのいつでもそうだった・・・。守れる事があるのなら、それは絶対守りなさい!この願いが一番重要なのだから。それが私の望みです。いいですね?海道龍牙・・・。」
声は消える・・・。そして、新たな声が響き始める・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん!」
「龍ちゃん!!」
俺の意識の深さは再び浮いてきた。
(川呪い3)
俺は気がつくと、目の前に優香がいた!
「龍ちゃん・・・。龍ちゃん・・・。フーフー!」
んっ!?フーフー!?唇に柔らかい感覚が・・・。!!?。
ガバッ!
俺は思わず・・・起き上がってしまった・・・。
「もしかして、優香・・・。人工呼吸を!?」
優香は笑う!
「良かった!良かった!・・・!うわーん!」
そして、優香は泣き出した・・・。優香の目にも涙か・・・。
「へへへ!俺が死ぬわけねーじゃねーか!」
俺はみんなの顔をうかがう。みんな心配してくれていたようだ・・・。
「あはは!良かった!良かった!」
優香は涙を拭いて再び笑う。
「龍牙くん本当に良かったです。」
桜ちゃんは満面の笑みを浮かべる。その隣で天音ちゃんも・・・。
「龍ちゃん!初めての人工呼吸はどうだった?」
りんが笑いながら言った。
「そうだな!柔らかくて・・・唇の感覚がして気持ち良かったな!」
すると、らんが今度は笑い言った!
「なんなら、もっとしてやろうか!人工呼吸!」
「ははは!人工呼吸したのは優香だろ!」
俺の言葉を聞いたとたん、優香が拳を顔面に・・・。グヘーーー!
「なんで、あたいがあんたにするんよ!」
えーー!違うのか?違うのか?
「だって、俺が見たとき女用の水着をつけたやつだったぞ!なんなら、桜ちゃんか?それとも天音ちゃん?まさかりんか?」
俺は今頃になって気付く!コスプレ男を・・・。
「らん!お前・・・。その水着は?」
らんは笑う!
「似合う?」
うぎゃーー!こいつ、もう手遅れだ!
「すまん!これは夢だ!夢じゃなかったら女子が俺に人工呼吸をするはずなんだ!じゃあ、おやすみなさい。」
みんなは俺に向かって言う!
「「「それこそ夢だろ!」」」
グサグサグサーー!
「お前ら、人には言っていいことと悪いことがあるって、小学校1年生で習うでしょーが!俺の夢を壊さないで!俺のファーストキスという夢を・・・!」
しかし、俺が目を覚ましたとき確かに優香が目の前にいたんだが・・・。
「何が夢よ!何が!」
優香は少し笑いに曇りがある様に見えた・・・。
気のせいだよ・・・な?
「優香・・・?」
「ん?何、どうしたの龍ちゃん?」
気のせいだよな!
俺は再び笑いの中に入る。
気絶していて、何時間経っていたのか分からないが・・・もうすぐ夕方だと太陽の光が教えてくれた。
(川呪い4)
ザバザバと川は流れる・・・。もう、日は西にある。早いなー、1日って・・・。
そう思いながら、俺は川原の石の上にいた・・・。
「あー・・・。なんだったんだろう?」
俺は思わず声に出した。今でも感覚がある・・・。足を引っ張られ・・・。闇の中に引きずり落とされた。・・・奴は一体誰だったのか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分からない。」
川のせせらぎの音に俺の声は消えていく・・・。
「龍ちゃん?どうしたの?」
そのとき、後ろから声が・・・。
「ん?ああ、優香か!どうした?」
「どうしたはこっちの台詞だよ!龍ちゃん一人で石の上に座ってるし。」
優香は口をとんがらせて続けて言う。
「それに・・・何かつまらなさそう。」
優香のその表情に一瞬ドキッとした俺。思わず目をそらす。・・・他の奴等が釣りをしている姿が見える。
「いや、何でさっき俺溺れたのかな・・・って思っただけだよ。」
「そうか・・・。」
川の音が俺達の会話の空白を埋めるようにして今は川の音しか聞こえない・・・。
「あたいもあるんだー!この川で溺れたこと・・・。」
優香の声で川の音が消されたみたいに静かになる。
「お前が溺れた?それって誰かに足を引っ張られたか何かか?」
優香の顔に笑みはなく暗い表情で俺を見る。
「龍ちゃんもやっぱり引っ張られたんだ。・・・あたいもだったよ。」
俺の耳には暗いBGMが流れだしそうな雰囲気と深刻な優香の顔・・・。なんなのだろう?川には、俺と優香しかいない様な感じになる。
「龍ちゃん・・・。この川の名前知っている?」
優香の目には光がない・・・。
「いや・・・。全く知らんな。」
俺がそう言うと優香は光のない目で俺を見つめる・・・。
「・・・紅川。」
「えっ!?」
俺は一瞬、耳を疑った。
「紅川って、お前の苗字の?」
「・・・・・・・・・・・・・そうだよ。」
!!?
「この、川は昔、何百人もの人が一瞬にして消えた。全員、溺死だよ。」
「えっ!?」
何百もの人がみんな溺死?
「あまりにも悲惨な事故だったらしい・・・。何らかの影響でこんなことになってしまったの。」
そして、優香は声を震わせて言う。
「事故であってほしかった。」
??!
「これは、事故ではなく、事件だったの。ある集団が起こした・・・。」
「・・・・・・その集団は?」
「紅川事件発案者<森田狼>率いる 灯月。森田狼はあたいのじいちゃんだよ。」
「じ・・・い・ちゃん!?」
不穏なBGMは消え鳴りやまない。
(川呪い5)
静かな時間が何分も経ったかのように同じ景色が流れる。実際1分も経っていないのに・・・。
「この事件を起こした森田狼は、今どこにいるんだ?死んでるのか?」
優香の目に光は戻っていない・・・。
「さぁー?あいつはその後部下を置いて一人で逃亡したからな・・・。どこで何をしてるのかも分からないよ。」
「じゃあ・・・?」
優香の目は獲物を睨みつける獣の目に変わった・・・。
「生きているよ・・・。森田狼は生きている!」
!!?
「森田狼は逃げる最中に一人の女性と一緒に逃亡していた・・・。それがうちのばあちゃんだよ!石川楓。東山で一番権力と財政を持っていた、石川家の一人娘さ!」
そして優香は早口で喋りだす。
「そして、そいつらの間に生まれた母さん・・・。そこから、苗字の変更が行われた・・・。ばあちゃんは娘を・・・あたいの母さんを売ったんだよ!」
俺は蛇に睨まれた蛙のように・・・動けない。
「紅川の苗字を持つ者は汚れとして、一時は家から出る事も許されなかった。この村から出ることもだめだったの!なぜか分かる?」
俺はようやく身動きが取れるようになり、口を開く。
「紅川家が村にとって必要だったとか・・・?」
優香の目に少し光が戻る。
「はは!龍ちゃん、あんたはやっぱりすごいは・・・!」
そういって優香の口はまた開く!
「石川家の血は光の神の血らしいの・・・。しかし、残虐者森田の血が流れていることによっていつ、また暴れ出すか分からない。汚れ神になったんじゃないだろうか?という疑惑があった。でも、石川の血統を受け継ぐ者は紅川家だけ・・・。あたいらがいなくなる事で村は闇に閉ざされる・・・。そう思ったんだと思う。」
優香の顔と太陽とが重なりあって優香が良く見えない。
「・・・汚れとして扱われるのに村から出られないって、一番つらいよね。」
!!?
川のせせらぎの音が戻った。
「ごめんね!こんな話して・・・。この川の名前の由来はいっぱい人が溺れ死んで。川が血の色に染まったらしいの。でも、おかしいよね!溺れて川が血に染まるなんて!アハハ!まったく、笑えちゃうよ!」
そう言って優香は笑顔で釣りをしているみんなの所に戻るのであった・・・。
夕方6時になろうとしていた・・・。あのとき、太陽で見えなかったが・・・優香は泣いていたんだと思う。
川の音が空まで響き渡っている・・・。