9.
カルロ商会長は完璧人間だと思っていた。俺がそういう風に作り上げたから。でも違った。カルロ商会長は……胃腸が弱かった―――‼‼
商会長に口止めされてるから口外しないけど、今回のT国からの食事の正体は地獄のようだったんだろう。香辛料たっぷりの肉料理……。
胃腸を香辛料で攻撃しつつ肉料理でずっしりと胃がもたれる……。
香辛料の効果で翌日にはよくなっているかもしれないが、現在の商会長はいつでも倒れることが出来るだろう。
そんな中でも、取引先を不愉快にさせることなく、食事を終わらせることが出来た商会長はスゴイと思う。T国内の香辛料事情も聞き出したし。
商会長が辛そうなので、翌日に色々と話をすることとした。
「商会長、大使からの食事の招待なんかお疲れさまでした。あんなに汗かいて、体を前屈みにさせながらも完食。素晴らしい根性です」
「根性ってなんかなぁ……」
「商人魂?」
「そっちでも微妙だが、ニュアンスは伝わる」
「ところで、俺達の方をグランデ商会のレオナが見てましたよ?」
「ああ、そういえばそうか」
「まさか俺をカルロ商会長の専属男娼だと思って?」
「それはない。まあ、マルコなら言ってもいいか。レオナは俺の元カノだ。だから俺が胃腸虚弱なのも知ってる。その上で見たんじゃないか?あの気質だ、グランデ商会長に俺の体質の事は言ってないだろう」
言ってたら、マナーの事じゃなくて胃腸虚弱について口撃してくるだろうな、あのグランデ商会長。
「それよりも真夏の輸送経路をどうするかが問題だな。またT国の大使との会談をしたい。今度は食事抜きで」
それがいいと思う。食べながら話をするのは、話が進みそうもないからなぁ。
うーん、レオナがカルロ商会長の元カノ……。
レオナは確かにカルロ商会長と並んでも遜色ないなぁ。知識も教養もあるし。しかし……なんで別れたんだ?俺が介入することじゃないけど。二人とも後を引いてる感じしないんだよなぁ。キッパリサッパリ別れてる感じする。
気になるのは俺が設定している事じゃないからかな?
でもまぁ、以前にレオナの名前を出した時に商会長が反応した理由がわかった。
T国の大使には‘手紙で食事抜きで仕事の話を詰めたい’という旨の手紙を送ることにした。真夏の輸送経路。グランデ商会は同席していない方が良い。というか、T国の大使とカルロ商会のみで話し合いたいのだ。……輸送経路の話だから。
輸入してしまえば、カルロ商会の冷蔵倉庫に保管すればよいし、どうってことでもない。
「あ、そうだ。マルコ、仕事の後二人で飲みに行かないか?」
初めて商会長に誘われた。
誘われていった店はバーだった。
バーと言えば。男性が女性を口説く場所というイメージが強い!
「俺も昨日初めて来たんだけど、ココSanctuary Silentはすごく居心地がいいんだ。なんていうか大人の隠れ家みたいな感じするしな」
あぁ、子供の頃にやった『自分だけの秘密基地』みたいな感じか。
「マスター、昨日のハーブティーをもらえるか?こいつにも飲ませたいんだ。美味かったから」
「商会長、ここのマスターには商会長のあの……胃の事を言ってるんですか?」
「ああ」
「初めましてマスター。俺はカルロ商会長の右腕やってるマルコって言います」
「……わかった。そっちのはでっかい商会の商会長だったのか?」
「ああ、碌に話もしてなかったな。俺はカルロ商会の商会長のカルロだ。昨日のハーブティーのおかげさまで今日は酒が飲めそうだ」
「……そうか」
「商会長。マスターは寡黙な方ですね」
「おしゃべりな人よりも信用できるだろう?」
「まぁそうですね」
カウンターテーブルに出されたティーポットからコップに注ぐ音が何だか心地いい。
「昨日はセルフだったのに今日は特別か?」
「……快気祝いだな」
ちょっと笑いそうになった。笑ったら怒られそうだったから、俺は頑張って堪えた!




