8.
「俺は商会長の指示に従って動いただけ。それだけだ」
「ふーん」
やっぱりレオナは危険人物だと思う。何を考えているのかわからなくて逆に怖い。
「あなたは、ただの小間使いなの?」
「商会長には商会長の右腕として働くようにと言われています。光栄なことです」
「なるほどね」
彼女はクルっと背を向けて、グランデ商会長の方へと歩いて行った。グランデ商会長となんかもめている?
「今後、香辛料の取引はカルロ商会とのみ行う事とする!」
大々的に言われたけど、真夏はどうしようもないなぁ。今は雪道で品質の低下が防げても、真夏の暑さの中で輸送……。
「カルロ商会長!久しぶりの香辛料の感触は実に感動した。今後の事も食事でもしながら話をしないか?」
「ええ、喜んで」
「では、後日。T国大使館の方へと来てくれると助かる」
パスポートは必要なんだろうか?貴賓扱い?とりあえず、パスポート持参で行くことにしよう。俺は。小心者としては準備が肝心!
後日、T国の大使館での食事に招待されカルロ商会からは俺とカルロ商会長が。そして何故かグランデ商会からグランデ商会長とレオナが招待されていた。
「本日はお招きにあずかり誠に光栄なことであります」
「あー、よいよい。美味しい食事の前で身分差などない」
そこでも俺はカルロ商会長に服装をなおされたりした。
カルロが善意でしてくれてるのはわかってるんだけど、心がついていかないというか……。
完全に子ども扱いされているみたいでなんだか、嫌な感じがする。子ども扱いというか、こういう場に慣れてないから気を使われてる…というか。
いや、カルロに悪意がないのはわかるんだ。俺が作ったやつだし、すごいいいやつなんだ。でもここにはグランデ商会の人間もT国の大使もいるし、俺のメンツが丸つぶれ。いやいや、そんなことを考えているような器の小さい自分もちょっと嫌な感じだし。カルロがいいやつなだけに俺が凄く醜く感じてなんか嫌だ。
やっぱり心がついていかないなぁ。自分の器の小ささが嫌になる。もっとドーンとかまえる事ができる人間だったら違ったのかな?
考え事をしていたら、目の前に豪華な食事が並んだ。
「カルロ商会長。俺はマナーとか知りませんけど?」
「安心しろ。俺も知らない」
マジかよ。
「ハハハ、マナーとか考えずに食事をただただ楽しんでくださいよ」
大使の言葉が温かい。
「食事のマナーも知らないでよく商会長などできますなぁ。尊敬しますよ」
グランデ商会長は本気じゃないだろ?本音は「食事のマナーも知らない小僧共がこのような場で食事なんか片腹痛い」だろうなぁ。
「おじい様。ここは食事を楽しむ場ですよ?お言葉が過ぎますわ」
レオナがグランデ商会長を一蹴した。やはり先見の明があるというんだろうか?この先恐ろしくなるのは彼女だ。
ふと横を見ると、額に汗を浮かべて出てきた料理を見つめるカルロ商会長が……。
「あの……」
「言うな。黙っていろ」
カルロ商会長は、その香辛料がたっぷりと使われた肉料理を美味しそうに召し上がっていた。
実際に美味しかったのだが。
食べながら、徐々に体は前屈みになっていってたし、涙目すら見られたが、俺は商会長が「黙ってろ」と言うので、黙々と食事をした。
そんな俺達をレオナが見ていたことを俺は知っている。
「いやぁ、実に美味しい料理でした。T国ではあのような料理が?」
「あのくらい香辛料を使うのが普通ですな」
「ふむ、では庶民には行きわたらないのでは?」
「案じなさらないでいただきたい。豊富に生産しているのでそのような事にはならなく、庶民でも手軽に香辛料を使うことが可能なのですよ」
その日の夜、俺、カルロは前から気にはなっていたがなかなか踏み入れることが出来なかったバー、Sanctuary Silentに入った。
酒を飲むなんて状態の胃じゃないのに…。
「すいません、冷やかしとかじゃないんです。痛てて」
「……どっか怪我でもしてるのか?」
「実は胃腸が弱いけど、これも仕事だからとたっぷりの香辛料を使った肉料理を食べたんです」
「……飲みな」
出されたのは、透明のティーポットに入れられたハーブティー。
「……ミントとフェンネルだ。ちょっとは楽になるだろう」
マスターはそれっきり無言でグラスを磨いていた。
店の中は静か。ウッドベースか?が響く音楽が流れているだけだ。
マスターが淹れてくれたハーブティーは美味しく、ティーポットの中まで全部飲んでしまった。
酒を注文しようとしたが、静かに止められた。
「今日のところは酒を入れない方がいいだろう」
ココは酒を提供する場所だろう?いいのか?
そう思ったが、同時になんとも言えない安らぎも感じた。今度はマルコも連れて来てみよう。
そう思う。
今週はここから…




