7.
争奪戦の当日、各商会がT国から輸入した香辛料について、T国大使にプレゼンをすることになっている。
緊張するなぁ。
「なんだよ、マルコ。緊張してるのか?俺がいるんだ大丈夫だ。せっかくのスーツに埃がついてるぞ?」
そう言って、商会長に肩の埃を払ってもらった。
「なんだよ~?ネクタイまで曲がってるぞ。緊張しすぎだなぁ」
笑いながら商会長は俺の服装のチェックをする。
本来なら、お礼とか言わなきゃいけないけど。緊張?なんだか口も開かない。
カルロがしてくれたことはいいと思う。思うんだけど、俺の自尊心がなんか……。胸の奥がざわつく。息が少しだけ詰まった。
子供扱いされてるみたいで、なんか、違う。
他の商会の目線が生温かいし、「あんなのが‘カイロ商会’の商会長の右腕なのか?まだ小僧じゃないか」というような目線も感じる。
グランデ商会長に至っては、「あの小僧が片腕?カイロ商会も大したことないな」みたいなことを公言しているし。
なんかこう、俺が作った“俺”に守られてるっていう屈辱感と、俺のせいでカイロ商会が侮辱されてるのか?っていう感情で俺の感情はぐちゃぐちゃ。
レオナは一人「ふーん、ただの小間使いじゃないんだ……」とか言ってたっけ。俺にそのこととかについて深く考える余裕なし!
これからのプレゼンと、今までの屈辱感が。俺個人に対して…いや、カイロ商会長に悪気なんかないのはわかるんだけど、俺の自尊心というか……。あと、カイロ商会そのものを俺の存在のせいで貶められたという事実。もう感情がぐちゃぐちゃ。
「おい、香辛料のプレゼンに集中するぞ」
心はなんだかまだぐちゃぐちゃだったけど、商会長の言葉で正気(?)に戻った。
反射的に背筋も伸び、呼吸も整った。商人モードっていうのか?それになった。これで、カルロ商会長を補佐できる。ちょっと深呼吸をした。
「我が商会は事前にT国から提示されたルートを視察しました。結果、馬車での移動には不向きだと判断。即座に、雪の上をソリで移動するというルートに変更しました。雪の上という利点を生かした上で、ソリでの移動が迅速だと判断しました。速く移動を終え、我が商会が所有する冷蔵倉庫での保管が重要だと考えました。雪の上だったので、当然ながら涼しく香辛料の品質の低下を最小限に抑えることができました。また、ソリを利用したことで馬車での移動よりも素早く移動できたと自負しております。どうぞ味と香りでご判断を」
グランデ商会のルートは他の商会よりも早く移動できるが、雪の上とは違いあくまでも地面の上。カルロ商会よりも早くに王都に到着しているものの品質の低下についてはどうなのか?そこはT国の大使の判断にかかっている。
「ふむ。グランデ商会とカルロ商会の二つの商会以外の商会の提出した香辛料については論外だな。どれ、味と香りについて二つの商会の香辛料を比べるとしよう。公平性を高めるために、これから私は目隠しをして香辛料を視たいと思う」
いい考えだと思う。グランデ商会長にアイコンタクトとかされたらたまったものじゃない。
「ほう、こちらはなかなかのものだな。強いて言えば少々香りが弱いか?」
「で、こちらは……‼ 他国でこのような香辛料に出会えると思わなかった。一体どこの商会が……」
「そちらはカルロ商会が用意した香辛料ですよ」
「何かの間違えだろう?」
グランデ商会長もカルロ商会が用意した香辛料を口にした。……が俯いてしまった。
「ねぇ、あの香辛料はあなたが手配したの?」
俺はレオナに言われた。うーん、俺は指示に従っただけだからなぁ。
香辛料販売権争奪戦はなかなか熾烈な戦いですなぁ。




