14.
俺にはそんな悩みわからないけど、庶民が困っていることはわかる。男性独身寮から商会本店への道の間で庶民の話がいろいろと耳に入る。
・庶民は物価が高くて困っている
・グランデ商会は庶民からの支持を得ていない
というのが確かなこととなっている。
そんな中で、疫病が発生したらしい。
初期症状は耳の奥と背中が痒い。そのうち痒みが全身に広がり、皮膚が爛れ、最終的には亡くなるというもの。
まさか疫病の話をSanctuary Silentですることになるとは思わなかった。飲食店だし。
「はぁ、疫病かぁ。貴族様はこぞって屋敷に閉じこもってるのか?甘いんじゃないか?出入りしている使用人も感染経路となり得る。食べ物は?正解は何だろうな?」
「今のところ、改善策とか対策を練ることもできずにいるんですよ。どうして疫病にかかったのかがわかればいいんですけどね」
「そうだよなぁ」
商会長の前にはアマーロ・サワーが、俺の前にはリモンチェッロ・ロックが差し出された。
「初期症状は耳の奥と背中が痒い。らしいですよ?」
「なんだそれ?「風呂に入れよ。」で終わりそうだな」
「それが感染を広げてるんですよ!」
「……その初期症状に聞き覚えがあるな」
「マスター本当ですか?」
「……俺は嘘言うか?」
冗談は言うけど?
未知の感染症のはずだけど、マスターが知ってるかも?
その日は特に気にせずに店を出てそれぞれに帰った。
一人店に残ったマスターは昔書き記した疫病の初期症状と今回の疫病の初期症状について考察をしていた。
「……あの時と同じだ」
マスターのメモにはその疫病に有効なハーブなんかも書き記してあった。
ドンッと壁を殴った。
「あの時早くコレを見つけていれば……。……ヘレナ?」
ウッドベースの音に交じって聞こえた衣擦れの音に反応してマスターが振り返るとそこにはレオナがいた。
「どうしてあなたが母さまの名前を?」
レオナはその容貌が母親似のようだった。
「ヘレナ、生きていたのか?いやそんなはずはない。あの時に……」
「どういうことなのよ‼」
レオナは普段の飄々とした感じではなく、本気でマスターの両肩を掴んで揺さぶった。
「私が若い時ですよ。私は一人の美しい女性に出会いました。私は小さな商会の商会長をしていました。彼女はグランデ商会の一人娘でありましたが、小さな商会での私でも構わないと言ってくれていたのです」
「母さまらしいわ」
「しかしながら、というか当然ですね。グランデ商会長は私のような小物とヘレナとの交際を頑なに認めませんでした」
「なんだかおじい様ってそんな感じするわ」
ウッドベースの音の音が店内に鳴り響く。
……ここまで。




