第9話 魔王様と先輩
新キャラ登場です!!
翌日。
いつもどおりの時間に佐藤は出勤した。
ここ最近すっかり見慣れた影も、すでにあった。
「おはようございます。相変わらず早いですね」
佐藤は、隣席の方を見て、そう呟いた。
「佐藤殿、おはよう。戦場に出る者としては、正しい心構えである」
「だから戦場じゃないです」
いつもと変わらぬ朝のやり取りのように見えて、ちょっと違う。
明らかに魔王はそわそわしていた。
他に興味が向いている、とも言える。
その興味の相手はすでに窓口の準備に入っていた。
静かで、無駄のない動き。
こちらに気づいていないふりをしながら、それでもこちらを気にしているように見える。
(……あ、そうだった。今日か)
佐藤は、昨日魔王と話した内容を思い出した。
里帰りしていた後輩。
区民課に戻ってくる予定の――あの子だ。
「おかえり、久々の実家はどうだった?」
佐藤が声をかける。
すると、耳がピクリと反応し、尻尾がピンと立つ。
声を掛けた相手―― 猫獣人のリィナは、こちらを振り返るとぱぁっと破顔し、
「ただいまです!先輩!!おはようございますです」
元気いっぱいの挨拶を返してきてくれた。
「いや〜、たまには帰ってみるもんですね〜。みんなの元気な顔が見れてよかったです。
あっ、先輩こちらお土産です」
「わざわざありがとう。あとでみんなでいただくよ」
「のんのん、皆さん分は別で用意してますです。
こちらは先輩宛てのお土産です」
「あ、ほんと?余計悪いな〜
ありがとうね」
そういってお土産を自席に置くついでに、隣席の魔王様の紹介をする。
(さっきから互いに警戒の視線送り合ってるからなぁ)
「リィナさん、こちらは最近区民課に加わったダルクさんです。
リィナさんと同じで、異世界からやってきた方です。
ダルクさん、先日お話した私の後輩です。
ご覧の通り、猫の獣人です」
ばちっ、と二人の視線が重なる。
すると、ほぼ同時だった。
「「……コスプレ?」」
一瞬の沈黙。
区民課の朝の空気が、ぴしりと固まった。
「…………」
「…………」
ダルクは腕を組み、じっと相手を観察している。
一方のリィナは、耳を伏せ、尻尾を警戒するように揺らしていた。
佐藤は一旦見守ることにした。
「…………ダルクさん、です?はじめましてリィナです。
異界からこの世界に迷い込んでそのまま採用してもらったです。耳と尻尾は本物です」
「うむ、我はダルク=オルガ、魔王である!
我の角も本物であるぞ」
リィナが不安そうにこちらを見る。
「……魔王?」
「はい。元、ですけどね」
「もと」
リィナの視線が再度、ダルクの角、体格、纏っている妙な威圧感をなぞる。
「……えっと」
「うむ」
ダルクが一歩前に出た。
リィナの耳がぴくりと立った。
「ごめんなさいです!」
「「えっ??」」
リィナは佐藤の後ろに逃げ込むように隠れた。
顔だけひょこっと覗かせ、警戒の視線を送る。尻尾もピン!と立っている。
「先輩、この人、ちょっと怖くて苦手です」
佐藤は即座にフォローに入る。
「大丈夫だから。暴れないし、仕事も真面目で丁寧だから」
「仕事……?」
魔王が?と今度は疑いの視線に変わる。
ダルクは佐藤の言葉に誇らしげにうなずく。
「住民票発行は完璧であるぞ」
「いまそこ威張るとこじゃないです」
リィナはしばらく二人を見比べ、やがて小さく息を吐いた。
「……先輩がそう言うなら……」
「ありがとう」
「でも」
リィナはダルクを指さす。
「この人、絶対普通に採用されてないですよね」
「勘がいいな」「そうですね」
「ほら!」
ダルクは満足そうに笑った。
「貴様、なぜわかった?」
「窓、貼り直されてる気がするです。あとちょっと入口のところに傷がありました。
私がお休み入る時はなかった傷なので最近誰か暴れたのかなぁ、と。」
ほう…。とダルクから感心の目が向けられる。
「貴様、なかなか良い目を持っているな。我がつけた傷や破壊した窓ガラスに気づくとは」
「ダルクさん、誇れないですよ。アレの修理代天引きでしょ?」
「……うむ」
二人のやり取りに、リィナは困惑した顔で佐藤を見上げ、小声で話しかけてきた。
「先輩、この人怖くないんです……?
魔王相手にそんなあけすけに言い放って大丈夫なんですか?」
「魔王といっても元ですからね。今となっては慣れましたよ。
時折愉快な人ですしね」
「やっぱり先輩はすごいです」
そんな佐藤の発言が届いていないダルクはどこか得意気な様子だ。
「この畏怖される感じ、久しくなかったな…
区長といい、佐藤殿といい少々我の扱いが雑ではないか?我、一応魔王であるぞ?」
「いつも言ってるじゃないですか。ここじゃ魔王の肩書なんて役に立たないですよ。」
「…むぅ」
そんな会話を繰り広げていると、始業のチャイムが鳴った。
「……っと、話はここまでだね」
「はいっ」
リィナはサッと気持ちを切り替え、朝礼へ向かう。
(やっぱり優秀だな)
佐藤がそう思っていると、隣でダルクが低く唸った。
「佐藤殿」
「なんです?」
「彼女、面白いな」
「おもちゃじゃないですからね?あと彼女のほうが先輩なので一応立場的には上ですよ」
「わかっておる。あれでいて仕事も優秀なのだろう?」
「ええ、仕事できる子ですよ」
ダルクは腕を組み、うなずく。
「良い配下を持ったな」
「だから配下じゃないです」
最前列で朝礼に望むリィナを遠目に見る。
その尻尾が、わずかに警戒の角度で揺れていることに、佐藤だけが気づいていた。
切り替えたようで、まだこちらに残心しているのだろう。
(これは……しばらく賑やかになりそうだな)
区民課の一日は、今日も始まろうとしていた。
――静かに、とは言い難い形で。
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