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区役所勤めの魔王様  作者: はるくぼ
第一部 異世界からの転職者

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4/11

第4話 魔王様、初出勤

佐藤は、いつもと同じように区役所の裏口をくぐった。

まだ人の少ない庁舎は、静かで、少し冷たい。

いつもどおり始業の打刻をし、自分の席のPCを起動する。


何にも変わらない、今までどおりの一日が始まる——

——はずだった。


視界の端に、見慣れない影がある。

昨日の件を思い出しながら、佐藤はため息をひとつついた。

「……おはようございます」


「佐藤殿。おはよう。今日から勤務開始だ。

改めてよろしく頼む」

そこにいたのは、

スーツでも作業着でもない服装の新規採用職員だった。


「よろしくおねがいします。えーっと、ダルクさん でしたっけ?」

「おぉ、そうだな。改めて自己紹介といこう。

我はダルク=ゼルグ。元の世界では魔王をしていた。好きに読んでくれて構わぬ。」

「わかりました、ではダルクさんで。

私は佐藤恒一と申します。」

「うむ。佐藤殿、よろしく頼む。」


(まじで職員になってる...)

昨日のやり取りを思い出す。そもそも区長は冗談を言うタイプじゃない。

つまりこれは、本当に現実なのだ。

ということは、だ。()()()も本当のことなのだろう。


「ダルクさん、本日の業務の内容はなにか聞いていますか?」

「いや、まだ何も聞かされておらぬ。あそこにいる女性から打刻の方法は教わったが、

業務に関することは佐藤殿に聞くようにとな」


(あーー。やっぱりだ。俺が魔王様の教育係かぁ)

平穏な毎日が崩れ去る音がしたーー


*********************************


「ーーー以上となります。他に何か伝達事項はございますか?」

朝礼も終わりに差し掛かった頃、係長が手を上げる。


「えー、皆さん。昨日お伝えしたとおり、

本日から区民課に新しい職員が入ります」


ざわ、と小さなどよめきが起きる。


「臨時職員のダルクさんです。

佐藤さんが教育係を担当しますので、よろしくお願いします」

「うむ、皆のものよろしく頼む」


ダルクが一歩前に出て、深く一礼した。

その所作だけは、妙に様になっていた。


「はーい、ダルクさん、よろしくおねがいしますね。

えー、その他伝達事項はございますか?  ...無さそうですね。

では皆さん、本日もよろしくおねがいします。」「「「よろしくおねがいします」」」


朝礼も終わり、各々が自身の業務に取り掛かる。

佐藤も早速、魔王様の教育係としての仕事を開始する。


「ダルクさん、まずは区民課の案内をしますね。私についてきてください。」

「承知した。佐藤殿に従軍だな。」

聞かなかったことにした。

訂正すると、話が長くなる予感しかしなかった。


「まずここはデスクスペースです。それぞれの席がありますので、基本はそこで業務を行ってください。

すぐそばのこちらが窓口です。来庁された区民の皆様の対応をする場所ですね」


「ふむ。ここで決闘が申し込まれるわけだな。」


「そんな対応はありませんよ!?仮に来たとしても受けないでください!」

今度は流石にスルーできなかった。



「む。しかし魔王たるもの挑まれた勝負には応じねば...」


「大丈夫です、ダルクさん今魔王じゃないですから。あっ...」

しまった。思わず思ったことをそのまま口にしてしまった。


「...ふ。たしかにな。

確かに今の我は魔王ではない。単なる一兵卒、いや傭兵といったところか」

「全然違いますね」


即答だった。考える余地すらなかった。

どうやらこの魔王、どうしても戦いと結びつけたがる節がある。


「いいですか、ダルクさん。まず区役所の職員は戦いません。

いえ、戦わないはちょっと間違いかもしれないですが、我々の武器は紙、それと制度です。」

「神だと!職員とは召喚士であったのか...

しかし神と契約するとは恐れ入った。」

「なんかイントネーション違いますよね、それ...

神ではなく紙ですよ。ほらちょうどそこのプリンターで印刷してるやつ」

「ただの箱から紙が大量に...?まさか錬金術も扱えるのか!」

「なんですか錬金術って...

一般家庭にも普及してる機械ですよ、それ。」


佐藤は一度、深呼吸をした。

脳内をリセットさせ、次の一手を考える。


(よし。順番を変えよう。案内は後回しだ)


「一旦案内はここまでにして、次の業務として、区民課の業務内容を少しずつ把握していきましょう」

「なるほど。後方支援というわけだな」

「そういう感じです」

「よし、理解した。

では佐藤殿、我は何をすればよい?」


魔王様もやる気たっぷりのようだ。

「……まずはですね」

佐藤は、引き出しに手をかけたまま一瞬だけ止まった。

これを見せたときの反応は、もう想像がついている。


佐藤は机の引き出しから、一冊の分厚いファイルを取り出した。

「このマニュアルを、一緒に読みます」

「これは...呪文書か?

この厚さ、上 いや超級に値しそうだ。」

「値しないですね。ただ業務の流れがまとまっているだけです。」


これまでの問答で佐藤は確信した。

——今日一日、長くなる。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


よろしければ高評価・ブックマークのほど、よろしくおねがいします


今後の活動の励みにさせていただきます

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