第3話 魔王様の就活
時は少しさかのぼり、区長が魔王を連れ去ったあとーーー
<魔王視点>
魔王は区長に連れられとある部屋に向かっていた。
「おい、我をどこに連れて行く。」
「区長室という場所ですよ。端的に言えば私の部屋です。」
「ほう。貴様の部屋でこの地の主を争うということか。」
「まぁひとまずそういうことでいいです。
あ、こちらです。どうぞお入りください。」
区長の後に続き、区長室に入る。
「む、随分と狭い部屋で決闘するのだな。
まぁ良い。そちらも構えよ。いざこの地の王を決める戦いを始めようではないか。」
そう言い放ち臨戦態勢に入る。
そして、目の前の男から仕掛けてくるのを待った。
だが眼の前の男は臨戦態勢を取らなかった。むしろ取る気さえないように見える。
それどころか、
「そんなことは後回しにして、まずは少しお話でもいかがですか?
あ、どうぞお座りください。」
あろうことか目の前の男は話し合いを求めてきた。
(妙だ……。この男、戦闘をする気がないどころか、まるで“厄介な来客”を見る目をしている
我ごとき戦うに値しないとでも考えているのか?であればーー)
「そちらに戦う気がないのであればその気にさせるまで!こちらからいくぞ!」
魔王は一歩踏み出し、区長へと距離を詰めた。
——瞬間。
ぐらり、と視界が反転した。
「なっ——!?」
気がついたときには、
魔王は床に背をつけ、腕を極められていた。
「ちょ、ちょっと待て……!貴様、何を——!」
「暴れないでください。ここ、区役所ですから」
区長の声は、相変わらず落ち着いている。
「く……この我が、人間如きに……!」
「はいはい。では落ち着いたところで、本題に入りましょうか。
今度こそおとなしくお座りください。」
訳もわからず組み伏せられ、一瞬にして彼我の差を理解させられた。
(この男......人間の皮を被ったナニカではないのか??)
再戦する気も起きずひとまず言われたとおりに座る。
「あなたのような来客はごくたまにですがいないことはないのですよ。
その都度こうして私自ら対応させていただいておりましてね。」
男は何事もなかったかのように話し始めた。
「いつも皆さんにお話させていただいている内容は同じなのですが、
あなたには2つの選択肢がございます。ひとつはおとなしく元の世界に帰還する。もうひとつはこちらの世界で生活する。
あなたはどちらを選びますか?
ああ、元の世界につなぐのに多少なりともお時間をいただきますが、異世界送還の技術も確立されておりますから問題なくお帰りただけると思いますよ。
それまでの生活はこちらで面倒を見ますしね。」
「貴様、我を愚弄するか!
元の世界に帰るだと?あれだけ啖呵をきっておきながらそう易々と帰ってなるものか!!
先は貴様のいいようにされたがこの世界に適応しいずれ貴様も超えてみせようぞ」
「おお!そうですか!こちらの世界で生活されると。
そうするとこちらで生活するための基盤が必要になりますよね?」
「は?いやそんな話はしt」
「まずはあなたが“この世界でどうやって生活するか”、そこを整理しましょう」
そう言うと男は一枚の紙を取り出した。
「まず確認させてください。
お名前は……ダルク=ゼルグ、でよろしいですね」
「む。いかにも。」
「元の世界でのご職業は"魔王"でよろしいですかね?
しかしながら“魔王”という肩書きは、こちらの世界ではそのまま職業欄に書けませんので」
「いや、だから我の話をだなーー」
「『統治経験あり』としておきますね」
「我の話を聞け!?」
トントン拍子に話は進んでいく。
「魔王をされていた際のお話を伺えますか?どれくらい部下がいたのかなど」
「む。我の部下か?たくさんおったぞ。種族も様々であったしな」
「ほうほう!部下は多かったと。では職歴に管理職経験あり、と。
いやぁ、区の職員にもそういった人材は不足しておりましてね、助かります。」
「...待て、貴様なんの話をしている??」
「この世界で生きるなら、まず収入源が必要ですよね?ということでうちの職員として働きませんか?」
「いや我そんなつもりは」
「いえいえ、すぐに決めろとは言いません。まずは説明だけですから」
そう言って男は、
先ほどとは別の紙を数枚机の上に並べた。
「勤務時間、給与、福利厚生……
ああ、社会保険の説明も必要ですね」
「しゃ、しゃかい……ほけん?」
「病気や怪我をした際の保障です。体は資本ですから」
(な、なんだ...?なにがどうなっている??)
「こちらが雇用条件になります。問題なければ、最後にこちらへサインを」
区長は、
一番下の欄を指で軽く叩いた。
「……これは何だ」
「雇用契約書です。臨時ですけども」
一瞬の逡巡。
だが、この男の視線はすでに
“決まったもの”を見る目をしていた。
「契約……?いやだから我はそんな気は」
「生きるためには働かないといけませんからね。他の職業のご紹介ですとそれなりにお時間もかかりますしね。
引き受けてくださいますね??」
「アッ、ハイ」
——圧がすごい。
気づけば、その紙に名を書いていた。
「よし。では本日付で、ダルク=ゼルグさんは
当区役所・区民課の臨時職員です」
(……なぜだ。世界征服より先に、就職が決まってしまったのだが!?)
次回、魔王様初出勤
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