表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
区役所勤めの魔王様  作者: はるくぼ
第2章 異世界準拠の当たり前
28/59

第28話 魔王様とトラブル対応

 昼前の区役所は、だいたい眠い。


 午前の窓口対応が一段落し、職員たちの意識が「あと少しで昼休み」に向かい始める時間帯。

 佐藤も例に漏れず、次の来庁者を待ちながら、頭の中で昼食の献立を考えていた。


(今日はなんのメニューにしようかな……)


 そんなときだった。


 外線電話が鳴った。


「……はい、区民課です」


 受話器の向こうから聞こえてきた声は、どこか困惑していた。


『正面玄関の植え込みなんですが……なんか、動いてまして』

「動いてる、ですか?」


 曖昧すぎる報告に、佐藤は思わず聞き返す。

 その様子に異変を感じたのか、ダルクとリィナも気にしているようだ。


『動物……だと思うんですけど、ちょっと大きくて……』

「大きい?」


 受話器越しに、不安の声が高まる。

『鳴き声も聞いたことないんです。なんかこう、唸るような感じで』


 佐藤は、ゆっくりとダルクとリィナの方を見た。


「……ダルクさん、リィナさん」


「案内せよ」


「行きますです」


 即答だった。


 三人は連れ立って正面玄関へ向かう。

 廊下を歩く間も、特別な緊張感はない。


「うーん、野犬でも迷い込んだかな」

「そうだな、犬であればいいのだが」

「でも、鳴き声聞いたこと無いって言ってたです」


 そんな会話を交わしているうちに、現場に着いた。


 植え込みの影。

 そこにいたのは、確かに“見慣れない生き物”だった。


 犬に似ているが、体格は一回り大きい。

 低く唸り声を上げ、周囲を警戒するように牙を見せている。


 数メートル離れた位置で、来庁者が足を止めていた。


 明らかに犬ではない。もっと危険ななにかだ。

 そう判断した佐藤が、周囲にいた来庁者たちに向けて叫ぶ。


「近づかないでください!離れて!」


 ダルクとリィナが、来庁者をかばうように生き物の前に立ちはだかる。


「我が制圧する。リィナ殿は後方待機だ」


「わかったです」


「佐藤殿は来庁者の避難誘導だ。頼む」


「わかりました」


 そういうと、ダルクは一歩前に出た。


 その生き物は、ダルクと対峙すると唸り声を一層低くした。


「……威嚇か」


 そう呟いた直後だった。


 生き物が、前脚を踏み込み、跳ねる。


「危な――」


 佐藤が声を上げるより早く、ダルクが動いた。


 大きく踏み込み、進路に体を差し込む。

 伸びてきた前脚を掴み、体勢を崩す。


 次の瞬間。


 鈍い音とともに、生き物は地面に押さえつけられていた。


 一連の動作は、あまりにも静かで、あっけなかった。


「……え?」


 周囲が固まる。


 ダルクは、相手の首元を押さえたまま、淡々と言った。


「暴れるな。危害を加えるつもりはない」


 生き物は、しばらく抵抗していたが、やがて力を抜いた。


「……終わり、ですか?」


 誰かの声が、恐る恐る飛ぶ。


「終わった」


 ダルクは短く答えた。


 その後は、実に事務的だった。


 担当部署への連絡。

 保護の手配。

 簡単な状況説明。


 ダルクは終始、特別な顔一つせず、指示に従っている。


「警察、呼ばなくてよかったんですか?」

「必要ない。危険は排除した」


 佐藤は、横でそれを聞きながら、内心首を傾げていた。


(……今の、普通に事件だよな?)


 処理が終わる頃には、時計はすでに昼休みを指していた。


 区役所の中に、いつもの空気が戻ってくる。


「……お昼時間、減ったのです」


 リィナが小さく言う。


「なんと」


 ダルクは、時計を見た。


「それは大問題だ」


「えぇ……二人とも、そこですか?」


 佐藤は思わず笑ってしまった。


 三人は、そのまま並んで食堂へ向かう。


 ――植え込みは、もう静かだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


感想や評価、ブックマークをいただけると嬉しいです!感想は一言でも大丈夫です。

「おもしろい」「笑った」だけでも、作者がとても喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ