第16話 魔王様と変わらぬ日常
ダルクが正規職員になったからといって、
区役所の日常が変わるわけではなかった。
ダルクの机は、今までと同じ場所にある。
椅子も、パソコンも、引き出しの中身も変わらない。
強いて言えば、名札の表記が変わったくらいだ。
「おはようございます……相変わらずお早いですね」
佐藤はそう言って庁舎に入り、タイムカードを打刻した。
視線を向けると、いつもどおりダルクがすでに席についている。
背筋を伸ばし、端末の前で静かに待機していた。
「佐藤殿、おはよう。
始業時刻のほんの三十分前だ」
「十分早いですよ」
「遅れるわけには行かぬからな」
それもそうですけど、と佐藤は苦笑しながら自分の席に向かう。
「正規の職員になって、どうですか?」
鞄を置きながら、何気なく聞いた。
「なにか変わりました?」
「いや、特には」
ダルクは即答した。
「正規であろうが臨時であろうが、
与えられた職務を全うするだけだ」
「そうですか。
それなら……まあ、よかったです」
よかったのかどうかはよく分からないが、
少なくとも変な緊張はしていないらしい。
やがて朝礼が始まり、
業務連絡が淡々と読み上げられる。
特に大きな変更はない。
それが終わると同時に、窓口が開いた。
「次の方、どうぞ」
ダルクは番号札を確認し、来庁者を呼び込む。
申請書を受け取り、必要な箇所に目を通した。
「こちらにご記入をお願いします」
「はい」
説明し、待ってもらい、確認する。
それを繰り返す。
特別なことは起きない。
午前中は、それだけで過ぎた。
昼休みになると、職員が順番に席を立つ。
「お昼、どうします?」
佐藤が聞くと、ダルクは少し考えてから答えた。
「いつもと同じだ。食堂へ行こう」
「今日も日替わりですか?そろそろメニュー2周目くらいじゃないです?」
「継続は安定を生むからな」
「いい言葉ですね」
佐藤は笑いながら立ち上がった。
午後も、同じような業務が続き、
気がつけば定時が近づいていた。
「今日も穏やかでしたね」
「そうだな。
問題は発生しなくてよかった」
「そう頻繁に起きても困るんですけどね。
例えば魔王がやってくるとか」
「む、それは我のことか」
「さぁ?どうでしょうかね」
佐藤は笑いながら、時計を見た。
「さて、もう定時ですし帰りましょう」
「もうよいのか?」
「残業はなるべくしないに越したことはないですから。
まだ終わってない作業あるなら手伝いますよ?」
「なるほど、実に合理的な判断だ。
我の作業も終わっておる。」
ダルクは静かに立ち上がり、
名札を外して、丁寧に引き出しへしまった。
「随分丁寧ですね、そんなに気を使わなくても」
「紛失や破損するわけにはいかぬ。
昔、支給品を壊したとき、とても怒られたからな」
「魔王様でも怒られるんですか…」
「部下にバカ真面目な者がおってな。なつかしい」
ダルクは思い出すように目をすぼめ、つぶやいた。
「ダルクさんの部下ですか。また癖の強そうな...
また飲みの場とかで聞いてみたいですね」
「む、ならこれからどうだ?焼き鳥に行こう」
「めちゃめちゃハマってるじゃないですか。
でも今日は止めておきましょうか、明日も仕事ですし。
また週末にでも行きましょう」
「承知した」
そういって二人は退勤した。
今日の区役所もいつもどおりの時間が過ぎていった。
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