第15話 魔王様と正式採用
ダルクが区役所の職員として採用されて、まもなく一ヶ月が経つ頃――
佐藤の元に、一本の内線電話がかかってきた。
内線電話の向こうから聞こえてきたのは、区長の穏やかな声だった。
「佐藤さん、少し時間いいかな」
久しぶりに区長の声を聞いた気がする。
「はい、大丈夫です。…はい、…え? はい、承知しました。」
受話器を置き、佐藤は立ち上がる。
チラリと、隣の席へ目をやった。
ダルクは今日も変わらず書類を整理している。
背筋は伸び、動きに無駄がない。
「すみません、少し席を外します」
「承知した。問題があればリィナ殿を頼ろう」
ごく自然なやり取り。
それが、もう特別なことではなくなっている。
佐藤はそのまま区長室へ向かった。
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コンコンコン――
「どうぞ」
「失礼します」
「すみません、突然お呼び出しして」
「いえ、大丈夫です。
最近はダルクさんやリィナさんのおかげで、ひとりひとりの負担は軽減されていますので」
「それはよかった。
それで、今日お時間頂いたのが、そのダルクさんの件なのですがね」
「はい、何か問題でもありましたかね…?
見ている限りでは、特に問題もない認識でしたが…」
「いえ、何か問題があったというわけではないですよ
ただ、彼が来てもう一ヶ月が経つので、教育係の視点からもどんな様子か聞いてみたいと思いましてね」
「そうですね、最近は区民の方に接する際の言葉遣いや威圧感を抑える声量なんかにも気を遣ってくださってます。
もちろん、窓口業務自体も丁寧で覚えも早いですね。
こちらの話を聞いてしっかりとメモを取ってくださるので、教えがいもありますね」
佐藤は、素直にダルクに対する今の印象を答えた。
それを聞いた区長は満足そうに頷いている。
「先ほども言ったとおり、ダルクさんが来て一月経過しますからね。
そろそろ、ちゃんと話をする時期ではないかと考えています」
「…話、ですか?」
「ええ、お忘れですか?彼はまだ”臨時”の職員なんですよ」
あっ、と佐藤は思い出した。
区長の言うとおりダルクはまだ臨時職員だった。
最近の馴染み様を見ていると、すっかり正規の職員のように感じてしまうが。
「しかしながら、もう試用期間を終えて正規職員ですか?
流石に時期尚早ではないでしょうか?」
「いえいえ、試用期間は継続です。
あくまで、契約形態を臨時から正規職員に変更するだけです」
「それであれば納得です。
ダルクさんにも何も問題ないと思います。」
「佐藤さん、ありがとうございます。
頂いたご意見も参考に、ダルクさんと話させていただきますね」
そう言うと区長は、佐藤に退室を促し内線を手に取る。
おそらくダルクを呼んでいるのだろう。
佐藤は、退室して自身の業務に戻った。
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<ダルク視点>
区長に呼び出されたダルクが区長室に呼び出された。
「失礼する」
「どうぞ」
「すみません、突然お呼び出しして。
最近はどうですか?」
「うむ、毎日充実しておる。
こうして暴力以外で秩序を守るというのも良いものだ」
「それは何よりです」
区長はそう言って、小さく笑った。
「現場からの評判も良いですよ。
業務態度は真面目、住民対応も丁寧。
正直に言って、こちらとしては大変助かっています」
「過分な評価だ」
ダルクは静かに首を振る。
「与えられた役目を果たしているに過ぎぬ」
「ですが、それができない方も少なくありません」
区長は机の上の書類を一枚取り上げ、指先で整えた。
「そこでですね。
本日は、少し大事なお話をしようと思いまして」
ダルクは黙って続きを待った。
「ダルクさんは、現在“臨時”の職員という扱いになっています。
期限を区切った形での配置ですね」
「承知している」
「ええ。ですが、一ヶ月ほど様子を見させていただいた結果――」
区長は一拍置く。
「このまま、正式な職員として働いていただけないか、と考えています」
区長の言葉は、穏やかで、事務的だった。
ダルクは一瞬だけ目を伏せ、
それから、いつものように背筋を正した。
「……我としては断る理由がないな」
「そう言っていただけると助かります」
区長は安堵したように息をつく。
「もちろん、細かい手続きや説明は改めて行います。
ですが、まずはご意思を伺いたくて」
「問題はない」
ダルクは即答した。
「この場で働くことに、不都合は感じておらぬ」
その答えを聞き、区長は満足そうに頷いた。
「では、正式な手続きに進みましょう。
後ほど担当の者から連絡いたしますね」
「承知した」
立ち上がり、一礼する。
「今後とも、よろしくお願いする」
「こちらこそ。頼りにしていますよ」
区長室を出たダルクは、
いつもと変わらぬ足取りで廊下を歩いた。
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まだまだ、第二部へと続いていきますので、変わらずお付き合いいただけると嬉しいです




