第13話 魔王様と金曜日
「それで、どこのお店に行こうか?」
3人で職員通用口から外に向かいながら、佐藤は訪ねた。
「我はそもそもここの食堂以外行ったことがない」
「えっ、夜ご飯は自炊ですか?」
「いや、こんびにとやらで買っている。
夜に行くと値も下がっているものがあるからな。ありがたい」
「魔王なのに、意外と庶民的なのです。
でも節約はいいことです、スーパーで買うともっと割引してくれてたりしますですよ。半額とか」
「半額だと!?」
「(ビクッ!!)急に大きな声出さないでほしいです……びっくりしたです……」
佐藤を挟んでリィナも話に加わる。
「まぁまぁ、スーパー談義はそのへんにして、今日どこに行くか決めましょう。
リィナさん、行きたいお店ある?」
んー、とリィナは考えを巡らせ、
チラリと魔王を見る。
「ダルクさんは普段コンビニ弁当と言ってたですね。弁当には入ることがあまりない焼き鳥とかどうですか??」
「いいですね、焼き鳥。ここから近いところにお店もありますし。
ダルクさんは焼き鳥どうです?」
佐藤も魔王の方を向く。
「焼き鳥……鳥の丸焼きか?」
「いえ、鶏の切り身を串に刺して焼いたものですよ」
「ほう、それはまた美味そうだな。
相変わらずこの世界の食の発展は凄まじい」
「ですです。美味しいものたくさんです。」
異世界組からすると、食が豊からしい。
佐藤は近くの居酒屋に電話し、奥の方の席の確保をお願いした。
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店に入った瞬間、視線が集まった。
――正確には、二人に。
「……見られてるですね」
リィナが小声で言う。
猫耳が、ぴくりと動いた。
「うむ。興味の視線だな……なんにせよ悪意は感じぬ」
ダルクはそう言って、周囲を一瞥する。
角のせいで、どうしても目立つ。
(そりゃそうだろうな……)
佐藤は内心で苦笑いを浮かべた。
仕事帰りに寄った、ごく普通の居酒屋。
いつもなら、サラリーマンや常連客で賑わうだけの場所だ。
そこに、
猫耳の獣人と、角の生えた大男が並んで立てば――。
「とりあえず、奥の席を抑えてくれてるみたいなので行きましょうか」
「はいです!」「承知した」
三人は、そっと視線をやり過ごすように席へ向かった。
席に着くと、ほどなくして店員がやってきた。
「ご注文お決まりでしたらお伺いしますー」
「えっと……」
佐藤はメニューを開きながら、二人の様子を伺う。
リィナはすでに楽しそうに紙のメニューを眺めていた。
一方ダルクは、文字の多さに少し眉をひそめている。
「……これは、全て料理名か?」
「そうですね。気になるのを頼めば大丈夫ですよ」
「では、この“とりあえず”とは何だ?」
メニューの上部を指さすダルク。
「“とりあえず枝豆”“とりあえず生”……
“とりあえず”とは、優先度の高い料理という意味か?」
「あー……」
佐藤は一瞬言葉に詰まり、リィナが先に答えた。
「とりあえずは、とりあえずなのです!」
「説明になっていないぞ」
「最初に頼む定番、みたいな感じですね」
「なるほど。儀礼的前菜か」
妙に納得した顔で頷く魔王。
「では“とりあえず生”を三つ」
「ダルクさん、それお酒です」
「酒か。二人は飲むだろうか?」
「ええ、私も生で」「私は梅酒がいいです!ロックで!」
「では“とりあえず生”が二つと梅酒が一つでよろしく頼む」
店員が笑顔で復唱しながら頷く。
「お食事はどうしますか?」
「焼き鳥を……えーっと、盛り合わせで」
「盛り合わせとは、構成を店側に委ねる契約か?」
「まぁ、そんな感じです」
「信用が前提となる取引だな。嫌いではない」
ダルクはそう言って、メニューを閉じた。
「では焼き鳥盛り合わせを一つ。
それと……この“皮”と“砂肝”というのは、どの部位だ?」
「説明長くなりますけど大丈夫です?」
「学習は望むところだ」
リィナはにこにことしながら頷いた。
「ダルクさん、今日はいっぱい勉強ですね」
「うむ。異世界の食文化は奥深い」
佐藤はその様子を眺めながら、内心で思う。
(……普通に飲み会してるなぁ)
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しばらくして、店員が、トレイを手に戻ってきた。
「お待たせしましたー。生ビール三つと、梅酒ロックです」
ジョッキがテーブルに置かれ、同時に、こん、と小気味いい音がした。
「……これが、“生”か。我の世界の麦酒に似ているな」
ダルクは目の前のジョッキをじっと見つめる。
黄金色の液体に、細かな泡が立っている。
「あー、文字だけ見ると同じかもですね」
「ほう……」
恐る恐る、ジョッキを持ち上げる魔王。
角に当たらないよう、やや不器用な動きだ。
「では――」
三人で軽くジョッキを合わせる。
「お疲れさまでしたー」
「お疲れさまです!」
「……お疲れ様、である」
ダルクは一拍置いてから、口をつけた。
「…………ほう」
「どうです?」
佐藤が様子を伺う。
「我の世界の麦酒に確かに似ている。だがこちらのほうが圧倒的に美味い。
これほど冷やしているのも大きな要因なのだろうな」
「たしかに、冷えたビール最高ですよね」
「私はビールの苦さが苦手です。二人とも大人なのです」
「お待たせしました―、焼き鳥盛り合わせですー」
飲み物談義をしていると、再び店員が現れた。
皿が置かれた瞬間、香ばしい匂いが立ち上る。
「……!」
ダルクの目が、わずかに見開かれた。
串に刺さった肉。
照りのあるタレ、塩のきいた焼き目。
「これが……焼き鳥……」
「まずは熱いうちにどうぞです!」
リィナがにこにこしながら勧める。
ダルクは一本取り、しげしげと観察したあと――
意を決したように、口に運んだ。
――がぶ。
「……っ」
一瞬、言葉を失う。
そして、ゆっくりと噛み締める。
「……なるほど」
「どうですか?」
「単純な調理だが、火入れと味付けで素材の力を最大化している。
これは……合理的だ」
「褒めてます?」
「最大級にな」
そう言って、次の一口を迷いなく食べる。
佐藤とリィナも串を手に取る。
「美味しいです!」
「うむ。これは……“串”という形状にも意味があるな」
「え、注目するのそこです??」
「持ちやすく、分配もしやすい。戦場食としても優秀だ」
(戦場に焼き鳥持ち込む魔王、初めて聞いたな……
想像してみると意外と合理的なのか?)
思考に陥っている佐藤の正面で、
リィナがくすくす笑いながら、砂肝の串を差し出している。
「これはコリコリしてるですよ」
「では試そう」
一口。
「……確かに、歯応えがある」
「好き嫌い分かれますです」
「うむ。噛むほどに旨味が出る。これは酒と合わせると良い」
そう言って、自然にジョッキを取る魔王。
その姿は魔王なんかではなく、
週末を楽しむただの社会人そのものだった。
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