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区役所勤めの魔王様  作者: はるくぼ
第1章 異世界とは違う社会

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第13話 魔王様と金曜日

「それで、どこのお店に行こうか?」


3人で職員通用口から外に向かいながら、佐藤は訪ねた。


「我はそもそもここの食堂以外行ったことがない」


「えっ、夜ご飯は自炊ですか?」


「いや、こんびにとやらで買っている。

夜に行くと値も下がっているものがあるからな。ありがたい」


「魔王なのに、意外と庶民的なのです。

でも節約はいいことです、スーパーで買うともっと割引してくれてたりしますですよ。半額とか」


「半額だと!?」


「(ビクッ!!)急に大きな声出さないでほしいです……びっくりしたです……」


佐藤を挟んでリィナも話に加わる。


「まぁまぁ、スーパー談義はそのへんにして、今日どこに行くか決めましょう。

リィナさん、行きたいお店ある?」


んー、とリィナは考えを巡らせ、

チラリと魔王を見る。


「ダルクさんは普段コンビニ弁当と言ってたですね。弁当には入ることがあまりない焼き鳥とかどうですか??」

「いいですね、焼き鳥。ここから近いところにお店もありますし。

ダルクさんは焼き鳥どうです?」

佐藤も魔王の方を向く。


「焼き鳥……鳥の丸焼きか?」

「いえ、鶏の切り身を串に刺して焼いたものですよ」


「ほう、それはまた美味そうだな。

相変わらずこの世界の食の発展は凄まじい」

「ですです。美味しいものたくさんです。」


異世界組からすると、食が豊からしい。

佐藤は近くの居酒屋に電話し、奥の方の席の確保をお願いした。


***********************


店に入った瞬間、視線が集まった。


――正確には、二人に。


「……見られてるですね」


リィナが小声で言う。

猫耳が、ぴくりと動いた。


「うむ。興味の視線だな……なんにせよ悪意は感じぬ」


ダルクはそう言って、周囲を一瞥する。

角のせいで、どうしても目立つ。


(そりゃそうだろうな……)


佐藤は内心で苦笑いを浮かべた。


仕事帰りに寄った、ごく普通の居酒屋。

いつもなら、サラリーマンや常連客で賑わうだけの場所だ。


そこに、

猫耳の獣人と、角の生えた大男が並んで立てば――。


「とりあえず、奥の席を抑えてくれてるみたいなので行きましょうか」

「はいです!」「承知した」


三人は、そっと視線をやり過ごすように席へ向かった。


席に着くと、ほどなくして店員がやってきた。


「ご注文お決まりでしたらお伺いしますー」


「えっと……」


佐藤はメニューを開きながら、二人の様子を伺う。


リィナはすでに楽しそうに紙のメニューを眺めていた。

一方ダルクは、文字の多さに少し眉をひそめている。


「……これは、全て料理名か?」

「そうですね。気になるのを頼めば大丈夫ですよ」


「では、この“とりあえず”とは何だ?」


メニューの上部を指さすダルク。


「“とりあえず枝豆”“とりあえず生”……

“とりあえず”とは、優先度の高い料理という意味か?」


「あー……」


佐藤は一瞬言葉に詰まり、リィナが先に答えた。


「とりあえずは、とりあえずなのです!」

「説明になっていないぞ」


「最初に頼む定番、みたいな感じですね」

「なるほど。儀礼的前菜か」


妙に納得した顔で頷く魔王。


「では“とりあえず生”を三つ」

「ダルクさん、それお酒です」

「酒か。二人は飲むだろうか?」

「ええ、私も生で」「私は梅酒がいいです!ロックで!」

「では“とりあえず生”が二つと梅酒が一つでよろしく頼む」


店員が笑顔で復唱しながら頷く。


「お食事はどうしますか?」

「焼き鳥を……えーっと、盛り合わせで」

「盛り合わせとは、構成を店側に委ねる契約か?」

「まぁ、そんな感じです」


「信用が前提となる取引だな。嫌いではない」


ダルクはそう言って、メニューを閉じた。


「では焼き鳥盛り合わせを一つ。

それと……この“皮”と“砂肝”というのは、どの部位だ?」

「説明長くなりますけど大丈夫です?」

「学習は望むところだ」


リィナはにこにことしながら頷いた。


「ダルクさん、今日はいっぱい勉強ですね」

「うむ。異世界の食文化は奥深い」


佐藤はその様子を眺めながら、内心で思う。

(……普通に飲み会してるなぁ)


**********************


しばらくして、店員が、トレイを手に戻ってきた。


「お待たせしましたー。生ビール三つと、梅酒ロックです」


ジョッキがテーブルに置かれ、同時に、こん、と小気味いい音がした。


「……これが、“生”か。我の世界の麦酒に似ているな」


ダルクは目の前のジョッキをじっと見つめる。

黄金色の液体に、細かな泡が立っている。


「あー、文字だけ見ると同じかもですね」

「ほう……」


恐る恐る、ジョッキを持ち上げる魔王。

角に当たらないよう、やや不器用な動きだ。


「では――」


三人で軽くジョッキを合わせる。


「お疲れさまでしたー」

「お疲れさまです!」

「……お疲れ様、である」


ダルクは一拍置いてから、口をつけた。


「…………ほう」


「どうです?」

佐藤が様子を伺う。


「我の世界の麦酒に確かに似ている。だがこちらのほうが圧倒的に美味い。

これほど冷やしているのも大きな要因なのだろうな」

「たしかに、冷えたビール最高ですよね」

「私はビールの苦さが苦手です。二人とも大人なのです」


「お待たせしました―、焼き鳥盛り合わせですー」

飲み物談義をしていると、再び店員が現れた。

皿が置かれた瞬間、香ばしい匂いが立ち上る。


「……!」


ダルクの目が、わずかに見開かれた。


串に刺さった肉。

照りのあるタレ、塩のきいた焼き目。


「これが……焼き鳥……」


「まずは熱いうちにどうぞです!」

リィナがにこにこしながら勧める。


ダルクは一本取り、しげしげと観察したあと――

意を決したように、口に運んだ。


――がぶ。


「……っ」


一瞬、言葉を失う。

そして、ゆっくりと噛み締める。


「……なるほど」


「どうですか?」

「単純な調理だが、火入れと味付けで素材の力を最大化している。

これは……合理的だ」


「褒めてます?」

「最大級にな」


そう言って、次の一口を迷いなく食べる。

佐藤とリィナも串を手に取る。


「美味しいです!」

「うむ。これは……“串”という形状にも意味があるな」


「え、注目するのそこです??」

「持ちやすく、分配もしやすい。戦場食としても優秀だ」


(戦場に焼き鳥持ち込む魔王、初めて聞いたな……

想像してみると意外と合理的なのか?)


思考に陥っている佐藤の正面で、

リィナがくすくす笑いながら、砂肝の串を差し出している。


「これはコリコリしてるですよ」

「では試そう」


一口。


「……確かに、歯応えがある」

「好き嫌い分かれますです」

「うむ。噛むほどに旨味が出る。これは酒と合わせると良い」


そう言って、自然にジョッキを取る魔王。


その姿は魔王なんかではなく、

週末を楽しむただの社会人そのものだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


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