【EP5】補給の航路、感情の迂回
負のたびに衝突して、
互いを見下ろすように見上げてきた。
だけど、鉄の匂いのするこの補給任務で、
初めて“隣”を意識した気がする。
——アークゼロと、羽賀アカリと、俺と。
これは、戦場よりも少しだけ騒がしい旅の話だ。
翌朝、予報に反して薄曇り。
集合場所の格納庫前には、既に輸送車両が鎮座していた。
タフな装甲と大きな荷台を持つ専用車両——正式名称は「ハーケン輸送甲板車」だったが、俺らは短く「ハーケン」と呼んでいた。教官が言うように、これも訓練の一環だ。相性ってやつを鍛えるらしい。
「遅刻厳禁って言ったわよね?」
アカリは腕組みしたまま、腕時計の針を睨みつける。
完璧に8時ちょうど、彼女は時間通りに来ていた。
俺はと言えば、相変わらずの寝坊常習犯――だが今日は違った。
階段を駆け上がり、息を整えながら格納庫に滑り込む。髪は寝癖で逆立ってるし、制服のボタンは一つ外れている。俺の入場に、アカリの眉がほんの少しだけ上がる。
「ふん、何その体たらく。早速任務遂行能力に疑問符がついたわ」
彼女は冷たく言うが、瞳の奥にはいつもの鋭さとは違う柔らかさがある。
俺はそれをニヤリと流して、リストを手に取る。
「任務は食料・医療品・予備弾薬、あと地元自治体からの応援物資だってさ。荷崩れしないように積んでくれよ?ゼロ、積載補助プログラム開始」
アークゼロの電子声が柔らかく響くと、車両の荷台が自動で開き、照明が点く。機体と機体、人間と機械の連携。こういう瞬間が、やっぱり悪くない。
「私は積載バランスと固定具のチェックをする。あなたは現地交渉と雑用ね。役割分担は明確に」
アカリは既に手袋を装着して、リストとペンを厳密に合わせる。きっちりとした動きだ。
「雑用って言うなよ。俺は交渉の天才だって、昨日も言っただろ?」
俺は胸を張るが、アカリは鼻で笑うだけだ。とはいえ、彼女が自分の役割に取り掛かる手際の良さを見ていると、妙な安心感が湧く。いつもの挑発的な口調の裏にある有能さが、俺には分かるからだ。
出発前の点検は長引かなかった。アークゼロは外装の細部までチェックを終え、ハーケンのエンジン音が低く唸る。
教官から渡された簡易ミッションブリーフには、ルートAが最短だが民間トラックの流れが多く時間が読めない、とあった。ルートBは遠回りだが交通が安定している。アカリは地図を広げ、指でルートBをなぞる。
「効率はBよ。リスクが少ない。余計な被害を避けるのが補給の第一義」
彼女の指先は正確だ。だが俺は地図の片隅に小さな未舗装の抜け道を見つけると、つい唇が緩む。
「抜け道が使えれば、時間短縮できるんだけどな。ちょっとした冒険ってやつさ」
言い方は軽いが、アークゼロのセンサーは微妙な反応を拾う。アカリの目がピタリと止まった。
「大田、あなたは本当に……」
言葉がそこで切れる。彼女は唇を噛み、そしてついに小さな溜息を吐いた。
「いいわ。あなたがやるなら私が航行計画を監督する。ただし、センサーの異常が5%でも増えたら即座にルート変更。分かった?」
「了解。ゼロ、抜け道の安全走行補助、頼むぜ」
アークゼロの光がぴかりと強くなる。二人と一機、そして一台の輸送車が、狭い格納庫からゆっくりと道路へと出た。
道中、雑談の類は最小限だった。アカリはデータを読み、俺は運転席でハンドルを握る。
会話の合間に流れるのは、ラジオの静かな音とエンジンの低い振動だけ。
だが、その静けさが心地よい緊張を生む。互いに言葉を選びながら、確実に距離は縮まっていた。
抜け道に入ったのは、予想より細い路地。舗装が荒れていて、荷物の固定に気を使う。アークゼロは車両の挙動を先読みして微調整を指示し、アカリは荷崩れのリスクを計算する。俺はハンドルに集中して、タイヤが小さな溝を超えるたびに体を預ける。
そのとき、遠くから金属と金属がぶつかるような音が聞こえた。人の声も交じる。道路の先端、薄暗がりの向こうに数台の廃棄トラックが横たわり、人影がちらついている。
「路上での妨害かもしれない。こちらは非武装の補給車両、接触は避けたいが…」
アークゼロの声が静かに告げる。アカリは眉を寄せ、すぐに通信端末を開く。
「私が先導して迂回計画を立てる。大田、あなたは車両のカメラで人数と装備を確認して。ゼロ、感知範囲を最大化して」
彼女の声は冷静そのものだ。だが、その背後で小さく震えるものがあるのを、俺は見逃さない。——本当に、心配してるんだな。
「わかった。……でも、もし何か起きたら、俺が前に出る」
俺の言葉に、アカリの瞳が一瞬揺れる。
「無茶はやめなさい。そういうところがあなたの弱点よ」
彼女の声には揶揄が混じるが、続けて小さな、しかし確かな確信が付け加えられた。
「でも、私はあなたと一緒に戻ってくる。任務を全うするために」
車は静かにスピードを落とし、二人と一機は互いの存在を確かめ合いながら、薄暗がりへと踏み込んでいった。緊張が高まる中、俺の胸の奥で何かが熱くなるのが分かった——それは武器でも戦術でもない、ただ単純に、隣にいる奴とやり遂げたいという衝動だった。
影の先で、予期せぬ局面が二人を待ち受けている。だがそれは、まだ幕開けに過ぎなかった。
お読み頂きありがとうございます!
今回は「人間の想い」を書かせて頂きました。
初めての作品で、自分の妄想を文章にするのに悪戦苦闘しております。
次話完成次第投稿していきますので宜しくお願い致します!




